親子になって一緒に過ごした半年間 大好きだった義父へ
フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
阿部 美恵子さん 49歳
公務員
東京都在住
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昭和10年生まれの義父は、昨年10月、87歳の誕生日の直後に病気で亡くなりました。
義父の一人息子は私の大学時代の同窓生で、2年前にたまたま私と再会し、縁あって昨年5月に結婚しました。義父にとって私はわずか半年間の娘でしたが、初めて会ったとき「本当の娘ができたみたいにうれしい」と言ってくれた言葉の通り、亡くなるまで実の子のように私を可愛がって仲良くしてくれました。
私も義父が大好きでした。義父は山形県庄内地方出身で、大学に入るために上京して東京で就職しましたが、故郷の山形をこよなく愛しており、私にもよくその魅力を話してくれました。
もともととても穏やかな人柄で、誰にでも優しく実直な人。生き方も派手さや華やかさは求めず、人より目立ったり、自分が人より得したりすることも望まない人生だったと思います。そんな義父がニコニコしながら山形の話をしている楽しそうな様子が、今でも目に浮かびます。
銀座のデパート店員だった義母とはお見合いで結婚。美人の誉れ高く、朗らかで家事も得意だったので、さぞや幸せな結婚生活だったと思います。夫婦で仲良く一人息子を可愛がり、趣味である家族旅行や親戚一同での旅行にたくさん連れて行ったそうです。
そうして義父がこよなく愛していた義母は、70代から認知力が低下し、食事の世話など義父が一手に引き受けていました。心配がやみませんでしたが、私たちの結婚直後には義母も、とても良い環境の施設への入所が決まりました。
義母の施設入所と、一人息子の結婚がかなって、義父は心から安心したのでしょうか。病気が見つかりましたが、亡くなる間際まで普段と変わらない一人暮らしの生活を送っていました。必ず毎朝きちんとした服装に着替え、庭の花や野菜の手入れをし、家をきれいに掃除して、朝ごはんを自ら作り……。毎週末は夫と2人で実家に向かい、泊まりがけで義父と楽しい時間を過ごしました。
そうして心身ともにしっかりした状態で、「思い残すことはないよ」と言わんばかりに安らかに旅立った義父。目の前に迫った一周忌を前に、大好きだった義父に贈る花束を作っていただけますと幸いです。“実の娘”として一緒に過ごせてうれしかった……そんな思いをお花に込めて、天国の義父に届けたいと思います。
花束をつくった東さんのコメント
亡きお義父様の実直な人柄や、山形の風景などを思い浮かべながら、グリーンのお花のみでおまとめした穏やかな雰囲気のブーケです。
ケイトウ、ナデシコ、スプレーバラ、フロックスなど、すべてグリーンの色でまとめました。男性にお花をお贈りするときによく作るのがこのグリーン一色のブーケ。とはいえ花は、あえてさまざまな形のものを選びましたので、その妙を楽しんでいただけると思います。足元に置いたのは山に生えているカクレミノというグリーンです。
やさしかったお義父様の思い出話などなさりながら、お花をじっくり楽しんでいただければと思います。
文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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