社会運動、「内部者」として貢献 喜ばしい一方で…距離に悩む専門家

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社会学者・富永京子=寄稿
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Re:Ron連載「あちらこちらに社会運動」第5回【おもし論文編】

 9月に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説虎に翼」を楽しく見た。さまざまな切り口から論じることができるドラマだが、社会運動研究者としては、女性裁判官である主人公・寅子たちが、同じく女性の権利のために専門知を生かし、女性の財産権や、尊属殺重罰規定といった問題に関わりながら社会変革を行おうとする姿がとても頼もしく、また興味深く思えた。

 弁護士をはじめとして、マイノリティー当事者の中でも専門知を有する人々や、専門職の人々が社会運動に関わることは多い。例えば、性的マイノリティーの弁護士による同性婚や同性パートナーシップといった制度のための活動や、外国ルーツの研究者によるエスニシティーをめぐる社会問題への関わり、リプロダクティブヘルスアンドライツ(自分の身体にまつわる事柄を自分自身で選択し、決められる権利)に携わる女性医師の活躍などが代表的な例だろう。

 こうした例はもちろん日本だけではない。アメリカでは、家庭内暴力に抗議する「The battered women’s movement」やセクシュアルハラスメントへの抗議行動において女性のソーシャルワーカーや女性弁護士が活躍した。

 一方、個人として特に関心を引かれたのは、寅子の葛藤の側だ。

 むろんずば抜けた勇気や信念に基づいて行動しているものの、一方で彼女の職業人生には多くの「揺らぎ」が見られる。裁判官という職業上の立場では、社会的に弱い立場に置かれた人々の権利を守ろうとする信念だけでは職務を全うできない場合もある。

 当事者性を共有する専門職・専門家と社会運動の関係は、利害も感情も共有してしまえるからこそ難しい部分もある。社会運動をするにあたって、社会的立場の特殊性や専門知など、他の人が持たないタイプの資源を有するため重宝されやすい。だが、だからこそ孤立や重責を抱えやすいのが専門職や専門家の宿命と言える。

専門家であり参加者である「葛藤」

 専門職や専門家の運動参加を対象とした論文は社会運動研究でも数多くあるが、1人の専門家にフォーカスし、その人が社会運動に参与する際の心の「揺れ」や、専門職・専門家である自分と社会運動参加者である自分の立場の間で生じる葛藤を描いたものが多い。

【今回の論文】サリー・イングル・メリーによる、「人類学とアクティビズム」についての論文

Sally Engle Merry, 2005, “Anthropology and Activism: Researching Human Rights across Porous Boundaries” PoLAR, 28(2): 240-257.

 著者であるサリー・イングル・メリーは著名な法人類学者だ。グローバルな人権問題に関わる数多くの研究を行っているが、研究の中で得た知識と途上国の女性の権利保護運動は共通する部分が多い。そのため、社会運動団体にアドバイザーとして参与したり、社会運動の会合で講演をしたりしているものの、なかなか思ったようにいかないことに悩む。

 メリーが最初に経験した戸惑…

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