「ニューヨークと日本の経験が私を形作っている」久保純子さんインタビュー【後編】 | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
久保純子 LIFE in Tokyo(「久保純子 LIFE in N.Y.」番外編)
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「ニューヨークと日本の経験が私を形作っている」久保純子さんインタビュー【後編】

NYから東京へ一時帰国していた久保純子さん。思い出の場所、井の頭公園を訪れました。「人生の基盤をつくった」という井の頭公園での思い出や、ニューヨークと日本で暮らして感じた違いなどを語りました。前・後編にわたってお届けします。

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異文化体験から学んだ「自ら行動を起こす重要性」

——井の頭公園を拠点に海外と日本を行き来する生活が小学生から始まったそうですね。この経験が現在の久保さんにどのようにつながっているのでしょうか。

小学校1年生の時に、両親が井の頭公園近くに一軒家を購入し、そこから私の人生の冒険が始まりました。小学校4年生から中学1年生まで家族でイギリスで過ごし、その後地元の中学校に通いました。高校ではアメリカに単身留学し、帰国後は慶應義塾大学に進学しました。この「行ったり来たり」の経験が、現在の私の人格形成に大きな影響を与えたと考えています。

小学生時代のイギリス滞在は、私にとって初めての本格的な異文化体験でした。英語という新しい言語に触れ、さまざまな国籍の人々と交流する機会を得ました。イギリス人はもちろん、バングラデシュ、ドイツ、オランダ、フランスなど、多様な背景を持つ人々との出会いは、新鮮で刺激的でした。

「ニューヨークと日本の経験が私を形作っている」久保純子さんインタビュー【後編】

例えば、バングラデシュの女の子が着ていたキラキラのビーズがついた洋服が可愛らしくて、とても印象に残っています。また、イギリスで初めて飲んだ紅茶の味は特別なものでした。見るもの、感じるもの、食べるもの、触れるもの、全てが新鮮で、五感を通じて多くの「初めて」を経験しました。

——その海外経験からどのようなことを学ばれましたか。

最も大きな学びは、「自ら行動を起こすことの重要性」です。イギリスでの生活では当初、言葉が通じず内向的になっていました。それまでおしゃべりで活発だった私が、貝殻に閉じこもったように言葉が話せなくなってしまいました。しかし、このままではいけないと気づき、それからは友達作りに奔走しました。たとえば当時、イギリスでは珍しかった匂い消しゴムなどの文房具をお披露目したり、浴衣を着て学校に行ったりと、自分なりの工夫を凝らしました。

この経験から、待っているだけでは何も始まらない、自分から一歩を踏み出さなければ人生は切り開けないということを身をもって学びました。母がパワフルな女性で、常に新しいことに挑戦する姿を見て育ったことも、この開拓精神の源になっていると思います。

高校時代のアメリカ留学では、ホストファミリーとの生活を通じて忍耐力と適応力を養いました。必ずしも理想的とは言えない環境の中で、様々な困難に直面しました。泣くことも多く、ストレスから体重が増えたり、白髪が生えたり、生理が止まったりと、まさにサバイバルの日々でした。40年以上前のことで、今のように簡単に日本と連絡を取ることもできない状況でしたが、それでも諦めずにやり抜く力を培いました。

「この瞬間は二度と戻ってこない」という意識

——久保さんはニューヨークでも、様々な場所を訪れ多くのことに興味を持って活動されていますが、どのようにアンテナを張っていらっしゃるのでしょうか。

常にアンテナを張り巡らせるよう心がけています。これは&wの連載のおかげでもあります。日々の生活の中で「昨日と今日はどう違うのか」「去年と今年で何が変わったのか」といった視点を持つようになりました。

「ニューヨークと日本の経験が私を形作っている」久保純子さんインタビュー【後編】

たとえば、コロナ禍前後のアメリカの変化や、大統領選挙がもたらした社会の変容など、普段なら見過ごしてしまいそうな細かな変化にも注目するようになりました。食料品の価格一つとっても、「なぜこのキャベツが高くなったのだろう」と考えるようになり、そこから社会情勢や経済状況を読み解こうとする習慣が身についたと感じています。

——久保さんのように気づきをアクションにつなげるには、どのようなことを心がければよいでしょうか。

「この瞬間は二度と戻ってこない」という意識を持つことが大切だと考えています。同じ場所を訪れても、その時々で雰囲気や光景が異なります。その瞬間を大切にし、常に新鮮な目で周囲を見つめるように心がけています。

また、「後でできる」と思って先延ばしにしがちなことも、できる限りその場で行動に移すようにしています。例えば、興味深い光景を目にしたら、すぐにメモを取ったり写真を撮ったりします。それが後々、思わぬ形で役立つことがあります。

さらに、周囲の人々からの情報も大切にしています。友人や家族が教えてくれる新しい場所やイベントなどは、貴重な情報源となっています。例えば、最近書いたコミュニティーガーデンの記事は、長女が教えてくれた情報がきっかけでした。

「ニューヨークと日本の経験が私を形作っている」久保純子さんインタビュー【後編】

日本は「こたつ」のような存在

——改めてニューヨークと日本との違いや、双方の良さを教えてください。

日本の良さは、人々の温かさや思いやり、そして深い文化や伝統にあると感じています。日本らしさとは、人々の親切さや礼儀正しさ、そして社会全体の秩序ある雰囲気だと思います。デパートの開店時の丁寧な挨拶(あいさつ)や、お客様への心配りなど、日本特有のおもてなしの心に触れると、本当に心が温まります。

一方、アメリカ、特にニューヨークには、底知れないエネルギーがあると感じます。地下から湧き上がるような力強さを感じ、常に何かを成し遂げようとする人々の姿勢が印象的です。年齢に関係なく新しいことに挑戦する人が多いことや、自分の意見をはっきりと述べる文化など、日本とは異なる魅力があります。

——その両方の文化が久保さんにとって重要なのですね。

日本は心の休まる場所、いわば「こたつ」のような存在です。ここでは安心感に包まれ、ゆったりとした時間を過ごすことができます。一方、アメリカは常に前進を促す場所で、馬に乗っているような感覚があります。絶えず周囲に気を配り、立ち止まることなく前に進み続けなければならない、そんな緊張感があります。

この二つの異なる環境が、私の中でバランスを取っています。安らぎを求める自分と、常に新しいことに挑戦したい自分、この両面が共存しており、それが現在の私を形作っているのだと思います。

「ニューヨークと日本の経験が私を形作っている」久保純子さんインタビュー【後編】

——これから取り組みたいことをお聞かせください。

特に健康管理に注力したいと考えています。日本滞在中は運動量が減りがちですが、ニューヨークに戻れば自然と歩く機会が増えます。日本では気づくと7000歩程度しか歩いていないこともありますが、ニューヨークでは2万歩も珍しくありません。

また、季節ごとの楽しみも大切にしています。寒さが厳しくなる前に、NYから少し足を延ばしてメイン州でロブスター料理を楽しむ旅行を計画しています。イカ釣りにも挑戦したいです。夜7時に漁船に乗って、真夜中にかけて釣りをするそうで、実現すれば初めての体験です。12月になるとクリスマスのイベントも増えてきます。さまざまな体験を、また連載でお届けしていければと考えています。

前編はこちら

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