人と比べず、自分のペースでコツコツと
MINMIさんインタビュー〈後編〉
坂本真子の『音楽魂』
シンガー・ソングライターのMINMIさんは、仕事も子育ても忙しくて焦りを感じていたとき、ある発想の転換で乗り越えたそうです。初期のアルバム3作品のリマスタリング盤を7月3日に発売したMINMIさんに、音楽との向き合い方や毎日の過ごし方を聞きました。後編は今、感じていることを率直に語ります。
MINMIさんは以前からオーガニックの食材にこだわり、オーガニック系のフェスに出演するなどしてきました。
「今はオーガニックのものだけを食べているわけではないですが、何を食べるかはいつも意識しています。私は肌があまり強くないので、食べ物の影響が出やすくて、たまにジャンクフードを食べると吹き出物ができるんですよ。化粧品を変えるより、良いものを食べる方が良い肌につながるし、健康にもつながると私は思っています」
ファンの人たちから「どうすれば肌がきれいになりますか」と聞かれることもあります。
「生命力のないものをいただくのと、生命力が入っているものをいただくのとでは全然違うと私は感じていて、この植物やお肉がどうやって育ったのかをいつも考えます。自然の恵みを受けた植物やお肉をいただくと、細胞に届くように感じるんです。食べ物でお肌の調子も変わるので、細胞や血液がきれいになるとお肌も内臓もきれいになる。薬や化粧品を考える前に、何を口にするかを意識することをおすすめします」
ピアノも音楽制作も「学ぶことが楽しい」
2019年、米国ロサンゼルスに生活の拠点を移したMINMIさんは、ピアノの練習に力を注ぐようになりました。
「子どものときにピアノを弾いていて、ミュージシャンになってからは特に練習する時間もないまま来てしまったけど、自分の音楽でちゃんとピアノを弾きたいなと思って、久しぶりに習いに行っています」
音楽制作でも学ぶことが多いと言います。
「音楽のミックスやマスタリングはまだまだ勉強中ですし、カリフォルニアのカルチャー、感覚、ノリはすごく刺激になっています。私は日本が好きですけど、日本とは気候が違うし、人も違うし、人種も違うので、アートも同じにはなりません。これまでの私は、自分の持っているものをアウトプットし続けて曲を作ってきたけど、もっともっと知るべきことがたくさんあって、音楽の勉強が足りない。海外で暮らしてそう感じたので、今は学ぶことを楽しんでいます」
40代50代のAging Gracefully(=AG)世代からは、「もう一度勉強したい」という声をよく聞きます。実際に学校に入るなどして学び直している人も少なくありません。仕事や育児が一段落して我が身を振り返り、改めて知識やスキルを習得したいと考える年ごろなのでしょう。
「それ、すごくわかります。自分をもう一回成長させる、ワクワク感みたいなものがあるんです。新しいことも古いことも勉強したいですね」
焦らず淡々と「自分を肯定したい」
AGプロジェクトでは、40代50代の女性たちにポジティブに年齢を重ねることを呼びかけています。MINMIさんは今49歳。年齢を重ねることを楽しむために、何か意識していることはあるのでしょうか。
「私には焦りがあったんですね。周りはすごいスピードで進んでいるのに、自分の成長や仕事が止まっていて、『子育てやってていいのか、自分』みたいな焦りです。でも、焦ってもよけいに落ち込むだけで、前へ進めなくて」
悩んだ末に、MINMIさんは考え方を切り替えることにしました。
「自分のペースを人と比べないようにしようと。自分の中で小さな目標を見つけたら、成果が上がっても上がらなくても、それを淡々と続ける私をほめてあげようと今は思っています」
さらに、「メンタルを保つには運動も大事ですよね」と話すMINMIさん。ウォーキングや、家でYouTubeを見ながら筋力トレーニングをしているそうです。
「前は、例えば人前でこのドレスを着るために何キロやせる、みたいな目標が何かあって、そのためにトレーニングをした時期もあったけど、今は自分が健康で、動きやすい体で、メンタルも元気であればいいと思っています。一日30分歩くとか、一日10回スクワットするとか。それで自分の体形が変わると思っても思わなくても、私自身と向き合って続けられたら、そういう自分を肯定したいんです」
「誰かと比べると焦ってしまって、大事なものを置き去りにして追いかけてしまいそう。それよりも、今の自分のペースで成長できることを大切にして、焦らず、とにかく地道にコツコツ続けて、その自分を肯定して、毎日を楽しみたいですね」
