「井の頭公園は人生の基盤をつくった“庭”」 久保純子さんインタビュー【前編】
NYから東京へ一時帰国していた久保純子さん。思い出の場所、井の頭公園を訪れました。「人生の基盤をつくった」という井の頭公園での思い出や、ニューヨークと日本で暮らして感じた違いなどを語りました。前・後編にわたってお届けします。
井の頭公園での経験は、私の人生の基盤
——今日は思い出の場所として井の頭公園にいらっしゃっていますが、この地域とはどのようなつながりがあるのでしょうか。
このあたりには本当に思い出がいっぱいあるんです。元々は世田谷の太子堂で生まれたのですが、小学校1年生の時に、両親が井の頭公園の近くに一軒家を購入し、引っ越してきました。それ以来、地元の小学校と中学校に通い、一時期家族でイギリスに住み、高校ではアメリカに留学しましたが、戻ってからも結婚するまでここから仕事に通っていました。NHKへも、井の頭線に乗って通勤していたんです。
井の頭公園での経験は、私の人生の基盤となっています。初めてボートに乗ったり、動物園や植物園に行ったり学校の遠足でも訪れたりと、様々な「初めて」がこの公園で経験できました。デートの思い出もありますし、学生時代の思い出のほとんどがここにあるような気がします。
——引っ越してきた当時のことを覚えていらっしゃいますか。
はい、よく覚えています。それまでは全く知らない土地でしたが、来てみると緑がいっぱいで、自然の恵みに囲まれていました。家には小さな庭がありました。だから、新しい土地に住むという緊張はあまりなかったですね。
この引っ越しで、初めて自分の部屋をもらったんです。ちょっと高台になっているところだったので、その部屋から見下ろす景色も好きでしたし、何よりもマイルームがあるというのは贅沢(ぜいたく)でした。
——ご両親がこの地域を選んだ理由はご存じですか。
母がかつて、津田塾大学に通っていたんです。毎日、中央線に乗って、吉祥寺経由で実家の太子堂に戻るということをしていたようで、母自身もこのエリアに憧れがあったみたいですね。
公園内にベンチ、両親にとっても大切な場所
——井の頭公園での学生時代の思い出を教えてください。
特に懐かしいのは、中学生の時に友達やボーイフレンドとアヒルのボートに乗ったことですね。それが最高の楽しみでした。あとは、公園内の寺院にまつわる伝説で盛り上がったり、盆踊りで出店が出たりするのも楽しい出来事でした。
中学1年生くらいからは、自由にここを自分の庭として遊んでいました。動物園や競技場など、公園内のあらゆる場所を熟知していました。中学校のマラソンコースも公園内にあったので、毎朝走っていましたし、通学でも井の頭公園を通っていました。
——公園の様子は当時から大きく変わっていませんか。
ほとんど変わっていないんですよ。変わったのはおしゃれなカフェができたくらいで、道路が少し整備された程度です。自然はそのままで、この間来た時も蛇がいましたし。四季折々の風景、特に桜の季節がきれいなんです。紅葉もそうですね。
実は、両親が約20年前に公園内にベンチを寄付したんです。名前が刻まれていて。両親にとっても大切な場所なので、何かを残したいという思いがあったんだと思います。
安心感と自然の美しさ。変わらない魅力
——吉祥寺の街についても思い出をお聞かせください。
吉祥寺には本当によく行きました。買い物はもちろん、アイスクリームを食べたり、映画を見たり、友達へのプレゼントを買ったりしました。東急デパートや近鉄デパート、伊勢丹などがあって、買い物の中心地でしたね。渋谷には行かず、何でも吉祥寺で済ませていました。
焼き鳥の「いせや」やメンチカツの「さとう」など、昔からある名店も多いですし、吉祥寺パルコや駅ビルの「ロンロン」にも行きました。今はなくなったお店もありますが、街の雰囲気自体はあまり変わっていないように感じます。
——吉祥寺が多くの人に憧れられている理由は何だと思いますか。
小さな範囲にいろんなものが凝縮されているのが魅力だと思います。買い物をするお店もたくさんあるし、レストランも、デパートも、映画館も、ボウリング場もある。ここにすべてがそろっているという便利さがありますね。
それに、独特のカルチャーがあります。古着が好きな人には古着屋さんがあるし、アニメファンにはキャラクターグッズのお店がある。パンケーキ好きにはおいしいカフェがある。それぞれの人のこだわりに応えてくれる街だと思います。
——地元のご友人たちとは今でも交流があるそうですね。
小中学校からの友達とは今でも付き合いがあります。みんなまだこのあたりに住んでいるんです。私がニューヨークから帰ってくるとみんなで集まって、一緒にご飯を食べに行ったりします。小学校1年生から一緒の仲間がずっと同じところにいてくれる安心感は本当に大きいです。
——お子さんとも井の頭公園や吉祥寺を訪れることがあるそうですね。
はい、結婚してからは夫や子どもたちと季節ごとに帰ってきては、両親のところに行って散歩したり、吉祥寺で食事をしたりしています。長女は最近、友達と飲みに来ていたそうです。いろんな世代が楽しめる場所になってきましたね。
去年は22歳になった娘と「いせや」に行きました。娘は焼き鳥が大好きで、2人でビールとハイボールを飲みました。「いせや」も少しは変わりましたが、以前とほぼ同じ雰囲気で、楽しかったです。
——久保さんにとって井の頭公園や吉祥寺の魅力はなんでしょうか。
安心感と変わらない魅力、そして自然の美しさですね。私たちが住み始めてから45年以上経っていますが、この街の魅力は本当に変わっていません。季節ごとの自然の美しさを楽しめるこの場所は、私の永遠のふるさと、永遠のホームグラウンドです。
取材・文:池田美樹
写真:篠塚ようこ
井の頭公園に行った事がないので、いつか行って思い出のベンチに座って景色を楽しみたいです。みどりが美しい公園ですね。