AG勉強会 第2部〈3〉
女性の健康課題「知らない」を「知る」に
積極的に話題に出して 周りを巻き込もう
Aging Gracefully(以下、AG)プロジェクトは、40代、50代のAG世代の女性たちを応援するために、企業向けの勉強会や一般の方向けの催しなど、さまざまな活動を展開しています。
2023年11月22日には、「フェムテックで職場が変わる? 更年期でも働きやすい環境は」と題した、企業にお勤めの方々向けのAG勉強会を東京・築地の朝日新聞東京本社で開きました。リアルのみの開催で約50人が参加。第1部はAGフレンズで産婦人科専門医の高尾美穂医師が基調講演「女性が働きやすい職場をつくるために」を、第2部は「フェムテックで職場が変わる?」をテーマに企業の取り組み紹介と対談を行いました。
今回は、アツギ株式会社開発本部ブランド戦略部次長でフェムサポチームリーダーの岡持奈那さん、株式会社パソナグループ執行役員でHR本部副本部長の細川明子さん、そして、高尾美穂医師によるディスカッションの模様をお伝えします。司会は朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本真子が務めました。
――細川さんと岡持さんのお話を聞いて、高尾先生はどのように感じられましたか?
高尾 いろいろな企業のみなさんとお話しすると、女性の健康課題の分野に熱い気持ちを持っている社員の方がいらっしゃいます。一部の人だけが頑張ることではなく、「みんなで考えなきゃいけないテーマなんだよね」となれば前に進みやすいので、いろいろな部門の人が周りに広めていく方法はとてもいいですね。トップダウンで下りてくる会社も、アツギさんのようにボトムアップの形で現場から声が出て形になっていく会社もありますが、一つ言えるのは、女性の従業員が多くて、女性の健康のための制度も十分にあるという会社は、意外と少ないということです。逆に「女性は1割もいません」みたいな会社でも、経営陣がご自身の家族の課題として感じて、トップダウンで下ろす場に遭遇したこともあります。
――高尾先生は産業医の仕事もしていらっしゃいますが、その中で感じることはありますか?
高尾 女性がバリバリ働いてしっかり自立できる生活を自分で準備できれば、それほど心配することなく、一人でずっと過ごす生き方もあるでしょう。パートナーが何か病気をされたり、それぞれが事故に遭われたりするケースもありますが、自立できる人が二人のカップルは強いという感覚をずっと持ってきて、女性が経済的に自立すれば解決できることも多いと、ずっと思っていました。でも、そんなメッセージを発信すると、「いやいや、男の人の給料を増やしてくれれば女の人が働かずに済む。それが子どもにとっては一番いいんだ」という声が寄せられることも事実です。
もっと広く世の中を見てみると、いろいろな働き方をする方がいて、いろいろな支援の形が世の中で準備されています。パソナさんは、女性の生き方や働く形がどんどん変わっていく中で、いろいろな働き方、いろいろな社会へのアクセスの方法があっていい、という考えのもとに従業員をサポートしています。いろいろな仕組みが次々にできて、自分のライフスタイルやめざすところに合うものにうまくアクセスできれば、まあまあ自分のやりたいことをやっていける時代。そういう過渡期にいるのだと私も感じています。
フェムテック市場拡大の一方で
――フェムテックは、女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスのことですが、日本でもフェムテック市場が急速に拡大していて、市場規模は600億円以上と言われています。一方で女性の健康課題について、社内向けの制度が整えられていない企業はまだまだ多いと感じています。女性の健康課題を解決するには男性社員も一緒に取り組むことが最初の壁だと思いますが、岡持さんはどのように感じていますか?
