人生の後半をどう生き、次の世代に何を託すのか 野村友里さん×UAさん対談(後編) | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
野村友里×UA 暮らしの音
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人生の後半をどう生き、次の世代に何を託すのか 野村友里さん×UAさん対談(後編)

野村友里さん(左)と、UAさん

東京に暮らす料理家の野村友里さんと、カナダの島に暮らす歌手のUAさん。ふたりが2017年の秋から続けてきた往復書簡の連載『暮らしの音』が最終回を迎えました。連載を終えたふたりが再会したのは、友里さんが、11年間営んできた「restaurant eatrip」を経て、2024年7月に祐天寺に新しくオープンしたお店、「babajiji house」でした。

対談前には「この街を案内したい」という友里さんの提案で店の周りをともに歩いたふたり。近くの幼稚園の敷地内に生える大きな楠に挨拶(あいさつ)したり、昔からこの街に残る茅葺(かやぶ)き屋根の痕跡をとどめた家を見たり、地元の人たちが行き交う商店街の活気に触れてみたり。それは、時代は変わっても、昔から今につながる風景の中に私たちは生きているのだということを感じ取るようなひと時でした。この7年間の連載の途中で、ふたりは50歳を迎え、今、人生の後半を歩んでいます。人間は限られた命だからこそ、これから人生の後半をどう生きるのか、そして次の世代に何を託せるのか。そんな話が中心となった対談後半は、まるで、ふたりの「往復書簡」の終わらない続きを読んでいるようでもありました。

人生の後半をどう生き、次の世代に何を託すのか 野村友里さん×UAさん対談(後編)

時間を重ねてこそ伝わるもの

―11年間営んできたeatripを2023年末に閉めたときの心境を、友里さんは、The Little Shop of Flowersとの共著『神宮前で過ごした11年』の中で、「終わりは決して、遮断ではない」と書いています。「すべてはつながっているから、形を変えて、何度でもやり直せばいい。新しく生まれるその中に、変わらないものが必ずある」と。その言葉がとても素敵だと思ったんです。

野村:私は、「時間」を味方につけたいなと思っているんです。すぐできることではなく、10年やって実感したことがいっぱいあったから。例えば映画『eatrip』(2009年)をつくったときも、何をいきなり映画とかつくっちゃって、という人も多分いっぱいいたと思うんだけど、でもいまだに自主上映をしたいと声をかけられたりする。ずっとやり続けることで、確信に変わったり、認められたりすることになるから。

―eatripはほんとうに素敵なお店でしたね。

野村:幻みたいだよね。

―エントランスからレストランの扉に入っていくときの雰囲気、花屋さんがあったこともそうですが、そこにあるものがそこだけで完結しない、外側の世界や未来とつながっている感じが、あの森の中にはありました。

UA:エアポケットみたいな感じよね。なんか、神宮の杜(もり)と被るね。

野村:私もそう思う。

人生の後半をどう生き、次の世代に何を託すのか 野村友里さん×UAさん対談(後編)

―往復書簡の中でも友里さんは、明治神宮の杜は100年先に森が残るようにと多種多様の木々を計画的に植えられたと書かれていましたが、100年後には私たちはもう誰も生きてないわけで、だからこそ、今生きてる私たちは、自分がもうそこにはいないことを含めて、その未来を考える。そういう想(おも)いがeatripにもあった気がして、店としての形はなくなりましたが、その種みたいなものは、いろんなところにきっと飛んでるんでしょうね。

野村:実際に100年かけてできた森がそばにあったことは大きかったと思いますね。自分もその一部になればいいんだと思えたし、一人で100年背負うのは無理だけど、これをつなげていけばいいんだと思えた。

―そして、今日は、新しくオープンした「babajiji house」での対談でもありますが、店の場所として、祐天寺という街を選んだ理由は何だったのですか?

野村:eatripがあった原宿は、商業施設が立ち並ぶ都市の最先端だったけど、大家さんに聞くと、昔は隣の顔が見えたそうなんです。今は、隣の再開発をやっているのは企業だし、しかも資本が海外だったりもするから、顔が見えない街になってしまった印象がある。だけど一方で、人々の暮らしに近い町というのも東京には本当はあるはずで。 そんなことを考えていたときに、祐天寺の平塚幼稚園の園長先生から、この街はまだ戦後からあまり変わってない風景がたくさん残っていて、土地の地主さんがまだ継続しているということを聞きました。昔の商店街は表で商いをしていて、その店の裏に住んでいて、暮らしと仕事が一緒だったって。

人生の後半をどう生き、次の世代に何を託すのか 野村友里さん×UAさん対談(後編)

―祐天寺という場所に導かれたのは、そういう暮らしが見える場所だったからなのですね。

野村:そうですね。その園長先生と意気投合したこともあったし、「衣・食植・住」展で茅葺きを展示したのですが、この街にはまだ茅葺き屋根の痕跡が残っているなど、いろんなことが奇跡的に重なったんです。養老孟司先生と宮崎駿さんの『虫眼とアニ眼』という本があって、その冒頭には子どもたちと老人が生き生きと暮らす町をイメージした絵が描かれているのですが、それを読んだ時にも、これからの未来、ひとつの町の中で血縁とか関係なく人々がつながっていくことが理想なんじゃないかと思いました。であれば、まずはその可能性がある場所に引っ越して、育てていくことをやってみようと思いました。何ができるかわからないけれど、近所づきあいも含めてやっていこうと。

でもほんとうは、すぐ何かやりたいとは思っていなくて、少しゆっくり考えたいと思っていたんだけど、場所との出会いはタイミングでもあるから、このタイミングで、もう一回、次のステップを踏めるチャンスをもらえたというのはなんてラッキーだったんだろうと思っています。

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