PLAY!@立川へ、新しい遊び場のカタチを探りに【後編】
この夏、NYから東京へ一時帰国していた久保純子さん。久しぶりの東京で、気になっていた「子どもの遊び場」を訪れました。その模様を前・後編に渡ってお届けします。
自然体でいられる空間
―今回、美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」を体験していただきました。感想を教えてください。
久保:入った瞬間から、居心地の良い空間でした。もちろん作られた空間ではあるのだけれど、自然体でいられるような、リラックスできる空気感が好きでした。子どもたちが本当に、冒険や探索できる空間だなと思いました。
―一番印象に残ったところはどこでしたか。
久保:PLAY! PARKの「大きなお皿」です。ぬくもりもありますし、設置されていた遊具「ざーざーざら」のテープの音だったり、程よい弾力のフロアだったり、五感が刺激されるようになっているのもとても魅力的でした。こういうところに来ると、自然に走ったり、追いかけっこしたりしたくなりますよね。
久保:広いスペースってなかなか東京都内にはないですし、コロナ禍だったというのもありますが、公園で遊ぶこともできなかった昨今ですから、 無我夢中で没頭して、気の赴くままに縦横無尽に走り回れる空間は素晴らしいと思います。子どもたちが本来のクリエーティブな姿に戻れる場所は貴重ですよね。
―ニューヨークでもお勤め先の幼稚園で子どもたちといろんな遊びをされていると思うのですが、何か共通点はありましたか。
久保:たくさんありました。モンテッソーリでは、子どもたちが「教具」を使いながら、算数、言語、日常生活、感覚器を学んでいく「お仕事」と呼ばれる活動があります。子どもたちは、教具を自由自在に操って、自分でできることを広げていって、自分の力で成長していきます。PLAY! の空間でも同じように、自分が好きなように没頭して、満足感が生まれて、幸せな気持ちで満たされて、次に挑戦しようという気持ちが生まれるのは、とても共通していると思いました。
人間って、満足感が生まれると、次もがんばろうという力が湧いてくると思うんです。何かをやらされるのではなくて、自分がやりたいことを模索することで、新しい扉が開かれて、新しい自分と出会い、成長していける。そういう人本来の姿がここにあるなと感じました。
自分が子どもの頃に感じたことをたどって
―久保さんの子育てはどうだったのでしょうか。
久保:私の子どもは今、21歳と15歳と大きくなったのですが、子育てを始めるに当たっては、子育てガイドブックをほとんどといっていいほど読まなかったんです。初めての子育てで「こうしなくてはいけない」と言われると、真面目に取り組んでいっぱいいっぱいになってしまうと思ったので。なるべくそういった情報に触れずに、自分でいいなと思ったことや、自分が子どもの頃にこうしてもらったから楽しかったな、ということを思い出しながら子育てしてきました。
久保:例えば私の両親は放任主義で、勉強しなさい、こうしなさいと言われたことが全くなかったんです。共稼ぎで忙しかったということもあると思うのですが、 私は「おなかが空いたな」と思ったら、スライスチーズをチンして焦げてバリバリになったものを食べる(笑)など、今思うとクリエーティブにいろいろなことをしていたな、という思い出があるんですよね。
久保:だから私も、子どもにこうしなくてはいけないとか、勉強してね、宿題やってね、この時間には寝ましょうねみたいなことは言ってこなかった。絵本を読むのも、特に我が家の子どもたちは『バーバパパ』が好きだったんですけど、何十冊もあるようなシリーズを延々と読み続けながら寝ていましたね。子どもが楽しいことと、私が楽しいことをつなげてきた感じがあります。
―子どもが楽しいことと私が楽しいことをつなげてきた、というのはすごく面白いですね。
久保:私は子育て中にずっと仕事も続けていたので、一緒にいられない時間が多かったというのもあるのですが、子どもたちとはなるべく一緒に楽しめることをやろうと思っていました。例えば美術館に行って、子どもは小さいから詳しいことはわからなくても、「これきれいだね、どうしてきれいなんだろう」「どの色が1番好き?」など、子どもがわかる視点で、いろいろな話をしながら探検していました。
―久保さんご自身にもご両親の影響は大きかったのですか。
久保:大きいですね。やはり親の背中を見て育ってきた気がします。親にないものは子にはないなと、我が子を見ていても思います。親は責任重大ですよね。でも私はダメダメママなので、駄目なところを100パーセント前に出しています。 だから、よく「やらかす」んですよ。
