たくさん失っても誇れることがある。二人に感謝とエールを
フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
村山友理さん(仮名) 36歳
会社員
東京都在住
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私は3人姉妹の長女として、何不自由ない子ども時代を過ごしました。父と母の経営する会社が順調で、金銭的な理由で何かを諦めなければならないということは、ほとんどなかったと思います。
そんな順風満帆だった私たち家族の生活が傾き始めたのは、私が高校生の頃です。会社の経営に行き詰まった両親はうまい投資話に乗ってしまい、あげく失敗。さらにそこに東日本大震災が起こりました。幸い直接的な被害はありませんでしたが、甚大な被害を受けた県であったため、経済が停滞し、風評被害もありました。
それからは、さらに経済的に苦しい毎日が始まりました。子供たちに心配をかけまいと、両親は多くは話しませんでしたが、毎日食べるのもやっとということもあったのでしょう。そもそも人を笑わせたり、モノマネをしたりするのが好きな父がとくに落ち込んで、お酒を飲まないと眠れない時期もあったようです。私は認めたくありませんが、生きることを諦めようとしたことも一度ではないはずです。
そんななか取引先にお願いして仕事を増やしてもらったり、支払い期限を延ばしてもらったりして、多くの人に助けられながら両親は踏ん張って、何とか会社を続けることができました。私もそのとき大学3年生。残りの1年は奨学金に応募するなどして、無事卒業しました。両親もその後地元から少し離れ、ぜいたくはできないもののつつましく暮らしています。
そんな歴史を歩んできた私たち家族ですが、たくさんのものを失っても、いまなお誇れることがあります。それは、家族の仲がとてもいいことです。苦労したことで家族の絆はより強くなったかもしれません。苦しかった時代のことを思い出してみても、不思議なほど家のなかはギスギスしていなかったのです。よく家族で集まってご飯を食べたり、姉妹でお金を出し合って、両親に温泉旅行をプレゼントしたりしたこともあります。
今、3姉妹の私たちはそれぞれ結婚し、今では両親に2人の孫がいます。お正月やお盆などの休みはもちろん、時間さえあれば会いに行ったり、会いに来てくれたり。電話やラインでのやりとりも日常です。3世代で食べるご飯が本当においしくて、いつも幸せをかみ締めています。何にも代えがたい、私の宝物です。
それも、おしゃべりが大好きでひょうきんな父と、心の底から明るく逆境にも屈しない母のおかげです。二人はもうすぐ結婚40年を迎えます。人を喜ばせることが大好きな二人に、ときにはこちらからお花のサプライズプレゼントができたら、と思い応募しました。これまでの感謝とエールとともに、東さんの優しさにあふれたお花を贈っていただければ幸せです。
花束をつくった東さんのコメント
ユーモア好きのお父様と明るいキャラクターのお母様のイメージから、色鮮やかで珍しいお花を選んで、ユニークなアレンジを作りました。
花びらに模様が入ったコチョウランや、ピンクッションというネイティブフラワーのほか、周りを囲んだ葉ものも、ピンクがかったものを使っています。長持ちする花材も入っているので、お二人で長く楽しんでいただけたらと思います。
文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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