坂本真子の『音楽魂』 中島みゆきさん、4年ぶりコンサート 「一秒先に何があるかわからない」 | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
坂本真子の『音楽魂』
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坂本真子の『音楽魂』
中島みゆきさん、4年ぶりコンサート
「一秒先に何があるかわからない」

田村ヒロ氏撮影

シンガー・ソングライターの中島みゆきさんが、今年1月から5月にかけて『中島みゆきコンサート「歌会VOL.1」』と題したコンサートを開催しました。2020年の『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』がコロナ禍で中止になってから約4年ぶり。東京と大阪で行われた計16公演のうち、5月8日の東京国際フォーラム・ホールAの客席には、AG世代の姿も目立ちました。

この日のコンサートは、18時半ちょうどに開演。暗い舞台にバンドのメンバーたちが入り、ピアノの音に合わせてストリングスの6人が「A」の音でチューニング。静けさと荘厳な空気の中で前奏が始まると、虹色のドレスに白いジャケットを羽織り、アコースティックギターを持ったみゆきさんが華やかに登場して、「はじめまして」を歌い始めました。

そういえば、2020年2月にNHKホールで見た、前回の『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』最後の曲は、この「はじめまして」でした。みゆきさんは20年1月から『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』と題して、最後のコンサートツアー24公演を行う予定でしたが、8本目の大阪公演を終えたところで、コロナ禍のため中止に。それから4年が経ち、同じ曲で新たなコンサートの幕を開けたことに、コロナ禍を乗り越えて歌い続けるみゆきさんの覚悟を感じたように思います。

1曲目の後、「ご無沙汰しておりました。中島みゆきでーす」とあいさつすると、会場からは大きな拍手がわき起こりました。「気持ちも新たに『中島みゆきコンサート「歌会VOL.1」』でございます」と、みゆきさん。

坂本真子の『音楽魂』<br>中島みゆきさん、4年ぶりコンサート<br>「一秒先に何があるかわからない」
田村ヒロ氏撮影

2曲目の「歌うことが許されなければ」は、国を追われた難民たちを描いたとされる曲ですが、今回は、コロナ禍で歌えなかったみゆきさん自身、そして、今も世界各地で戦争に苦しむ人たちに向けたメッセージのように感じました。

コロナ禍の頃は病院の様子が連日テレビで報道されていましたが、「毎日朝から晩まで病院の映像が映るなんて、とんでもない時代なんだな、と思いました」と話して、医療関連の3曲を披露しました。「俱(とも)に」は、小児医療の現場を描いたテレビドラマの主題歌。「病院童(びょういんわらし)」に続いて、「Dr.コトー診療所」の主題歌「銀の龍の背に乗って」の荘厳なイントロが始まると、暗い舞台に一筋のスポットライトが当たります。そこに浮かび上がったみゆきさんの姿は、神々しくも見えました。

次は一転、学生時代によく通っていたという喫茶店についての軽妙なトークから「店の名はライフ」を少しくだけたように歌い、都会の片隅にある古いジャズバーで明け方まで過ごした思い出話からジャズ風の「LADY JANE」を披露。「LADY JANE」の演奏前には、これまで長くバンマスを務めてきた小林信吾さんの訃報(ふほう)に触れました。

「2020年の10月にバンマス小林信吾は亡くなりました。コンサートも夜会もいつも一緒だったので……。これから歌う中に、信吾さんがソロをかっこよく弾いた音が残っていたので、今日はその一部ですけど、信吾さんと一緒にお届けします」

「LADY JANE」の途中、演奏者のいないグランドピアノにスポットライトが当たり、小林さんが奏でるピアノの音が流れました。次の「愛だけを残せ」を力強く歌い上げた後、「わしらのバンマス、小林信吾にも少しだけ拍手を」とみゆきさん。会場からは温かい拍手が送られました。

ここで恒例のおたよりコーナーに。開演前のロビーでは、大勢の観客が用紙に近況報告を書いていました。たくさんの投稿から構成作家の「ポチ」こと寺崎要さんが選んだものを、みゆきさんが次々に読み上げていきます。

投稿を読まれたときに備えて朝から返事の練習をしていたという50代の女性は、名前を呼ばれて「はいっ!」と大声で返事。電車の中で妊婦と間違われて席を譲られたという50代女性、自分の名前が嫌いだが、みゆきさんに呼ばれたら好きになれるかも、という50代男性の投稿も。バンドメンバーの母親と妹からの投稿もあり、みゆきさんの絶妙なトークで会場は笑いに包まれました。

坂本真子の『音楽魂』<br>中島みゆきさん、4年ぶりコンサート<br>「一秒先に何があるかわからない」
田村ヒロ氏撮影

「コンサートとは何か」考えた4年間

休憩を経て第2部は「夜会」の名曲を集めたメドレーで始まりました。ステージ中央には、たくさんの衣装をかけたハンガーラック。その後ろから登場したみゆきさんは、1曲歌い終えるごとにラックの後ろに姿を隠し、次の衣装に着替えます。オレンジと黒のドレス、和装のはんてん、アオザイなどへと早変わりしつつ、懐かしい曲を次々に歌いました。

最後はハンガーラックの後ろからステージの奥に消え、バンドの演奏が終わると同時に舞台の左袖から、新たに着替えた白のドレス姿で走って、舞台に置かれたピアノの隣へ。エネルギー全開で見せるスピーディーな展開は、コロナ前と全く変わりません。

主題歌の作曲を依頼されて、脚本家の倉本聰さんから大きな段ボールで全ての脚本が届き、その勢いに押されて「思わす曲書いちゃいました」と振り返ったのは、「慕情」。老人ホームを舞台にした連続ドラマ「やすらぎの郷」の主題歌で、昔を懐かしむような優しいメロディーと「もいちどはじめから……」と繰り返すサビが印象的でした。