今回、ニューヨークから東京に来る時も、 飛行機の手荷物を忘れて降りちゃったんですよ。そうしたら、1時間半くらい出てこなかった。その貴重な1時間半、子どもたちは2人で「ママ、まただよ」みたいな感じで見ていました(笑)。ダメな自分もいっぱい見せてるし、がんばる時も見せてるし、いつもその時々で自然体でいるようにしています。ママだから全知全能ではなくて、知らないことがいっぱいで、失敗もいっぱいするけれども愛情はあるよ、と示してきたとは思います。
ニューヨークと東京の子どもの遊び
―ニューヨークでは子どもたちはどうやって遊んでいるんでしょうか。
久保:ニューヨークも東京と同じように、みんな忙しいのと、遊び場が少ないので大変です。「プレーデート」と言って、遊ぶ約束をしてからおうちで遊んだり、公園で待ち合わせたり、プールに行ったりします。中学、高校くらいの年代になってくると、自分たちだけで映画に行ったりしていますね。
久保:ニューヨークの子どもは本当に忙しそうです! 水泳やサッカー、柔道、柔術などの習い事が人気で、お勉強は夏になるとお泊まり学習キャンプに入れる親御さんも多いです。小さい頃から可能性探しみたいなことをしていて、日本、韓国と同じくらい熱心ですね。アメリカでも、ニューヨークだけなのかもしれないですが。
―プレーデートでは、どちらかのお家で遊ぶことが多いんですか。
久保:そうなんです。基本的にはどちらかの家で遊んでいます。東京と同じように、広い場所がほとんどないですから。環境は東京都心の子育てと似てると思います。でも少し違うなと思うのは、ニューヨークでは美術館も博物館も小さい子どもウェルカムなんですよ。メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館、ブルックリン美術館もそうです。美術館は、子どもは入場料が無料です。
日本のお母さんは、私もそうでしたが、「人に迷惑をかけないようにしてね」と注意することが多いですよね。だから美術館や博物館に幼児を連れて行くことも騒いでしまうかもしれないと躊躇(ちゅうちょ)する。でも、日本でよく言う「迷惑をかけない」という言葉は英語にはないんです。あえて言うとすれば、「Be mindful of others (みんなに優しくね)」「Behave(ちゃんとしてね)」。こちらでは、子どもに「人に迷惑をかけないでね」という言い方をすることがないのです。
人との距離感が、全然違いますよね。ニューヨークでは美術館、博物館、映画館はもちろんのこと、ブロードウェーのミュージカルやバレエの鑑賞などに子どもを連れて行くのは、ウェルカムです。小さい頃からそういう空間に慣れ親しんで、社会性を養い、本物に触れていくのは大事だなと思います。
―最後に、今回の体験を通じて気づいたことを教えてください。
久保:子どもたちが生き生きとしている場所が、身も心も育つ空間なのだと思いました。母親ってついつい、子どものためにと余計なことをしてしまいがちですが、本当は何もないところでも遊びを作り出せる能力があります。与えられているばかりだと、何もできなくなってしまう。自分で自分のことを創造できなくなってしまうんですよね。 私たちは、無から何かを作り出すという、子ども本来の素晴らしい能力を思い出させてあげなくてはいけないんだと再確認させてくれる場所でした。
取材・文:池田美樹
写真:野呂美帆
PLAY!
〒190-0014
東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟
MUSEUM(2F)042-518-9625
PARK(3F)042-518-9627
・営業時間
MUSEUM/~10月1日:10:00-18:00(入場は17:30まで)
PARK/平日 10:00-17:00(入場は16:00まで)、土日祝 10:00-18:00(入場は17:00まで)
子供にとって環境は、大事ですね。私も保育士の経験があるので、よくわかります。
久保ちゃんの顔の表情が最初は先生の目線だったかもしれないけど、最後は同じレベルで遊べる空間を実感している表情に。プロも納得の施設なんだなって感じました。素敵な番外編でしたね。久保ちゃんが見事に引き出してくれました
環境って大事だなぁ!
あの、3歳頃からの物心がついてからの、よかったなぁって感覚は今でも覚えています。しかも、親にも、その周りいた人たちにも今でも感謝の気持ちが湧いてきます。
だから、環境って大事なんですね!🎵