ロシアのサイバー攻撃、始まりは1月14日 ハイブリッド戦の舞台裏
サイバー空間では、ロシアとウクライナの間でどのような攻防が繰り広げられてきたのでしょうか。ウクライナへの軍事侵攻が注目される裏側で、ロシアは数々のサイバー攻撃も同時に仕掛けてきたといいます。対策の先頭に立ってきたウクライナ国家特殊通信・情報保護局のビクトル・ゾラ副局長に聞きました。(キーウ=高野遼)
――ロシアによる侵攻が2月に始まって以降、どのようなサイバー攻撃があったのでしょうか。
ロシアのサイバー攻撃が始まったのは1月14日でした。2月24日より前から戦いは始まっていたのです。
まずはウクライナ政府のウェブサイトへの一斉攻撃でした。複数の政府機関に対し、ワイパー型といわれるマルウェア(悪意を持ったプログラム)により、データを削除し、システムを破壊するものでした。
ウクライナのサイバー空間を混乱と不安定に陥れ、偽情報を流布するために明らかに組織的に準備された攻撃でした。この1月14日こそ、ロシアによるハイブリッド攻撃の出発点だったと考えています。
Viktor Zhora
1980年生まれ。ウクライナ国家特殊通信・情報保護局(SSSCIP)副局長。キーウ国立工科大学卒。民間企業でサイバーセキュリティーに長く関わったのち、21年1月から現職。
2月に入ってもウクライナの銀行や政府系のウェブサイトへの攻撃が続きました。
そして2月24日、軍事侵攻が始まると同時に、サイバー空間では通信衛星「KA-SAT」の通信ネットワークへの大規模攻撃が起きました。これはウクライナ軍が使用するネットワークで、軍の通信を妨害するための攻撃でした。まさに軍事攻撃が始まった最初の数時間での出来事でした。
攻撃件数が急増、通信や電力が標的に
――その後もサイバー攻撃は続いたのでしょうか。
侵攻から最初の1カ月で、サイバー攻撃の件数には顕著な増加がみられました。過去の同時期と比べて2.5倍から3倍に及びました。なかには、軍事攻撃とサイバー攻撃を連動させて同じ標的を狙うパターンも複数回、確認されました。
ただ、そこまで巧妙な攻撃ではなかったので、深刻な被害が出なかったのも事実です。
ロシア軍はミサイルなどの通常兵器による攻撃だけで、ウクライナに容易に十分なダメージを与えられると想定していた可能性があります。高度なサイバー攻撃までは必要ではないと考え、長期で本格的なサイバー攻撃は準備をしていなかったのではないかと考えています。
――想定したほど強力なサイバー攻撃はなかったのですね。
多くの人は、ロシアが大きな「赤いボタン」でも持っていて、即座にウクライナのインターネットを遮断したり、基幹インフラを攻撃したりできると誤解しています。サイバー攻撃はそんなに容易なものではありません。
ただ、侵攻から1カ月が経った3月下旬ごろからは主要インフラを狙った危険な攻撃が相次ぎました。
3月28日の大手通信企業「…
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