頭全体をぎゅーっ 頭皮を動かして血流改善
AG女子のテキトー美容『叱られ塾』
40代に入った頃からでしょうか。髪のボリュームがだんだん減ってきたように感じています。一方で白髪は増え、髪を染める回数も増えました。抜け毛も増えて、つむじの周辺の毛が薄くなったような気がします。
少しでも髪を元気にしたくて、以前はドラッグストアで育毛ローションを、最近はネット通販で少し高価な育毛剤を購入し、髪を洗った後にパシャパシャとつけています。でも、それほど効果は感じられないまま過ごしてきました。
まずは自分の髪に少しでもボリュームを取り戻したい。そう考えて、女性向け育毛剤ブランド「モルティ」や、薬用育毛剤「髪姫」などを製造販売するバスクリンのつくば研究所(茨城県つくば市)を訪ねました。対応していただいたのは、同社で長く育毛剤の研究開発に取り組む丸茂愛さん。製品開発部素材開発グループのグループ長を務めています。
髪を元気にするために、まずやるべきことは? 丸茂さんに尋ねると、「頭皮マッサージが大切です。頭皮をもみほぐして、血流を良くしていきましょう」という答えが返ってきました。
指の腹で押し、一回止めて離す
頭皮マッサージのコツや注意した方がいいことはあるのでしょうか。
「たとえば頭頂部が気になるからそこだけ、ではなく、毛細血管は頭全体を巡っているので、全体をもみほぐすことが重要なんです。自分が気持ちいい程度に、指の腹で頭皮を押さえます。ゴシゴシこすったり爪を立てたりすると頭皮を傷つけることがあるので避けてください」
これまでの私は、育毛剤をパシャパシャとつけた後、両手で適当にサラサラと頭皮をこすって終わり、でした。正直に告白(ざんげ?)すると、一瞬の沈黙が。
「うーん……。パシャパシャ、サラサラでは頭皮の血流改善にあまり効果がないですね」。優しい笑顔で、しかしバッサリと丸茂さんに叱られてしまいました。
「まずは頭全体をもむこと。そして表面をこするのではなく、頭皮をちゃんと動かす方がいいですよ」
頭皮を動かす?
「指の腹でぎゅーっと押して離す、というだけでもいいんです。一回止めてから離すことで血管をビュッと血が流れます。気持ちいい範囲でぎゅーっと押して、離してください。そして、指の腹でモニモニと押して皮膚を動かすようなイメージですね。気持ちがいい程度の圧力でやっていただければ」
そう話しながら、丸茂さんは両手の指を広げて頭に当てて、ぎゅーっ。私もさっそくまねをして、頭を両手の指の腹でぎゅーっと押し、一回止めてから指を離してみました。場所を変えながら何度か繰り返すと、頭が少し温かくなったように感じました。
このマッサージは朝昼晩のいつ、何分間ぐらいやればいいのでしょうか。
「育毛剤などを使っているのであれば、つけるタイミングでやっていただくと、マッサージの効果と商品の効果で血流がより良くなります。入浴後は全身の血流が良くなり、頭皮の血流も良くなるので、その状態でマッサージすることをおすすめします」
ただし、頭皮マッサージをストレスと感じないことがポイントだそうです。
「マッサージをしなければいけないと思って、それがストレスになってしまったら意味がありません。たとえば、お風呂につかりながらのマッサージは、全身の血流が良くなっているのでおすすめしたいですが、お風呂でゆっくりしたい方は無理せず、入浴後にしましょう。また、長時間だと疲れるので、1分間でも構いません。やらないよりはやった方がいい、というぐらいの、できる範囲で始めてください」
そんなにゆるくていいんでしょうか?
