革新的豪華客船「シルバー・ノヴァ」今秋初来日 イタリア発着の披露クルーズ
全客室につく執事(バトラー)のサービス。毎日追加料金なしで食べられるキャビアなど、数あるラグジュアリークルーズの中でも一段とぜいたくな高級感を演出し、評価の高いシルバーシー・クルーズ。同社の12隻目の客船シルバー・ノヴァは、SDGsを徹底的に追求した革新的客船として昨年の夏にデビューしました。イタリア発着で行われたシルバー・ノヴァの披露クルーズは斬新でユニーク。今年の秋には早くも日本にやってくるシルバー・ノヴァの魅力とは?
■連載「上田寿美子 クルーズへの招待状」は、クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの筆者がご紹介します。
SDGsを追求、次世代型ラグジュアリー船
シルバー・ノヴァの披露クルーズは、イタリア・ベネチアのマルコ・ポーロ空港から直線距離で約11.5キロメートル離れたフジーナから出発しました。実はこの船を建造したのは、クルーズ船造りにかけては世界トップクラスのドイツ・マイヤー造船所。前回ご紹介した飛鳥Ⅲと同じ造船所なのです。
シルバー・ノヴァはシルバーシー・クルーズとマイヤー造船所が協力し、とことんサステイナビリティ―を追求した次世代型客船です。主燃料はLNG(液化天然ガス)を使用。燃料電池システムとバッテリーを組み合わせたハイブリッド電源を搭載し、港に停泊している間、船内から排ガスを出さないという業界初の試みにも挑戦。廃棄物をエネルギーに変換し、船内の廃棄物量を削減し、焼却排出量を減らすマイクロオートガス化システムも導入。そのほかにも流体力学に基づいた船体設計によるエネルギーの効率化、ショアパワーシステム(停泊中の船舶に陸上から電力を供給するシステム)など、革新的な取り組みは枚挙にいとまがありません。
ゆとりある船内、非対称の美しくも不思議な世界
シルバー・ノヴァは、総トン数54700トンの大きさに対し、定員が728人。船内のゆとり度を判断する指標に、総トン数を乗客定員で割ったパッセンジャー・スペースレシオというものがありますが、シルバー・ノヴァは、1人当たり約75トン。通常、豪華が売り物のラグジュアリー船は60トン以上と言われており、それと比べても断然スぺーシャスな造りです。
加えて「非対称」というシルバー・ノヴァのデザインテーマが、より粋でミステリアスな世界を描き出します。たとえば、プールも従来の客船に多かった中央に配置し左右をデッキチェアが取り囲むのではなく、あえて、プールを右側に置き目の前に海景色が広がるモダンなプールエリアを創出。他の階の廊下を歩いていても、劇場、スパ、バーなどの配置が隠れ家のようで、神秘的なアシンメトリーの世界が楽しめました。
10階の「ザ・マーキー」という大きな木と、格子天井から入る陽光がしま模様を描き出す美しい部屋は、朝、昼、夜とがらりと変わる表情が見もの。朝日の差し込むテーブルでエッグ・イン・グラス(ポーチドエッグに冷製のトマトとベルペッパーのスープを注いだもの)やアサイーボウルなどの爽やかな朝食。気温が上がる昼はガラス戸を開け放し、海風の吹き抜けるピッツェリア「スパッカ・ナポリ」に早変わり。焼き立てのピッツァはこの船の名物といっても過言ではありません。そして、夜のとばりが下りるころ、ライトアップされた室内は、エビや牛肉の石焼きレストラン「ザ・グリル」へと変身します。
眺望の良いオブザベーションラウンジには、秘密の仕掛けも。書棚の中には、開くと光のページが飛び出す魔法の本が隠されていたり、だまし扉から入る図書室には、星空の天井が広がっていたり、わくわくが止まりません。
クロアチアのワイナリー訪問、寄港地の食満喫
シルバーシー・クルーズが2021年から開始したS.A.L.T.(Sea And Land Taste)プログラムは、船と地元のコラボレーションで、そのクルーズ域の食や、食文化を通して旅をより深く味わおうというコンセプト。昨年7月に同社のシルバー・ムーンでも体験したこのプログラムが、シルバー・ノヴァではさらに進化していました。