自問自答して気づいたこと
MINMIさんが発想を転換した背景には、海外への移住と、コロナ禍の影響がありました。
「以前は、ライブがあるからそこに向かって運動するとか、仕事のためにモチベーションを上げることが多かったんですけど、ここ数年はコロナ禍だったり、海外にいてライブがなかったりと、仕事だけではない日々をアメリカで過ごして、自問自答してきました。日本は安心だし、助けてくれる人もたくさんいるし、世の中にホスピタリティがあふれているけれど、アメリカは違う。海外生活のハードルをちょっとずつでも乗り越えなきゃ、と思う中で、仕事の評価や目的があろうがあるまいが、心が健康でいたいな、自分を整えていきたいな、という気持ちに向かっていったんです」
ロサンゼルスで暮らして、得たことも少なくありません。
「アメリカでミュージシャンに会ってセッションすると勉強になるし、新しい音楽も生まれるし、ここで修業できてありがたいですね。息子は日本の高校に進学しましたけど、下の娘は中学を卒業するまでアメリカで頑張ると言っています。最終的には家族みんな日本が好きなので、私もある程度学んだら、日本に戻れたらいいな、と思います」
最後に、「50代でやってみたいことはありますか」と尋ねると、「その質問、いいですね。50代でやりたいこと……」と少し考え込んでから、語りました。
「私は、何年か先にどうしているかを想像するのが好きですけど、15年前、今こうしているとは思っていなかったので、意外と60歳、65歳になっても変わらずステージで歌っているんだろうな、と今は想像しています」
「そのときは健康で動けることが欠かせないですし、声も今より衰えた状態ではありたくないので、メンテナンスを大事にしたいですね。そのために50代をどう過ごすかを考えたいです。欲を言うと、現状維持だとモチベーションが上がらないので、今よりもっと体がしなやかになっているといいな、と思います」
私がMINMIさんにインタビューしたのは、今回が3度目になります。最初は2003年春にファーストアルバム「Miracle」を発表したときで、「The Perfect Vision」のヒットで注目される中、何度もジャマイカを訪れて曲を練り、「大きな愛の歌を歌いたい」と熱く語っていました。
それから15年後の2018年、9枚目のアルバム「identity」の取材で再会しました。「自分がいいと思う感覚を信じることが一番大切で、それが自分にできることだと確信するのに15年かかりました」と、やわらかい口調で話していたことが印象に残っています。
楽曲やイベントをプロデュースする一方で、子育てにも全力で取り組み、そのときどきのリアルな思いを歌ってきたMINMIさん。今回、6年ぶりにお会いして、ほどよく力が抜けて、毎日をゆるやかに楽しもうとしている様子が伝わってきました。これまで積み重ねてきたキャリアに裏付けされた自信があるからこそ、今のMINMIさんがあるのでしょう。
次にまたインタビューする機会があれば、MINMIさんがどのように年齢を重ねて、何を感じているのかをじっくり聞いてみたいと思います。
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本が、音楽の話をお届けします。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=山本倫子撮影
◆オリジナルアルバム[Deluxe Edition] 7月3日発売
「Miracle [Deluxe Edition]」
「imagine [Deluxe Edition]」
「Natural [Deluxe Edition]」
いずれも2CD+Blu-ray、5940円(税込み)。 https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A017274.html
◆MINMIさん公式サイト https://minmi.jp/
◆MINMIさん公式インスタグラム https://www.instagram.com/minmidesu/
◆MINMIさん公式X(旧Twitter) https://twitter.com/minmidesu/
◆MINMIさん公式ショップ https://shop.freedomfes.com/