なぜか惹かれて 永瀬正敏が撮ったニューヨーク(287)
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回もニューヨークでの一枚。普段は気づきもしなかっただろう場所で、なぜか惹(ひ)かれた風景とは。
電信柱に重なるように貼られた、
フライヤーや広告。
マンハッタン、ブロードウェーから、
何本か横に外れた路地。
行き交う人々には目もくれられず、
ボロボロになりながら、
時に風になびいて、
そこにひっそりと存在していた。
簡潔で強い主張は、
見向きもされずきっとまたあっという間に、
貼り重ねられ、埋もれていくのだろう。
僕も普段は気づきもしなかったかもしれない。
気づいたとしても漠然としか、
何を求めているかきっとわからない。
ただ求人やその他の広告が、
電柱に貼られているだけ。
誰かこれを見て連絡する人がいるのか?
そう疑心暗鬼にしかならなかったと思う。
しかしその時はその姿になぜか惹かれ、
おもむろにシャッターを切った。
理由は思いつかない。
それでも僕はシャッターを切った。
真夜中近くの街角で出合った風景。
もうすぐこの街も眠りにつく。
電柱に貼られている、ただの求人やその他の広告。
確かに普段は気づきもしないし、見向きもしないと思います。
でも、それを頼りにしている人も少なからずいるのかとも思いました。
後ろに並ぶ光と街に溶け込んでる自然な二人と主役の貼り紙がなびく電柱。
なんてお洒落なバランスのとれた1枚だろうと惹かれました。
よく見れば求人情報欄を破って持ち帰った人がいたような形跡が…
日本のように切り取りやすくなっていないのも場所柄っぽくて良いですね。