2日目、シルバー・ノヴァはクロアチアのザダルに入港。ここでは、寄港地で地元の食の魅力を体験するS.A.L.T.の陸上プログラム「Wine & Dine at BIBICh Winery」に参加しました。クロアチアワインは近年、特にヨーロッパで注目を集めているそうで、今回訪れたビビッチワイナリーは、北ダルマチア地方のプラストヴォ村にある家族経営の農場スタイルワイナリー。その歴史は15世紀までさかのぼるそうです。
ブドウ畑の広がる丘の上に立つ白壁の家で「Bibich Debit」「Bibich Riserva 5」「Bibich Bas de Bas」などの5種のワインと料理のペアリングランチを楽しみました。ミニトマト、トリュフ、ローズマリー、タコ、卵など、ほとんどの食材は、ビビッチワイナリーの庭園や近隣から集めたそうで、この地方の名物料理スクラディンのリゾットとビビッチのワイン、 Bas de Basで煮込んだ牛ほほ肉はとろけるおいしさでした。前衛的な食器と、ワイン解説の女性の話術も素敵で、食後は、樽(たる)の並ぶワイン蔵をのぞき、ぶどう棚の下のテラスで一休み。クロアチアのワインヤードを吹き抜ける風を感じた素敵なツアーでした。
そして、夕食はシルバー・ノヴァから始まった新コンセプトの「S.A.L.T.シェフズテーブル」へ。場所は、昼間、料理教室がおこなわれるS.A.L.T.ラボですが、夕方訪れると海側のガラス扉を開け放し、その向こうに広がるアドリア海にちょうど夕日が沈む絶景レストランになっていました。このゴージャスなシーンを背景にこれからアドリア海を含む地中海沿岸にちなんだコース料理が11品、さらにそれに合わせたワインやカクテルも出るというのです。
まず、シェフがエビや、トリュフなどの食材をゲストに見せてまわり、歴史や特徴を解説したあと、目の前で調理。テーブルに運ばれた料理にも、一人一人に地中海名物のかんきつをすりおろしたり、仕上げのソースを掛けたり。まるでドラマのようなレストランでした。シェフズテーブルは別料金で、180米ドル。1回18人のみ。アドリア海の上で、この地域の食を学び、料理とワインとおしゃべりのハーモニーを楽しんだ3時間は、時の流れもあっという間。まるで異次元に迷い込んだような特別感のある食の世界でした。
トリエステ思い出散歩、シルバー・ノートで大人のジャズ
翌日はイタリアのトリエステ。アドリア海の最奥部に位置するスロベニアとの国境都市ですが、かつてはオーストリアの統治下にあり、ハプスブルク家ゆかりのミラマーレ城などが存在する歴史都市です。シルバー・ノヴァは、町の中心地ウニタ・ディタリア広場の傍に着岸。実は昔この広場で行われた某客船の命名式に出席したことがあるので、今回はあえて観光地を見て回ることはせず懐かしい広場まで行き、のんびりと一人散歩。重厚な市庁舎などを見て回りました。何度も訪問した場所では、時にはこんな思い出に浸るひと時も心地よいものです。
今日の昼食は船に戻りレストラン「カイセキ」でランチ。ウニ、ウナギのつまみにアサヒビール。エビ、サーモン、マグロなどの寿司(すし)でとっくりに入った日本酒。イタリアにいることを忘れそうな昼食となりました。カイセキは夕食は有料ですが、昼は追加料金なしで寿司などを食べることができます。
ラストナイトは、念願だったジャズクラブ「シルバー・ノート」へ。ここは、音楽尽くしで、フードメニューにも音楽用語がいっぱい。例えば「アレグロ」の項目には羊のローストなどの主菜が並び、「アダージョ」にはオペラ風ケーキやパヴロワなどのデザート。ジャズの発祥地ニューオリンズにインスパイアされたシグニチャーカクテルのハイノートも注文し、ムーディーなジャズの世界に酔いしれました。
さて、革新的ラグジュアリー客船シルバー・ノヴァは、今年の10月に日本にやって来て東京港発着のクルーズを行う予定です。豪華な食事、行き届いたサービスに加え、ちょっと神秘的なムードも魅力的な最新鋭のシルバー・ノヴァで巡る秋の日本クルーズは、日本人にとっても一味違う至福の船旅となるでしょう。
【取材協力】 シルバーシー・クルーズ https://www.silversea.com/
寿美子さん、
いつも詳細な最新情報ありがとうございます!
お元気そうなお姿も拝見でき、夫Douglas Wardと一緒に楽しませて頂きました。