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贈りたかった好きな野花を　控えめで芯が強かった母に似たシオン

LIFE 2024.10.31

東信
フラワーアーティスト

1976年生まれ。2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「J …
S.S.

椎木俊介
ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を …

フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか？　エピソードのご応募はこちら。

〈依頼人プロフィール〉
島倉類子さん　55歳
キャリアコンサルタント
神奈川県在住

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母のことを一言で言い表すならば「利他の人」でした。長年小学校の教員を務め、何かするのはいつも他者のため。娘の私には時に厳しく、それでも最大の理解者でいつも応援してくれた。私にとって尊敬する人であり、姉妹、親友のような存在でした。

私が中学生の頃、住宅街にできたお花屋さんに、お小遣いをためてお花を買いに行くのが楽しみな時期がありました。自転車のカゴいっぱいのかすみ草を買った記憶は、今も鮮明に思い出されます。

一方で母は、花より団子の人。ある日、そんな母にも、記念日ではないけれどお花を贈りたいと思いつき、好きな花を聞いたところ、「シオン」との答え。家にある植物図鑑で確認し、いつもの花屋に向かうと……ありました。派手なことを好まず控えめな、一方で芯が強く凛（りん）とした女性。そんな母のイメージと重なって、シオンが好きだということに、妙に納得した覚えがあります。

コロナ禍と同時に、母親がスキルス胃がんに侵されていることが分かったのは80歳の誕生日直前でした。高齢ではあるものの、ガン以外は健康な母は気丈にも現実を受け入れ、手術やつらい治療にも耐えながら、5年は生きる、と寛解することを目標にしていました。

術後は徐々に国内旅行にも行けるようになり、秋にはコスモスを見に行く約束をしていたのに。それでも病魔は追ってきました。

ガン進行の典型らしく、一見、日常生活が送れているように見えていたのに、突然、自由を奪われました。歩けなくなり、食べられなくなり。日に日に弱るなかでも「次の桜を見るまでは」と、病魔と闘っていました

そして緩和ケア病棟に入院したのが去年の10月。そのときに必死にシオンの花を探しましたが、あいにく仕入れはないと何軒かの花屋にも言われました。まもなく母と過ごした、最後の数週間が訪れました。

去年のいまごろ方々を探し回ったけれど、贈れなかったシオンの花。いつかどこかで目にすることが出来れば、母をしのぶことができるかなと思い、今も花屋をのぞく日々を過ごしています。