玉城千春さんインタビュー〈前編〉 特別授業「子どもたちを応援したくて」 家族と暮らし大切に 心動いたら曲作り 坂本真子の『音楽魂』 | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
坂本真子の『音楽魂』
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玉城千春さんインタビュー〈前編〉
特別授業「子どもたちを応援したくて」
家族と暮らし大切に 心動いたら曲作り
坂本真子の『音楽魂』

シンガー・ソングライターの玉城千春さんは今、沖縄県内の小中学校や児童養護施設を訪ねて特別授業を行っています。その中で、児童養護施設の子どもたちや職員の声を聞いて作った歌「あの人の声」を、1月10日にデジタルシングルとして発表しました。女性デュオKiroroでメジャーデビューして二十数年。インタビュー前編では、新しい歌に込めた思いを語ります。

玉城さんは1995年に沖縄県立読谷高校の同級生、金城綾乃さんと2人でKiroroを結成。98年にメジャーデビューして「長い間」「未来へ」「Best Friend」などのヒット曲を世に送り出しました。その後は沖縄で子育てをしながら、2011年にソロアルバム「Brand New Days」を発表。18年にはKiroroのデビュー20周年記念で全国ツアーを行いました。

翌19年、玉城さんは家族と一緒にマレーシアの児童養護施設を訪ねて、歌う機会がありました。

「施設の子どもたちと交流する中で、沖縄県の子どもたちは今、どうしているんだろうと考えるようになったんです」

沖縄県南城市にある児童養護施設「島添の丘」に務める友人から、「子どもたちに会いに来て」と誘われていたという玉城さん。帰国後に施設を訪ねようとしましたが、世の中はコロナ禍に。小中学校が休校になり、授業を再開した後も学校生活は大きく様変わりしました。

「そんな子どもたちを応援したくて、小中学校や施設を本格的に回りたいと思いました」

最初は読谷中学校の放送室へ。キーボードを持参して「みんなの応援に来ました」と語りかけ、「命の樹(き)」を弾き語りしました。

読谷中の校庭には、十数年前に病気で亡くなった生徒のために植えられた「命の樹」と呼ばれる桜の木があります。玉城さんはコロナ禍の前、この木をテーマにして卒業する生徒のために曲を作ることを依頼されました。生徒たちの思いを聞いて詞を書き、曲をつけたのが、「命の樹」という歌です。

「『命の樹』を歌って、子どもたちの未来のために、というテーマで、講演会のような感じで話すことから始めたんです」

思いを受けとめて歌に

次に「島添の丘」を訪ねた玉城さんは、マレーシアの施設とオンラインでつなぎ、両国の子どもたちに交流の場を用意しました。

「同じような境遇の人は世界中にいて、マレーシアの子どもたちとつながることでお互いに励まし合えるんじゃないか、そして、いつか会ってみたいと夢も広がるんじゃないか。未来への不安ではなく、希望や願いに変えられないかと思って、オンラインでつないで歌ったりお話をしたりしました」

そして21年の早春、「子どもたちと一緒に曲を作ってほしい」との依頼が舞い込みます。

「コロナ禍で、いつもは大きな会場でやる壮行会を園内でやることになって、『今年卒園する8人の子たちと何かできないかな』と、(壮行会の)2週間前に話が来たんです。(園職員の)友達の思いに、私も何とか応えたくて、オンラインで子どもたちとディスカッションして、『あなたたちの本当の気持ちを私に届けて。いいこともつらかったことも、何を書いても受けとめるから』と話して、紙に書いてもらったんです」

玉城さんにとって曲作りは、決して楽な作業ではないといいます。

「いつもしんどくなるタイプです。自分で一回とことん考えて、泣いたり笑ったりしながら、希望の光に向かって詞を書いていく感じなので」

このときも、子どもたちから受け取った言葉の数々を読み、悩み抜いて1番の歌詞をまとめました。

「私がびっくりした言葉もありましたけど、それを省かず、あえてきれいに変換しなかったので、ドキッとする歌詞があると思います。『誰もわかってくれない』『殻に閉じこもっていた』といったすごく重い言葉でも、メロディーに乗せて歌うことで昇華できるものもあるんじゃないかな、と思います。子どもたちに向けても、『自分を信じて幸せになる』という姿を表現したかったんです」

2番は、児童養護施設の職員や親の気持ちを想像して歌詞に。メロディーを乗せてできあがった「あの人の声」は、21年3月の壮行会で初披露されました。

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「あの人の声」のジャケット写真=ビクターエンタテインメント提供

そんな玉城さんの活動に賛同した沖縄タイムスの支援を受けて、同年4月から「未来へ #いのちを歌おう」プロジェクトがスタート。県内の小中学校を訪ねて特別授業を行うようになりました。その年、10年ぶりの新曲として「命の樹」「Hope Dream Future」の2曲も発売しました。

「生まれてきてくれてありがとう」

玉城さんはこれまでに約30の学校や施設を訪ね、ライフワークとして特別授業を続けています。

今回、琉球放送(RBC)が約10年前から展開する、児童養護施設で暮らす子どもたちを支援する「応援!18の旅立ち」の新しいキャンペーンソングに、「あの人の声」が決定。デジタルシングルとして発売されることも決まりました。

