社会に張り巡らされた「ルール」には、いつどのように生まれたのか分からないものも少なくない。電車内のマナーもその一つだ。「会話は控えめに」「リュックは前で持とう」「イヤホンの音漏れに気をつけて」……。なぜ、車内は「やってはいけないこと」だらけなのか。どうしたら他人のマナー違反に寛容でいられるのか。電車内のマナーについての著書がある社会学者の田中大介さんに聞いた。
「電車で怒られた!」著者の社会学者・田中大介さん
――ここに来る途中にも、電車の中で隣の人の髪の毛が顔にあたって「ちっ」と思ってしまいました。なぜ電車の中だと、他人に厳しくなってしまうのでしょうか。
特に通勤・通学の電車でそうなりがちですよね。それには二つの要素が重なっています。一つは、多くの人が「嫌だけど行かなければ」という思いがあり、心が狭くなっていること。もう一つは、他人と近い距離で、長時間同じ空間で過ごさなければならないことです。ちょっとした動きにも神経質になってしまいます。
これが長距離電車や休日になると、旅行に行く人や遊びに行く人もいて、空気が緩む。通勤電車は乗客の同質性の高さも緊張感を高めているように感じます。一方で、私は家族旅行に向かう休日の電車内で、子どもを前に抱えてリュックを背負っていたら、「バッグがあたってんだよ!」と怒声を浴びたことがあります。休日だったらマナーから解放されるわけではありません。
――そもそも、誰が決めたマナーなのでしょうか。
大きく二つに分けられるでしょう。一つは、事業者側の呼びかけです。「駆け込み乗車はしない」「黄色い線の内側に立つ」など、安全性や効率的で安定した運行を目的としたものが多い。もう一つが、利用者側の不快感から生まれるものです。例えば、「イヤホンからの音漏れがうるさい」という不満が利用者の間で水面下で広がり、マナーとして定着する。
その過程に、マナーを説く標語、ポスター、新聞や雑誌の投稿欄など様々なメディアが存在します。そうしたコミュニケーションの空間があって、「問題だよね」「気を付けようね」と徐々に共通認識になる。そこで「マナー論争」もしばしば起こりますよね。
「ゴミは座席の下に」「編み物は危ない」
――「リュックを前に抱える…