岡持 うちの会社はまさにフェムテック商品を作っていて、企画する者はほぼ女性ですが、営業は男性が多く、男性社員のかばんの中にストッキングやブラジャーが常に入っているという特殊な状況です。そんな中で、本業として女性に寄り添っている自負が男性社員にもあって、常に女性のものを取り扱っているから女性のサポートをしなければならない、というような目線はあったのかなと思います。でも、そんな男性社員たちでも、フェムテック、フェムケアと聞くだけで、何かちょっと苦手意識を持ってしまうところがあったので、社内で勉強会を開くなどして、「知らない」を「知る」に変えていくだけでも少し変わるかな、と思っています。
制度としては、生理休暇を全く取得できていないという状況があります。フェムサポでは、「フェム休」と呼び名を変えて、例えば更年期で通院するためのお休みにも使えないかなど、生理休暇をもう一回見直そうという活動をしています。
年齢や性別を問わず対象に
――パソナグループは女性社員の比率が非常に高く、女性が働きやすい環境づくりに早くから取り組まれています。制度を作っていくときに工夫されたことはありましたか?
細川 まずは年齢、性別に関係なく全員が対象になるかどうかを意識しています。時短の制度も性別に関わらず利用できます。当社はエキスパート(派遣)事業を行っており、エンジニア職などの職種によっては男性の方が多いですが、選ばれる働き方、雇用形態として女性が多い状況です。制度や取り組みを通して、男性社員は自分の働く仲間であったり、サポートしているエキスパート(派遣)スタッフのみなさんであったり、ご家族に対してもリテラシーが上がり、多様な働き方を推進できるようになると感じています。
また、みなさんが親しみやすい、すぐに覚えやすいネーミングを意識しています。時短制度は、1990年代当時は特別勤務制度と呼んでいましたが、年月を経て、「もう特別じゃないよね」ということで、「ライフサポート制度」に名称を変えました。「IDOBATA会議」も「I」がイノベーション、変革を起こす、「Do」は行動する、「BA」がソーシャル・ワーク・ライフ・バランスを実現する、バランス、「TA」はタレント、才能・能力を活かす、と頭文字をとっており、ネーミングの浸透しやすさ、思いが伝わるネーミングを意識しています。いろいろなところで発信し、社員への浸透を図っています。
男性が想像するための材料を
――本日の勉強会にお申し込みいただく際に、いくつかの質問に答えていただきました。その中で「更年期で仕事を続けるために職場で実践していることは?」という問いに対して多かった答えが「更年期について先輩や後輩と話す」「無理をしない」「社内教育を行う」という三つでした。また、「更年期でも女性が働きやすい環境を作るにはどうしたらいいでしょうか?」という質問には、「女性も男性も更年期を正しく知る」「オープンに話せる環境づくり」「つらいときにつらいと上司に言える環境づくり」といった回答がありました。更年期の不調を抱える女性社員にとって、会社として、また上司や同僚としてどんなサポートができるのでしょうか?
高尾 今、多くの女性は、社会が変わっていることを肌で感じながら過ごしていて、自分の困りごとは、もしかしたらどうにかできるんじゃないか、という期待を持っています。一方で、男性のみなさんはざっくりと三つぐらいのグループに分けられます。20代前半ぐらいは、「パートナーが子どもを産みました。俺、育休とります」と普通に言える世代。いろいろなことに対して吸収力があるし、親和性も高いですね。
いろいろな物事が変わってきているけど、関係ないかな、と思って過ごしていけちゃうのは、私たちと同世代ぐらいの男性です。この世代の方たちが意思決定者であるケースが多く、見たり聞いたり上から言われたりしているけど、まあいいかな、と思っている人たちが結構います。この世代がどれだけ柔軟に変わっていけるかが、社会が変わっていくスピードを加速させられるかどうかに関わっていると私は考えています
もう一つ、もっと偉くなって、今日のような話題に対してあまり理解ができていない、という世代の方には、周りからあまり言うことができません。その方々に言えるのは、ご家族です。「お父さん、そういうことを言うのって終わっているよ」とか、「その考え方、本当にありえないし」と、パートナーやお子さんが言ってくれて初めて変われるかどうか。この世代が本当に変わっていくには、くり返し話題に出すことが必要です。