「2年前に卒園した子どもたちと、いつかまた一緒に歌えたらいいね、それまでに形にするからね、と約束したので、もっと早く完成させたかったんですけど、2番の歌詞がなかなか自分の中で腑(ふ)に落ちなくて時間がかかってしまいました。キャンペーンソングに決まって、やっとギアが入った感じですね。職員のみなさんとディスカッションして、思いを書いてもらって歌詞を改めて作り直したら、やっと腑に落ちました。これで堂々と歌えるし、世の中に早く出そうと思えたんです」

歌の最後は、施設の子どもたちのコーラスをレコーディングしました。

「みんな、すごく喜んで歌ってくれて、思ったよりも声が出て楽しそうでした。ただ、テレビの取材が入っていて、放送されたときに顔が映っていなかったんですね。子どもたちを守るために映していないんですけど、『僕たちの顔は映ってないんだ』と逆に寂しくなったみたいで。だから、頑張っている姿を堂々と世の中に出せるように、いろいろな意味で子どもたちの願いがかなえられたらいいなと思います」

歌詞の重い言葉が胸にズシンと響く一方で、未来への希望を感じさせる「あの人の声」。この歌で玉城さんが最も伝えたいことは何でしょうか。

「『生まれてきてよかった』と、『生まれてきてくれてありがとう』。それ以上でもそれ以下でもなく、これだけで完結します。今、どの学校の特別授業でもみんなに言います。子どもたちもそうですけど、私たちもみんなそうです。本当にみんな、今まで頑張ってくれてありがとう、と。自分に対してもそう思います」

「心も体も健康じゃないと」

玉城さんには3人の子どもがいます。故郷の沖縄で子どもたちとじっくり向き合い、子育てを優先しながら、曲も作ってきました。

「忙しくて大変な状態で作るのは私本来の曲の作り方ではないので、生活の中で自分の心が動いたところで曲を作りたいと思っています。Kiroroの20周年記念ツアーが終わってからは、自分から動いてみようと思って、いろいろなところにアンテナを張るようにしています。家族でマレーシアに行ったのもその一つです。うちの子どもたちが、マレーシアの児童養護施設の子どもたちとどういう風に接するんだろう、自分自身どういう感情を持つんだろうということを知りたくて。実際に子どもたちの様子を見て、たくさん感じるものがありました」

振り返ると、Kiroroで曲を作るときも、歌のテーマを見つけに行く、という作業が多かったという玉城さん。毎日の暮らしを大切にしながらテーマを探し、心が動いたことや等身大の思いを歌にする。その姿勢はずっと変わりません。

「それしかできないんですよ。曲作りも歌もテクニックでできるならいいんですけど、私は思いでやっていて、体で表現できる精いっぱいでやっているので、心も体も健康じゃないとできないんです」

現在、Kiroroとしての活動はしばらく休止中。小中学校を回って特別授業を行うことに力を注いでいます。

「今は子どもたちに関わることをやってみたい、という思いの方が強いですね。学校訪問は私にとって『喜び』なんです。でも、子どもたちは私と世代が違うし、反応もうそをつかないから。自分の歌とお話を子どもたちに届けるには、本気で勝負しないといけない。今まではずっと沖縄でやってきたので、全国で挑戦したいな、という新しい夢も生まれました。『誰?』と言われるかもしれないけど、歌を届けて、子どもたちにどこまで心を届けられるか、子どもたちの心を引き出せるか、震わせられるか。私の活動に興味を持たれた方は、今後の情報をチェックしてみてください」

玉城千春さんインタビュー〈前編〉<br>特別授業「子どもたちを応援したくて」<br>家族と暮らし大切に 心動いたら曲作り<br>坂本真子の『音楽魂』

>>インタビュー後編はこちら

最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本が、音楽の話をお届けします。

取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=山本倫子撮影

玉城千春さんインタビュー〈前編〉<br>特別授業「子どもたちを応援したくて」<br>家族と暮らし大切に 心動いたら曲作り<br>坂本真子の『音楽魂』
「あの人の声」のジャケット写真=ビクターエンタテインメント提供

デジタルシングル「あの人の声」

音楽ストリーミングサービス、及び、ダウンロードサービスで配信中。
https://jvcmusic.lnk.to/anohitonokoe

◆RBC「応援!18の旅立ち」2023チャリティーキャンペーン https://www.rbc.co.jp/18tabidachi/

◆Kiroro 公式サイト https://www.kiroromusic.com/

◆玉城千春 公式インスタグラム https://www.instagram.com/chiharu_kiroro/

◆Kiroro 公式X(旧Twitter) https://twitter.com/kiroro_official

◆Kiroro 公式YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCzkVMo3UtH4zLDFxp7B7PWw

玉城千春さんインタビュー〈前編〉<br>特別授業「子どもたちを応援したくて」<br>家族と暮らし大切に 心動いたら曲作り<br>坂本真子の『音楽魂』
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