「自分の専門以外のことも知っているといい」 AGフレンズ 3人で話そう〈1〉 高尾美穂医師 松本千登世さん 村田貴子さん | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
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「自分の専門以外のことも知っているといい」
AGフレンズ 3人で話そう〈1〉
高尾美穂医師 松本千登世さん 村田貴子さん

AGフレンズの3人。左から、松本千登世さん、高尾美穂医師、村田貴子さん=東京都中央区築地の朝日新聞東京本社

Aging Gracefully(以下、AG)プロジェクトは2024年度の「AGフレンズ」として、産婦人科専門医の高尾美穂さん、美容エディター・ライターの松本千登世さん、ファイナンシャルプランナーの村田貴子さんの3人をお迎えしました。いずれも23年度からの続投で、今回初めて3人が顔を合わせてAG世代の生き方などを語り合いました。その模様を3回に分けてお伝えします。

――AGフレンズとして1年間過ごされて感じたことをお話しいただけますか。

松本 AGフレンズだからと強く意識して過ごしたわけではありませんが、身近にいる同じ職業の人たちも違う分野の人たちも、みんなの意見を意識して聞くようになりました。そして、困っていたり悩んでいたりするのを知って、みんなそうだよね、と思いました。私自身は高尾先生とお話しして、年齢に伴う体の変化など、知っているだけで気が楽になることがいっぱいあると知ったので、それを今度は私がみんなに伝えていけたらいいな、と思っています。

村田 私も視野が広がったな、と思いました。金融機関以外の業界の方の考えや意見に触れることができて、生活も変わりました。高尾先生のコラムを読んで、運動をしようと思ってホットヨガを始めたり、松本さんのコラムを読んで、睡眠も入浴も大事だと感じて自分の入浴スタイルを変えたり。私自身は更年期の症状があまり出ませんでしたが、自分の周りにも大変な思いをしている人がいることに改めて気づかされて、何かあったときに力になれたらいいな、と考えるようになりました。

――入浴のスタイルはどう変わったのでしょうか?

村田 毎日やることがたくさんあるからと、以前は睡眠時間をおろそかにしていたんですね。でも、睡眠時間は大事だし、睡眠の質を上げるためには入浴が大事、と松本さんのコラムに書かれていたので、入浴時間もなるべく就寝時間の1時間半から2時間前にとるようになりました。体がすっきりして、時間の使い方も変わりましたね。このご縁を生かして、いろいろ良い習慣が身につくといいなと思っています。

「自分の専門以外のことも知っているといい」<br>AGフレンズ 3人で話そう〈1〉<br>高尾美穂医師 松本千登世さん 村田貴子さん
村田貴子さん

高尾 先ほど松本さんもおっしゃいましたけど、さまざまな分野の専門家が当たり前に知っていることをシェアできるのって、すごくありがたいことですよね。たとえば美容やお金のことで悩む方は同世代に多いでしょうし、私の専門である健康の分野も、私が自分の人生に生かしていることは、同世代の女性たちが知っていると絶対にいいことなんです。健康に不安があるとか、女性としてなんとなく自信を持てないとか、お金が心配でやりたいことを選べないとか、さまざまな悩みがあると思いますが、基本的な正しい知識が少し増えるだけで安心して過ごせることも増えるはず。AGフレンズでいうと、健康をきっかけに興味を持って見てくれた人が、お金のことを知り、美容についても知り、より良く変わっていくきっかけになる。そんな変化がきっとあるはずで、松本さんのお話には生活の中に取り入れやすいことがいっぱいあって、しかも村田さんがそれを体現されているから説得力がありますよね。私たちは、どんな方にもわかりやすく伝えたいと思い、それを聞いた人たちがより良くなるといいな、と願い続けた1年間でした。

「あいまいな答えが多くていい」

――村田さんは毎晩、その日の出来事を振り返るそうですね。

村田 私はいつも寝る前に、今日良かった三つのことを、三行日記みたいに書きとめているんです。これを書くようになってから、前向きな気持ちで、翌日いいスタートを切れるようになったと思っています。高尾先生と松本さんは、どんな「良かった」「楽しかった」という瞬間が最近ありましたか?

高尾 私は、そのときそのときの出来事に対して「良かったね」、「おしまい」、という感じで過ごしています。「良かったね」で終わりにすると、全部過去の話になっていくんですよ。一個一個の出来事を、ちゃんとそれでおしまいにする。箱の中にふたを閉めてお片付け、という感じになるので、良かったなと思うことはいっぱいありますね。たとえば(AGフレンズ対談の)今日も「間に合うといいな」と思っていたら予定時刻の前に着けたし、遠方で講演することになったとして、講演のためだけに行くのはもったいない、と思うタイプなので、10時からの講演であれば、1時間半の講演が終わった後に近くで見たいものがあるかもしれないと考えて、新幹線や飛行機の時間を調べるわけですよ。調べてうまくはまるのがうれしいし、楽しいですね。

