秋風吹く紅葉、仏像、聖地へ……この季節にこそ巡りたい寺院を訪ねる
猛暑も一段落。涼しく出かけられるようになった秋だから、赴きたくなる日本の地があります。紅葉に仏像に聖地――。心ゆくまで風景・風情を味わったり、少しこだわって美しい写真を撮ってみたり、各地での説明に歴史への見識を深めたり。秋風とともに心地よく全てに没頭できる今こそ、あの地へ出かけてみよう。
近江の知る人ぞ知る紅葉の名所へ 早朝の静かな庭園と、聖徳太子創建の寺で紅葉観賞
比叡山延暦寺の門前町として栄えてきた坂本。この地には「里坊」と呼ばれる、延暦寺の僧侶たちが隠居所とした建物が数多くあります。中でも旧竹林院は中を観覧できる数少ない里坊の一つ。格式の高い寺院であったとされ、主屋から広がる庭園は約3300平方メートルの広さを誇ります。2棟の茶室や四阿は大津市指定文化財でもあります。ツアーであれば、一般開門前に参観することが可能。静かな早朝、磨かれた机には美しい日本庭園・紅葉が映し出されます。
聖徳太子が創建したと言われる教林坊は、実は長い間住職が不在でした。山林に埋もれ朽ちていた寺を復活させたのが現住職です。住職不在の寺が気になり竹やぶをかきわけて訪れたところ、太陽の光を受けるもみじの葉、輝く苔むした地面、小鳥のさえずりが聞こえる地を目にし、観音浄土かと思い、復興を決意したといいます。住職も息をのんだ景色は、秋には紅葉に囲まれ圧巻。春と秋のみ拝観が可能なので、ぜひ訪れておきたい場所です。
「源氏物語」はじまりの石山寺
今年話題のドラマの主人公でもある紫式部。式部が『源氏物語』の執筆をはじめたと伝わるのが石山寺です。湖面に映る十五夜の月を眺めながら構想を練ったと言われる同寺は、紅葉も美しいものです。
国宝・重要文化財の仏像を訪ねる旅 奈良・京都の古寺を巡礼し、みほとけに出会う
1300年以上の歴史を誇る、奈良大和四寺(長谷寺・室生寺・岡寺・安倍文殊院)。四寺をまとめて巡る四寺巡礼をする人も多く、散策しやすい秋にはぴったりでしょう。注目は、安倍文殊院。「三人寄れば文殊の知恵」のことわざでも有名な本尊、文殊菩薩像は、通常獅子に乗った姿で約7メートルの高さがありますが、耐震工事のため2024年7月から25年5月まで獅子から降りています。今なら同じ高さの目線の貴重な姿を拝めます。
京都・南山城も古寺巡礼ができるスポット。重要文化財である阿弥陀如来像が鎮座する岩船寺、国宝・釈迦如来像が安置されている蟹満寺、国宝・十一面観音像を拝める観音寺など、みほとけに出会える寺が並びます。浄瑠璃寺では、5年ぶりに九体そろって拝観可能となった国宝・九体阿弥陀如来坐像を目にすることができます。修復自体の完了は約110年ぶり。九体そろった姿は圧巻です。同寺の本堂には、色彩が美しい秘仏・吉祥天女像も。10、11月は特別に開帳されるので訪れたい場所です。
安倍文殊院
大化元年、安倍倉梯麻呂創建とされています。本尊は国宝・文殊菩薩。
浄瑠璃寺
奈良時代、聖武天皇が僧・行基に建立させたのがはじまりと伝わっています。
世界遺産登録記念周年のあの場所へ 日本仏教の二つの聖地を巡る
今年、日本仏教のはじまりとも言える二つの聖地・高野山と比叡山がそれぞれ世界遺産登録20周年・30周年を迎えました。
高野山は山全体が金剛峯寺の境内とされます。中でも奥之院は信仰の中心で、御廟では空海が現在も瞑想しているとのいわれも。御廟橋より先の参道は、撮影が禁止されているなど聖域として厳粛に扱われています。約2キロメートルある参道も、この季節なら無理なくじっくり参拝できそうです。今なら高野山内、北条政子創建の金剛三昧院にて、地蔵菩薩立像の特別拝観も行われています。
比叡山は山全体に100以上のお堂があり、東塔・西塔・横川の三つの地域に区分されています。西塔は、現存する比叡山内最古の建築物と言われる釈迦堂を中心に、お堂が広がります。今年は世界遺産登録30周年を記念し、7年ぶりに釈迦堂の秘仏・釈迦如来像を特別開帳。東西南北に並ぶ四天王像に守られた神聖な釈迦如来の姿は、今秋見ておきたいです。
見所満載ですが、ツアーなら案内付きで詳しく二つの聖地を知ることができます。
いにしえと最新デジタルアートの融合を楽しむ
「一隅を照らす」という精神に基づき、毎年「世界宗教者平和の祈りの集い」が開催されている延暦寺。 9月14日(土)~12月8日(日)は西塔・釈迦堂にて釈迦如来像の特別開帳、内陣特別拝観に加え、平和の祈りで世界をつなぐ思いの下生まれた特別展示も行われます。プロジェクションマッピングや和ろうそくを用いて仏の世界が表現され、現存する比叡山最古のお堂と最新のデジタルアートのコラボレーションを楽しむことができます。