白馬の青い空と白い雪の間で 宇賀なつみがつづる旅(52) | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
宇賀なつみ わたしには旅をさせよ
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白馬の青い空と白い雪の間で 宇賀なつみがつづる旅(52)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。長野県で野沢温泉の熱い湯と、白馬の銀世界を堪能し、宇賀さんが願ったことは……。

「雪に願いを 白馬」

私が子供の頃は、東京にもよく雪が積もっていた。
近所の公園でソリをしたり、雪だるまを作って遊んだり……。
見慣れた街が白く染まると、全く違う世界に迷い込んだようだった。
今では数年に一度、あるかないかだろうか。

冬になると雪が見たくなる。
最近はゲレンデで滑る動画をYouTubeで見られて、
行かなくても行った気分になれるのだが、
旅好きとしては、気分だけでは満足できない。

取材も兼ねて長野へ行くことが決まり、
スノーボードやブーツ、ウェアまで一式新調した。
全てそろえたのは学生の時以来かもしれない。

まずは野沢温泉で、温泉街を散策した。
レトロな看板や建物が立ち並び、情緒たっぷり。
日本らしい風景の中に、外国人の姿が目立った。

どの店に入っても、英語や中国語が聞こえてくる。
遠く離れた場所で生まれ育った人たちが、
この良さを知ってくれていると思うとうれしくなった。

日が暮れ始めたので、温泉に入ることにした。
13カ所ある共同浴場は「外湯」と呼ばれ、誰でも入浴することができる。
初心者の私は、中心にある大湯(おおゆ)を選んだ。

寒い寒いと心の中で叫びながら、素早く服を脱ぐ。
ほとんどの外湯は、シャンプーやせっけんは使えず、蛇口からは水しか出ない。
単純に湯を楽しむための空間なのだ。

体を流そうと、まず桶(おけ)で湯を浴びた。
熱くて体がビクッとする。
野沢の温泉はかなり熱いと聞いていたけれど、想像以上だった。
すぐ横では、常連らしきおばさまが、気持ち良さそうに肩までつかっている。

せっかくここまできたのだから、絶対に入らないと。
勇気を出してエイッと全身を沈めてみた。
最初に少し痛いような刺激があったけれど、
徐々に慣れると心地良くなってきて、不思議と熱さを感じなくなった。

数分経って上がる頃には、全身真っ赤。
すっかり温まった身体で、おいしいお酒と食べ物を堪能した。

白馬の青い空と白い雪の間で 宇賀なつみがつづる旅(52)

翌朝、目が覚めるとまだ6時。
もう一眠りしようか迷ったけれど、
少し歩いて、今度は上寺湯(かみてらゆ)へ行った。

昨日よりも慣れているので、何度かかけ湯をして、すぐに入ることができた。
まだ誰もいない静かな空間で、ぼんやりと天井を見上げた。
朝一番のぜいたく。
世界に誇るエンターテインメントだと思った。

そのまま白馬へ移動した。
雪があまりないタイミングだったので、滑れるのは頂上付近だけらしい。
ウェアに着替えてゴンドラに乗り、たどり着いた先は一面の銀世界だった。

この時を待ちわびていたのだろう。
たくさんのスキーヤーとスノーボーダーが、ゲレンデにあふれている。

白馬の青い空と白い雪の間で 宇賀なつみがつづる旅(52)

最初の1本は、いつも緊張してしまう。
落ち着いてボードをセットして、
ドキドキしていることに気付かれないように、滑り出す。

よかった、ちゃんと覚えていた。
一度ターンができれば、もう大丈夫。
周りの人に注意しながら、一気に斜面を下っていく。

まだ小学校低学年ではないかと思える小さなスキーヤーが、
すぐ横を、ものすごいスピードですり抜けていった。

私も子供の頃は、スピードを出しすぎて両親に怒られていたっけ。
今はどうしても、けがをしないように気をつけて滑ってしまう。
大人として当然のことだけど、
怖いものがなかったあの頃に、ふと戻りたくなった。

やっぱり、雪山に飢えていたんだ。
青い空と白い雪に挟まれて、大きく深呼吸をする。
冷たい空気が体の隅々までいき渡る感覚を、久しぶりに思い出した。

冬になれば雪で遊び、夏になれば海や川で遊ぶ。
ずっとそうやって生きてきたのに、少し様子が変わってきてしまった。
私がいなくなる頃には、地球はどうなっているだろうか?

いつまでも、子供たちが自然と遊べる世界であってほしい。
真っ白な景色に願った。

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