松本 みなさん、さまざまなストレスを抱えていると思いますが、まずは自分の力ではどうにもならないことから手放したら良いのではないでしょうか。高尾先生から「明日晴れなかったらどうしよう、雨が降ったらどうしよう、ということは、どんなに思い悩んでも結果が変わらないから手放すといい」という話を聞いて、私はとても影響を受けたんですね。改めてそう捉え直すと、日常の中で手放せるストレスは思いのほか多いもの。この前、取材でインドネシアのバリに行ったんですけど、山の方で天気がすごく変わりやすかったんです。でも、晴れる方がいいとは一切思わなかったですし、雨が降ってもいいし、荒れてもいいし、何でも幸せ、と思えて。手放すことも大事だし、そういうニュートラルなところで幸せだと思えるものがあればいいな、と感じています。

「自分の専門以外のことも知っているといい」<br>AGフレンズ 3人で話そう〈1〉<br>高尾美穂医師 松本千登世さん 村田貴子さん
松本千登世さん

高尾 今の松本さんのお話のように、良いこと、悪いこと、という判断をする必要がないことを私たちはしているんじゃないか、と気づくと、金融の世界も一緒だと思うんですよ。株が値上がりしてもうかったとしても、またさらに上がるかもしれないし、それを知ったら損をしたと思いますよね。「良かった」「良くなかった」というジャッジは、本当は意味がなくて、人生には、あいまいな答えがいっぱいあっていいんじゃないかと思うわけです。「良くなかった」と思ったときに、そこで何か大きく振り切ったアクションを起こすとだいたい後悔するし、「良かった」と判断できたときは、たいてい幸せなんですよ。私は「悪い」という表現をあまりしなくて、「良くない」「イマイチ」と表現するタイプなんです。「良くなかった」ときも、これが途中だと思えばまた次があるわけで、最後にいつ判断するかといったら、命が終わる前です。自分の人生が終わる前に「良かったね」とまとめられれば、それでいいんじゃないかと思っているんです。お金のことは特に数字で見えるから悩まれる方も多いと思いますけど、それに対するマインドセットみたいなものを伝えるには、その人の背景や希望を知ると伝えやすいんじゃないかな、と思います。村田さん、どうですか?

村田 私は社内でいろいろな悩み相談を受けることがありますが、悩んだり困ったり、つらいと訴えてくる時は、視野が狭くなっていて、一つの角度からだけで考えているケースが多いのかな、と感じています。色々な角度で考えられると、目の前の困ったことがチャンスつながることもあると思うんですよね。

「中長期的な目線を持って」

――お金の話でも、視野が広いことは大事ですか?

村田 もちろん、大事です。先日のAGフレンズカフェで新NISAの話をさせていただきましたが、投資の話をすると、投資対象が「値下がりするのが怖い」という考えをお持ちの方も多いと思います。知識がないまま始めると、「値下がりしたからすぐに売ってしまった」ということにもなってしまいます。

高尾 でも、株の値段が下がったら買いたいよね(笑)。

村田 そうなんですよ。投資をする目的や期間のとらえ方によっては大きなチャンスになります。それを、「あわてて売ったら損してしまった」「やらなければよかった」という体験しか残らないのは、とてももったいないと思うんです。次のチャレンジが怖くなってしまいますし。知識をつけて、中長期的な目線を持って判断できるようになるといいですね。もちろん私も勉強中ですが。

高尾 成功体験はすごく大事ですよね。でも成功という定義も結局その人が決めればいいわけで、成功体験だと思えれば、また次に同じことをしてみよう、と思うかもしれないし、次はちょっとここを変えてみよう、と思うかもしれない。どうしたら成功体験だと思ってもらえるか、と考えたときに、村田さんがおっしゃる通り、中長期的な目線はどの分野にも必要になります。たとえば、クリームを塗ったら次の日にピカピカ、ということはないですよね?

松本 そうですね。それはないですね。

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高尾美穂医師

高尾 ホルモン補充療法も、最初の2カ月ぐらいは、生理が終わったのにまた生理がきたと言って、みんなワサワサするわけです。でも、「こういうことはあるよ」と先に伝えておいて、相談されたときも「いやいや、それが普通だし」と、こっちがドーンと構えていれば、「普通なんだ」と安心できる。あらかじめ伝えておくことで、すごく不安になるとか、それによってチャレンジを続けられない理由を減らせるのかな、と思いますね。

「長生きリスク」をなくしたい

――人生100年時代といわれますが、年齢を重ねることへの不安も、さまざまな知識をあらかじめ得ることで減らせるでしょうか。

高尾 生物界では、長老というだけでリスペクトされて大成功、だと思うんだけど、いま長生きしている人たちが大成功だと思えていない社会は課題ですよね。

村田 「長生きリスク」という言葉がありますが、この言葉は世の中からなくしたいと思いますね。

高尾 「長生きリスク」は、長生きするとお金が足りなくなる、ということですか?