「私たちは100%完璧に全ての効率効果を求めがちですけど、100%頑張っても続かないことがあります。毎日5分などとノルマを決めると『やらなきゃいけない』と苦痛になるので、『今日はこのぐらいで』という楽な感じがおすすめです。自分がいいとき、いいやり方で、続けられるところを見つけて無理なく毎日やるのがいいと思います」
なるほど。少しずつでよいなら、毎日続けられそうな気がします。
ヘアサイクルを保つには
髪や頭皮の仕組みについても教わりました。
髪には「ヘアサイクル」があり、毛が成長する「成長期」、成長が止まる「退行期」、毛が抜けやすくなる「休止期」を循環しています。成長期は男性だと2~5年、女性は4~7年と言われ、退行期は2~3週間、休止期は3~4カ月。髪全体のうち、成長期が8割から9割弱、退行期の本数は少なく、休止期が1割ぐらいです。
「正常なヘアサイクルが維持できていれば、抜けた後に新しい髪の毛の元が作られています。抜け毛を気にするよりは、頭皮の健康を維持することを心掛けましょう」と丸茂さん。毛が成長する速度は3日で約1ミリと言われています。
しかし、年齢と共に、ヘアサイクルや頭皮の状態に変化が訪れます。
「頭皮が年齢的なダメージを受け、健康な状態でないと、健康な髪は育ちません。毛が細く柔らかくなる『軟毛化』と呼ばれる現象は、成長期が短くなり、毛がしっかり育たないことが原因で起こります。その結果、毛が細いまま抜けたり、抜け毛が増えたりすることもあります。また、女性も少なからず男性ホルモンの影響を受けているのですが、年齢を重ねると女性ホルモンが減って男性ホルモンの影響が大きくなり、そのために脱毛が誘発されると言われています」
同じ位置で髪を分けたり、きつく縛ったり、白髪を染めたりという物理的な理由で髪が抜けやすくなることもあるそうです。分け目に紫外線が当たりやすくなるなどの負荷がかかり、頭皮がダメージを受けるためです。
とはいえ、抜け毛を心配しすぎることはないと、丸茂さんは言います。
「個人差はありますが、髪は1人あたりおよそ10万本。その1割、約1万本が休止期で抜けやすい状態になっています。その休止期の髪約1万本がおよそ100日かけて順番に抜けていくので、1日に70本から100本ぐらいの抜け毛は正常の範囲と言えます」
一方で、休止期の長さや割合が増えることもあります。その原因は、産後、ストレス、栄養の偏り、ホルモンバランスの変化など。こうした過剰な抜け毛を防ぐカギを握るのは、血流です。
「頭皮と毛根を横から見ると、毛根の周りに毛細血管がたくさんあります。毛細血管は栄養を運んでいます。髪自体は死んだ細胞ですが、元は細胞分裂してどんどん伸びる、成長の早い細胞の一つなんですね。髪が成長するためには毛細血管からたくさんの栄養をもらうことが必要で、頭皮の中を走る血流がとても重要な役割を果たしています。でも、この毛細血管がストレスなどで収縮すると血行が悪くなり、髪に十分な栄養がいかなくなって、毛が太く育たなくなってしまうんです」
たんぱく質も睡眠も運動も
頭皮と髪の健康を保つために、マッサージ以外にできることは何でしょうか。
「髪はたんぱく質からできているので、健康的な髪を生やそうと思ったら、動物性、植物性を問わず、良質のたんぱく質を食べること。そして、血流を良くするために、ちゃんと寝て適度に運動する生活をおすすめします。漢方の古典でも、『血(けつ)』が滞ると元気で健康な髪にならない、とされています。血流は大事なんです」
気持ちいいと感じる程度の刺激であれば、ブラッシングも血流改善に効果があるそうです。ただし、頭皮を傷つけないように注意が必要です。
「休止期の長さや割合が増えたと感じる方は、育毛剤をまず半年使っていただくと、休止期の割合が少なくなって、通常に戻っていきます。育毛剤の種類にもよりますが、基本的には決められた量を守って、毎日継続してつけることが大切です」
そして頭皮ケアに使う育毛剤やローションは、必ず保湿成分が入ったものを。
「みなさん、顔はちゃんと保湿されていると思うんですけど、頭皮はあまり気にしないですよね。でも実は、顔の皮膚より3割ぐらい乾燥していると言われています。頭皮の保湿も忘れないでください」
「AG女子のテキトー美容『叱られ塾』」2回目は、私がここ数年気にしている髪の健康、育毛をテーマに取り上げました。ここ数年は同世代の友人に会うと、「髪のコシがなくなった」「頭頂部がペシャッとしてきた」といった話題になりがちです。
私は美容師さんに「頭皮がコチコチに硬い」と言われることが多く、頭皮マッサージの方法もなんとなく聞いたことがありました。継続することが苦手で、これまでまともに取り組んできませんでしたが、今回、そんな私でもできるかも、と励まされました。少しでもボリュームを取り戻すことをめざして、あまり気負わずに、ゆるく長く毎日、頭皮をマッサージしたいと思います。
肌や髪のケア、化粧など、みなさんはどんなことに気をつけていますか?
40代、50代は、体にさまざまな変化が訪れます。美容も、若い頃と同じやり方では保てないことも増えてきます。
これまで美容全般に無頓着だったAging Gracefullyプロジェクトの坂本も、ふとしたことがきっかけで危機感を抱きました。専門家に「叱られ」ながら、少しずつ学んでいきます。
坂本 真子(さかもと まさこ)
朝日新聞記者として主にポピュラー音楽を取材。新聞紙面と朝日新聞デジタルの編集者も長く務め、人事部では社員研修や学生向けのインターンシップを担当。2021年12月からAging Gracefullyプロジェクトリーダー/編集長。
子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、今は音楽と埼玉西武ライオンズを愛するAG世代。
イベント出演時はヘアメイクさんに整えてもらいますが、普段は「テキトー美容」で過ごしてきました。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
イラスト=Kamikawa
イラスト協力=日本工学院専門学校 クリエイターズカレッジ マンガ・アニメーション科
写真=バスクリン提供
監修=AGフレンズ 松本千登世さん
◆バスクリン 公式サイト https://www.bathclin.co.jp/
「AG女子のテキトー美容『叱られ塾』」バックナンバーです。
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