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営業は朝のわずか4時間 坂の町・長崎で宝石のような時を/bread A espresso

店内風景

あらゆるものを削ぎ落とし、パンとコーヒーに特化

長崎は坂の町だ。長崎駅近くの大通りから路地を一本曲がると、道は勾配になる。その手前の一角に、早朝だというのに行列ができていた。営業時間は6:30~10:30のわずか4時間、朝しか営業しないベーカリーカフェがある。

カウンターだけのスタンディング。陳列棚の中はほとんどハード・セミハードで、パンの隣りにはエスプレッソマシン。好きなパンとコーヒーを買ったらカウンターで頬張ったり、オフィスに持っていって朝食にも。忙しい朝、この界隈(かいわい)で暮らす人は、ささやかだが極上の朝食を手に入れられるのだ。

営業は朝のわずか4時間 坂の町・長崎で宝石のような時を/bread A espresso
  ホワイトチョコマカダミア、ショコラ、カフェラテ

僕もこのカウンターで宝石のような時間を味わった。「マカダミアホワイトチョコ」はまるまるふくらんで一見硬そうに見えるが、かりっと驚くほどあっけなく割れる。反して、中はもっちり、とろーん。ホワイトチョコチップがとろけ、小麦のミルキーさ、バターの風味と、シンクロしつつまみれあう。

ここで、カフェラテを含もう。ミルクがホワイトチョコのミルキーさを高め、コーヒーの香りはマカダミアナッツの香ばしさと響き合う。一口で、極上の場所へ連れていってくれた。

営業は朝のわずか4時間 坂の町・長崎で宝石のような時を/bread A espresso
(左から)柴原亮さん、森永明日香さん

パリやミラノやニューヨークのようなコーヒーとパンの朝を長崎で味わえる幸運。なぜこんなコンセプトの店を作ったのか、パン担当の柴原亮さんに訊(き)いた。

「仕事の前にさっと寄れたり、休みの日は朝から気分を上げてはじめられたり、ここにくれば気持ちが上がる店を作りたかったんです」

開店は2011年。いまでこそパンとコーヒーは食のトレンドだが、当時はスペシャルティコーヒーも一般的ではなく、Instagramを見てカフェ巡りをするようになる前だから、相当早い。

コーヒーを学んでいた専門学校時代に出会ったのが、いまコーヒーを担当する森永明日香さん。

「コーヒーをいれる技術がすば抜けてた。自分ができないことも簡単にコーヒーで表現できてしまう。この人を追い抜けないだろう」

営業は朝のわずか4時間 坂の町・長崎で宝石のような時を/bread A espresso
バゲット、胡桃、胡桃&レーズン

卒業後は2人であるカフェの立ち上げにたずさわる。そのとき柴原さんがパンを焼いてモーニングやランチで提供すると人気になった。

「森永に言われたんです。『性格的にパンが合ってるんじゃない?』って」

はじめは別々にお店をやろうと思っていた2人だが、いっしょに店を開くことを考えるようになった。

「コーヒーとパンがいっしょにあったら。ひとりずつより、2人でやったほうがもっといい店ができるんじゃないか」

柴原さんは本格的にパンを修業。森永さんの故郷、長崎で開業を目指したが、海と山が迫り、土地の少ない長崎市内で物件はなかなか見つからなかった。1年後、不動産屋が出してきたのが裏通りのこの物件。

「見た瞬間、ピンときました。もともと目立つところじゃないほうがいいと考えてました。道に迷いながら宝探しするように来てもらえる場所。オフィスがあって、仕事前にぱっと寄っていけるような」

営業は朝のわずか4時間 坂の町・長崎で宝石のような時を/bread A espresso
アールグレイ

柴原さんは、高校の頃からカフェやお店を巡るのが大好き。海外にも足を運ぶ。そんな記憶が小さな店に詰め込まれている。

「自分たちが通いたい店を作りたい。自分たちが好きなものを集めまくった。これで失敗してもしょうがないよねって思える」

オープンは朝6時30分。コーヒー一杯にちょうどいい大きさで、相性のいい具材を入れたパン。デニッシュも総菜パンもない。コーヒーはエスプレッソとラテとカプチーノのみ。あらゆるものを削ぎ落とし、パンとコーヒーに特化した店だが、朝から人が集まってきた。

「朝早くいつも犬の散歩で来てくれるお客様がいたり。願った通りになりました。」

「ショコラ」は、ビターなチョコチップと、ココア入りの生地が、カカオの香りを高めあう。表面はかりかり、中はふんわりじゅわ。まるでパンの形のフォンダンショコラ。生地自体はカンパーニュのようにシンプルだが、おもしろい食感になるのは、ココアをたっぷり入れることで、油分が生地に染み出し、グルテンを切り、なめらかになるため。

営業は朝のわずか4時間 坂の町・長崎で宝石のような時を/bread A espresso
ムール

お客さんの要望に応え、食事用の大型パンも作るようになった。製法は独学で学んだ。そのひとつが「ムール」。ふるるんとした中身、染み入るような乳酸の甘酸っぱさが唾液(だえき)を促し、甘い液体が喉(のど)まで伝う。余韻長くじんじんと香る全粒粉はアメリカのセントラルミリング、北海道産江別製粉のものなど。レーズン種とライサワー種を使用、市販のパン酵母(イースト)を用いずして、この見事な気泡。ドイツで食べたパンの遠い記憶をたどって試行錯誤したという。

「いま世間で流行ってるパンを焼いたらお客さんもよろこぶんだろうなと思いながら、自分が好きじゃなければ出さないし、作らない。『パン職人』と言われると違和感があるんです。自分の感覚的な好き嫌いで作ってるので」

好きを研ぎ澄ませ、さまざまなものを捨てていった結果が、朝4時間だけの幸福に凝縮しているのだ。

bread A espresso
長崎市五島町6-3
095-823-6078
6:30~10:30
火水木休み

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
「このパンがすごい!」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)

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