メンバー紹介の後は、「体温」。メロディーは明るく軽快な曲調ですが、悩むことが多く、味方のいない世の中では生きていることが奇跡であり、「体温だけがすべてなの」と繰り返す、命の重さを考えさせられる歌です。続く「ひまわり-SUNWARD-」は同じ題名の映画を想起させ、ウクライナ侵攻への怒りと悲しみを感じました。

コロナ禍の4年間、「コンサートとは何なのか」を考え続けたというみゆきさん。「でもね、わからなかったの」と言いつつ、「明日、何が起こるか、一秒先に何があるかもわからない。思いもかけないことが起きます」として、アニソンを初めて歌ったことを告白。「先案じばかりして、今を粗末にするのが私の悪い癖。先のことじゃなく、今日ここにいられてうれしいと一番に思います」と観客に呼びかけ、「心音(しんおん)」を披露しました。

アンコールはワインレッドのドレス姿で、再び走って登場。「野ウサギのように」を、軽やかにステップを踏むなど、少しおどけた様子で歌います。

そして、後ろを向いて両手を広げると、ドラムがリズムを刻み始め、あの重厚なイントロが。2時間半のコンサートの最後に「地上の星」を朗々と歌い上げ、客席に向かってゆっくりと手を振り、去っていきました。

坂本真子の『音楽魂』<br>中島みゆきさん、4年ぶりコンサート<br>「一秒先に何があるかわからない」
鈴木教之氏撮影

70代の今もパワフルに歌い続けるみゆきさんは、AG世代、特に50代にとっては人生の師のような存在といえます。この日の客席には、AG世代と見られる女性たちが大勢いました。少女の頃に「時代」や「悪女」に衝撃を受けた熱烈なファンや、大人になってから「空と君のあいだに」や「地上の星」をテレビで聴き、カラオケで歌った人たちもいるでしょう。

今50代の私は、小学生の頃、意味もよくわからないまま、「悪女になるなら月夜はおよしよ」などと、友達と一緒に歌っていました。また、ラジオ番組「中島みゆきのオールナイトニッポン」でのハイテンションなトークに驚き、そのギャップに引きつけられて聴き入った一人でもあります。

改めて思い返すと、これまでの人生で理不尽な出来事に遭遇したときや、悲しみに直面し、傷ついて希望をなくしかけたときに、みゆきさんの歌は特に胸に染みました。最近も、仕事で落ち込んだときに聴きたくなったのは、みゆきさんの「PAIN」でした。

1996年の『夜会VOL.8「問う女」』終盤で披露された「PAIN」は、「歌え雨よ/笑え雨よ」と繰り返し、「どんなに傷つき汚れても/人はまだ傷つく」など、自分の力ではどうしようもない不条理に痛めつけられながら、それでも人は生きていくのだと、私に教えてくれた歌です。

2020年の『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』を始める際に、「これを最後に全国ツアーはしません」と話したみゆきさんですが、今回のコンサートを「歌会 VOL.1」と名づけたということは、今後も「歌会 VOL.2」「歌会 VOL.3」があると期待できそうです。これからのみゆきさんの活動を励みに、AG世代の一人である私もまだまだ走り続けようと、決意を新たにした日でした。

最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本が、音楽の話をお届けします。

取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=ヤマハミュージックコミュニケーションズ提供

◆中島みゆきコンサート「歌会 vol.1」SETLIST(2024.5.8 東京国際フォーラム)
 1  はじめまして       (1984年のアルバム「はじめまして」収録)
 2  歌うことが許されなければ (2020年のアルバム「CONTRALTO」収録)
 3  俱(とも)に       (2022年、フジテレビ系「PICU小児集中治療室」主題歌)
 4  病院童          (2014年のアルバム「問題集」収録)
 5  銀の龍の背に乗って    (2003―22年、フジテレビ系「Dr.コトー診療所」主題歌)
 6  店の名はライフ      (1977年のアルバム「あ・り・が・と・う」収録)
 7  LADY JANE         (2015年のアルバム「組曲 (Suite)」収録)
 8  愛だけを残せ       (2009年、映画「ゼロの焦点」主題歌)
 9  ミラージュ・ホテル ~「夜会」曲メドレー
   (2004年『夜会VOL.13「24時着0時発」』2006年『夜会VOL.14「24時着00時発」』から)
 10  百九番目の除夜の鐘 ~「夜会」曲メドレー
   (2008年『夜会VOL.15「~夜物語~元祖・今晩屋」』、2009年『夜会VOL.16「~夜物語~本家・今晩屋」』から)
 11  紅い河 ~「夜会」曲メドレー
   (1995年『夜会VOL.7「2/2」』、1997年『夜会VOL.9「2/2」』、2011―12年『夜会VOL.17「2/2」』から)
 12  命のリレー ~「夜会」曲メドレー
   (2004年『夜会VOL.13「24時着0時発」』、2006年『夜会VOL.14「24時着00時発」』から)
 13 リトル・トーキョー ~「夜会」曲メドレー
   (2019年『夜会VOL.20「リトル・トーキョー」』から)
 14 慕情          (2007年、テレビ朝日系「やすらぎの郷」主題歌)
 15 体温          (2023年のアルバム「世界が違って見える日」収録)
 16 ひまわり-SUNWARD-   (1994年のアルバム「LOVE OR NOTHING」収録)
 17 心音(しんおん)    (2023年、映画「アリスとテレスのまぼろし工場」主題歌)
 18 野ウサギのように    (1988年のアルバム「グッバイガール」収録)
 19 地上の星        (2000年、NHK「プロジェクトX~挑戦者たち~」オープニングテーマ)

◆中島みゆきさん 公式サイト https://www.miyuki.jp/

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