トルテッリーニをボローニャで 繊細な味の秘密
【新連載】イタリアはなんといっても愛の国! 一皿の料理にかける愛も情熱も並々ならないものです。食べてみると、美味しさの奥深くにどこか知らない隠し味がある。イタリアで暮らす俳優・渡辺早織さんがそんなイタリアの愛に溢れた料理と、とっておきの味の秘密にせまるイタリア料理紀行です。
自家製生パスタの文化が残る街
イタリア。
地中海の気候に恵まれたこの国は、オリーブオイルにワインなど数えきれないほどのおいしい食材に出会うことができる。さらにその素材を活(い)かしてシンプルながらそれ以上はないという調理法で食材のおいしさを頂点に引き上げる。
世界から愛され続けるイタリア料理。
「知っている食材のはずなのに、なんでこんなにおいしくなるんだろう!」
毎日がそのトキメキの連続で、私はここイタリアでその秘密を解き明かすべく、美食の冒険の真っ最中だ。
今日訪れたのはボローニャ。
美食の街として有名なここボローニャに訪れた理由は友達に会うためだ。
「到着したら家でトルテッリーニを食べよう」
その言葉を楽しみに朝食のコルネットは我慢して、車を走らせ向かったのだ。
ボローニャのあるエミリア・ロマーニャ州は、自家製生パスタの文化が根強く残るイタリアの中でも数少ない地域だ。
休日に家族が集まるときや、誰かが来たときには家で生パスタ生地を手打ちしもてなしてくれる。
今回は友人の叔母さんが手作りのトルテッリーニを作ってくれたのだ。
トルテッリーニとは「ボローニャといえば」の名物の伝統料理で、中にお肉やチーズが詰められた小さなラビオリのようなパスタだ。
イタリア料理の特徴の一つは、土地のものを旬のおいしく栄養価が高い時期に食べること、そして名のあるシェフが独創的にアレンジするよりも、シンプルに少ない素材でおいしく作ることの方が好まれる傾向にある。
だからこそその土地に根付く郷土料理の文化が今でも強く、さらには家庭の味である「マンマの味」、ひいてはおばあちゃんから受け継がれる「ノンナの味」がとても大切にされていて、地元の人にとっては、どこのお店で食べるよりも結局は自分の家庭に伝わるレシピが一番なんだ、ということを教えてくれた。
上品ながらものすごいインパクト
これぞ、ボローニャを代表する名物料理「トルテッリーニ イン ブロード」だ。
トルテッリーニが澄んだコンソメスープに浮かぶ一見シンプルな料理だが、一口食べてみると、おどろいた。
なんて奥深い味わいをしているのだろう。
トルテッリーニはあんなに小さいのに、その中に詰められた旨(うま)みの大きさは口の中ではおさまりきらないような、上品ながらものすごいインパクトをもっている。
普通のお肉とは決定的に何かが違う。知っているようで知らない味だ。
感激して中に何が入っているのか聞いてみると、ボローニャ名物のソーセージであるモルタデッラを使っているとのこと。
モルタデッラは淡いピンク色をしたしっとりと優しい唯一無二の味わいが特徴だ。
そのまま食べても止まらないおいしさのこのモルタデッラを、贅沢(ぜいたく)にトルテッリーニの中に使っているからこその上品な味。
きっとプロシュートや挽(ひ)き肉だけを使ったらこの繊細な味にはならないだろう。
トルテッリーニのおいしさの秘密は、モルタデッラにあり。
このトルテッリーニの上品さをつぶすことなく、より一層引き立てる繊細なブロードの仕事も素晴らしい。
聞いてみると牛肉や香味野菜を少なくとも4~5時間煮込んでいるそうだ。
「実はラグーのパスタも作って…よければ食べてくれる?」
と控えめに提案してくれるその友達家族のご両親に甘えて日が暮れるまでたっぷり食べて話してボローニャを満喫した。
モルタデッラを買ったら私にもトルテッリーニが作れるかな…?
帰り際、恋しくなるだろうからとふと頭をよぎったけれど、いや、ノンナの味には絶対にかなわない。
「また食べにきます」と約束してボローニャを後にした。
次はどんな料理に出会えるかな。
ボローニャの動画はこちら
https://youtu.be/9gs4r4SFxoo
素敵な記事!
これからも楽しみにしております。