村田 そうです。私たちの寿命より、お金の寿命の方が先に尽きてしまうかもしれない、ということです。今、日本は世界的に見ても長寿国です。昔はこれほどまでに長生きではなかったので、年金問題もそんなに言われませんでしたが、今は人生100年時代。年金の他に手元資金を準備しておかないと、お金の寿命が先に尽きてしまう不安がある。だから「長生きリスク」という言葉があるわけです。年齢を重ねることが、楽しく前向きな生活につながるようにしていきたいですね。

松本 本当にそう思います。

高尾 みんなで知恵を出し合って、変えていかなきゃいけないことがいっぱいあると思うんですよ。たとえば高齢者の方たちにかけすぎている医療コストを落とすとか。これは厳しい言い方になるかもしれないけれども、自然に変化していく部分に関しては、お金をかけて治療しない。これを一つ大前提にしない限り、日本の財政はさらに厳しくなるので、少しずつ変えていかないと、将来を不安に思う人が増え続けるわけです。私たちは1歳ずつ年齢が高くなっていく中で、若者は減っていき、海外の違う文化の人たちが流入してきて、円の価値が下がるとか、不安材料しかない。上の世代のボリュームが大きいし、私たちの世代は不安、不安、心配、心配、という状態ですよね。そういう国や社会は、自分のことで精いっぱいで、お互いに優しくできなくなってしまいます。日本は1900年から2000年にかけて人口がすごく増えて、それが今後減っていくわけだから、増えたときに広げた風呂敷をちょっとずつ狭くしていく、という考え方も必要ですよね。夜中まで電車が走っていなくてもいいし、コンビニが開いていなくてもいい。少しずつ変わってきていますよね。その変化を残念がるのではなくて、「そうだよね」と納得して受容することが大切で、みんながそう思う社会になっていくといいな、と思いますね。

>>「わたし」を大切にするための『Me Time』を AGフレンズ 3人で話そう〈2〉 はこちら
>>可能性を狭めないためにできることを AGフレンズ 3人で話そう〈3〉 はこちら

取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=品田裕美撮影

高尾 美穂(たかお みほ)さん
産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。
東京慈恵会医科大学大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージやライフスタイルに合った治療法を提示して、選択をサポートしている。NHK「あさイチ」などTV番組への出演や、WEB連載、SNS発信のほか、音声配信アプリstand.fmで毎日配信する番組「高尾美穂からのリアルボイス」は、総再生回数が1300万回を超える。近著に『わたしの人生の悩みは女性ホルモンを味方にすれば解決する』 (晋遊舎ムック) 、『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)、『人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉』(扶桑社)、『更年期に効く 美女ヂカラ』(‎リベラル社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)、『更年期前後がラクになる! おうちヨガ入門』(宝島社)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)、『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)など。

松本 千登世(まつもと ちとせ)さん
美容エディター・ライター。航空会社勤務、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。雑誌や単行本などで美容や人物インタビューを中心に活動。著書に『「ファンデーション」より「口紅」を先に塗ると誰でも美人になれる 「いい加減」美容のすすめ』(講談社)、『いつも綺麗、じゃなくていい。50歳からの美人の「空気」のまといかた』(PHP研究所)、『顔は言葉でできている!』(講談社)など。女性誌『美的GRAND』(小学館)で「このコスメが、すごい!」、同『éclat』(集英社)で「大人美が目覚めるとき」を連載中。2024年3月に絵本『ピンクのカラス』(BOOK212)を出版。

村田 貴子(むらた たかこ)さん
証券会社勤務、銀行勤務を経て、現在は「ほけんの窓口グループ株式会社」の教育部担当部長。
多くのお客さまの心配事や悩みを解決するファイナンシャルプランナーとして勤務後、3千人以上の社員教育に携わる。その他、銀行・保険会社向け研修も担当。最近は、高校生向けの金融授業、小学生向けのキッズマネーセミナーも実施。「資産形成」についてのセミナーも力を入れており、ライフプランを踏まえて資産形成を考えることの重要性を伝えている。

AGフレンズ(2023年度)の記事バックナンバーです。
>>高尾美穂先生〈1〉 更年期を自分らしく楽しむためにできること
>>高尾美穂先生〈2〉 更年期を乗り切るために周りができるサポートは
>>高尾美穂先生〈3〉 自分なりに準備して更年期を心地よく
>>高尾美穂先生〈4〉 自分の人生は自分で変える まず行動を
>>松本千登世さん 大人美容を、楽しく〈1〉 「きれいになりたい」は何のため?
>>松本千登世さん 大人美容を、楽しく〈2〉 子どもの習慣に「きれい」の答えがある!
>>松本千登世さん 大人美容を、楽しく〈3〉 「失う」の裏側に「得る」がある!
>>村田貴子さん 『ワクワク人生を楽しむ』お金のはなし〈1〉 老後の不安を「見える化」、資産寿命を伸ばそう
>>村田貴子さん 『ワクワク人生を楽しむ』お金のはなし〈2〉 預金がリスクに? 投資のポイントは
>>村田貴子さん 『ワクワク人生を楽しむ』お金のはなし〈3〉 自分の人生をデザインする

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