「耳を傾け過ぎる政治」が招いた機能不全 岸田政権発足2年のリスク

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社会学者・西田亮介=寄稿
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Re:Ron連載「西田亮介のN次元考」第4回

 「令和版所得倍増計画」のことを覚えていますか?

 今月初めに在任期間が2年なった岸田文雄首相が、2021年の自民党総裁選で掲げた「公約」である。だが今、この計画が話題になることはほとんどない。

 「令和版」とうたうからには“本家”がある。もともとの「所得倍増計画」は、岸田首相が率いる派閥・宏池会を旗揚げした池田勇人氏が掲げた経済政策で、同氏が首相になった1960年に「国民所得倍増計画」として閣議決定されている。岸田首相はいわばこれを今風にアレンジしたわけである。

 池田氏の計画は前倒しで実現し、日本に高度成長をもたらした。これに対し、岸田政権の発足から、国民所得が(今なら国内総生産にあたるだろうが)、倍増する気配はみじんもない。それどころか、物価高騰のあおりで1年以上にわたって実質賃金は減り続けている。

 ちなみに岸田首相の「令和版所得倍増計画」は看板を微妙に変えながら、いまでも生きていることになっている。いつの間にか「令和版資産所得倍増計画」となり、同計画に基づく「資産所得倍増プラン」は岸田政権の四つの「主要政策」の一つである「新しい資本主義」の柱になっているのだ。ご存じでしたか?

看板は借りるが中身は別

 留意すべきは、「所得倍増」と「資産所得倍増」の意味するところは全く違うという点だ。後者はそもそも金融資産を有しているものにしか関係がない。日々のやりくりに苦労する多くの生活者には縁遠い話だ。もっと言えば、池田氏が実現した国民所得、今風なら国内総生産の倍増とは無関係なのだ。

 ほんの2文字付記しただけで、うそとまでは言わないが、中身は大きく変わっている。そして、それを今では誰も記憶していないどころか、認識すらしていない。

 「令和版所得倍増計画」について、岸田首相は参議院での答弁で「一部ではなく、広く、多くの皆さんの所得を全体として引き上げるという、私の経済政策の基本的な方向性」を示したネーミングであり、「池田内閣(当時)の計画のような具体的な数値目標を盛り込んだ経済計画を策定することは現時点で考えていない」と言っている。看板は借りるが、中身は別ということか。

 かつてバズった看板の借用と…

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