男性のみなさんは、本当に知らないんです。白いズボンで生理中を過ごしたくないという女性の気持ちを想像したことがありません。それは、男性の想像力が少なかったためかもしれないけれど、私たちも一生懸命、見せないように生きてきたんです。親の世代はもっとそうでした。今は、男性のみなさんに想像してもらうための材料を手渡す、そういう時期じゃないかと思っています。男性の中には、前向きに変わっていける方もあまり変わっていけない方もいますが、コミュニケーションをとる際にこの話題を避けないことはとても大事だと思います。
細川 企業として、あるいは周りにできるサポートとして、相互理解はとても大切だと感じています。男女の健康づくり、性差理解のセミナーを行ったときに、男性管理職からさまざまな反応がありました。20代半ばで責任者になる社員もいますが、性差のために相手の状況がわからないと、どのような配慮が必要か、どのように声をかけていいかがわからない。なんかちょっとつらそうだけれども声をかけていいのかどうかわからない。はれものに触るような形になってしまい、苦慮していたと。セミナーの後、まずはリテラシーを身につけて、相手を理解することで、非常に円滑にチーム運営が進んでいったとか、お互いの関係構築が深まり、よりスムーズで良好な関係が築けた、という声が多く寄せられました。
岡持 お二人がおっしゃる通り、知ることが大切ですよね。社内で話題にすることはすごく大事だと思っています。勉強会などを積極的に行っていくことで、性差の関係なく相手のことを知ることができます。もしかしたら女性でも生理が重い人のことを理解できないとか、よくある話だと思うんです。そういったことを知る機会を社内で設けることで、社内で話題になりますし、話し合っていくことがすごく大事だなと思いました。私は今、会社が向き合うべきだと言ってくれていますので、どんどんそういった活動をしていきたいと思っています。
高尾 男性が、女性の健康課題に踏み込むには、そもそもの信頼関係が必須です。自分の体調やすごくプライベートなことを、コミュニケーションできていない人に話すはずがないわけで、上司が部下の女性から直接相談されたら、それは相当コミュニケーションがとれていて信頼を得られていると考えていいでしょう。ただ、それでもハラスメントとされてしまうかもしれない時代なので、具体的な方法としてお勧めしているのは、例えば上司から見てあまりコミュニケーションできていないと思う女性の調子が悪そうに見えたら、その方と上手に意思の疎通ができていそうな女性に「あの方はちょっと体調が悪そうに見えるけれど、声をかけてみてくれる?」と頼むことです。そうすれば3人の関係なので、直接ハラスメントになってしまうことはまずありません。
いろいろな形で周りの人を巻き込んでいくと、個々の課題がチームの課題になって、みんなで考えるようになります。体調が悪そうに見える女性を「更年期だから」「生理前だから」と思ってしまうこともありますが、職場での関係性は家族とは違うので、そこは全部を「体調が悪そう」でくくっていいはず。女性も男性も全部ひっくるめて、「体調が悪そうな方にどんな言葉をかけようかな」という考え方がみなさんの中で広がっていけばいいと思います。
>>第1部 高尾美穂医師講演「女性が働きやすい環境とは」はこちら
>>第2部〈1〉アツギ株式会社「フェムサポの活動、会社も社員も変える」はこちら
>>第2部〈2〉株式会社パソナグループ「多様な働き方を選べる環境、社が整える」はこちら
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=品田裕美撮影
◆Aging Gracefully 勉強会「フェムテックで職場が変わる? 更年期でも働きやすい環境は」
2023年11月22日(水)15:15~18:00 朝日新聞東京本社
◇第1部 基調講演「女性が働きやすい職場をつくるために」
高尾美穂さん(産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長、AGフレンズ)
◇第2部 「フェムテックで職場が変わる?」企業の取り組み紹介と対談
高尾美穂さん
岡持奈那さん(アツギ株式会社開発本部ブランド戦略部次長、フェムサポチームリーダー)
細川明子さん(株式会社パソナグループ執行役員、HR本部副本部長)
司会:坂本真子(朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクトリーダー/編集長)
◇第3部 「更年期が幸年期になるカードゲーム」体験会
今井麻恵さん(幸年期マチュアライフ協会代表理事)