PLAY!@立川へ、新しい遊び場のカタチを探りに【前編】
この夏、NYから東京へ一時帰国していた久保純子さん。久しぶりの東京で、気になっていた「子どもの遊び場」を訪れました。その模様を前・後編に渡ってお届けします。
今の東京で行ってみたかった場所へ
久保純子さんが今の東京でぜひ行きたい、と思っていたという場所は、立川市にある、美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」。東京・立川駅北口に2020年6月にオープンした新街区「GREEN SPRINGS」の一角にあります。
「PLAY!」はPLAY! MUSEUM(プレイミュージアム)とPLAY! PARK(プレイパーク)からなる2階建ての施設。PLAY! MUSEUMは、絵とことばがテーマの美術館で、PLAY! PARKは、子どものための屋内広場となっています。
普段、ニューヨークでモンテッソーリ幼稚園の先生として子どもたちに教え、また、長年「言葉」をライフワークのひとつにしている久保さんは、自身の大切にしているキーワードと一致する「PLAY!」がどんな場所なのか興味津々のご様子。さっそく現地を訪れてみました。
館長は、建築家の手塚さん
「PLAY!」の入り口でニコニコと笑みを浮かべ、待っていてくれたのは、青い服に身を包んだPLAY! PARK館長の手塚貴晴さん。PLAY!の内装設計を担当した手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)の建築家であり、東京都市大学教授も務める方です。
建築家。1964年東京都生まれ。87年武蔵工業大学卒業。90年ペンシルバニア大学大学院修了。90~94年リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン勤務。94年手塚由比と手塚建築研究所を共同設立。2003~09年武蔵工業大学准教授。05、06年ザルツブルグ・サマーアカデミー教授。06年UCバークレー客員教授を経て、09年より東京都市大学教授。20年よりPLAY!館長。手塚建築研究所にて、OECD(経済協力開発機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた「ふじようちえん」を始めとして、子供の為の空間設計を多く手がける。国内では日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、こども環境学会賞などを受けている。大学生の長女と、高校生の長男、二人の父。
「『PLAY! 』の大きなコンセプトが『ありそうでない』なんですよ。とにかく今までなかった美術館や遊び場を作ろうと思いました」と手塚さん。
まずはPLAY! MUSEUMから案内していただきます。ここは、絵とことばがテーマの美術館。絵本やマンガ、アートをはじめ、デザインや工芸などざまざまなジャンルの展覧会を行います。一般的な美術館と違うところは、参加型のイベントや、五感を使って楽しめる展示も多く開催されるところ。
「この美術館は、スペースが渦巻き状になっているんです。貝は入り口から入って、だんだん渦巻きながら内側に入っていくでしょう。あの中に入っていくイメージでデザインしました。今日は『エルマーのぼうけん』をテーマにした展示ですが、 大人が絵本を読んであげていると、子どもがだんだん寝入って、夢の世界に入っていくという状況を作り上げようとしています」
『エルマーのぼうけん』は、りゅうの子を助けに行った9歳の男の子エルマーが、機転をきかせて困難をのりこえていく冒険物語です。わあ、と声を上げながら手塚さんと一緒に絵本の世界へと足を踏み入れていく久保さん。
『エルマーのぼうけん』展の会場内には「ぼうけん図書館」があり、世界中の「ぼうけんの書」が紹介されています。
懐かしい本、思い出の本を見つけては語り合う久保さんと手塚館長。PLAY! MUSEUMはさっそく、おふたりを夢の冒険の世界に連れていってしまったようです。
「大きなお皿」で子どもに返る
次は今回、久保さんが一番訪れたかったという子どものための屋内広場、PLAY! PARKへ。上階へと階段を登っていくと、天井の高い約1,000平米の広々とした空間が広がります。
ここでまず目に入るのは、中央にどーんと広がる遊具「大きなお皿」。直径がなんと22メートルと、学校のプールほどもある大きな遊具です。
突然走り出したのは、おちゃめな手塚館長。「大人も思わず走りたくなりませんか?」ぐるぐる走り始めました。その後を追う久保さん。白い大人と青い大人が、はしゃぎながら追いかけっこしています。
「何をしても怒られないこんな広い空間は貴重です! 走り回れますね!」と久保さんが走りながら言うと、「PLAY! PARKのデザインはここから始まったんですよ」と手塚館長。どういうことなのでしょうか。
「PLAY! PARKのコンセプトは動物園なんです。大人と子どもが一緒にいられて楽しい施設ってなんだろう、と考えました。私が一番好きなのは動物園。なぜなら、子どもの視線と大人の視線が同時にあるからなんですよ。それで、PLAY! PARKは、動物ではなくて子どもを入れちゃおう、ということにしました」
そうやって作ったコンセプトが「子どものお皿」。最初に作ったイメージスケッチには、文字通り大きなお皿に大人も子どもも入ったり、周囲で遊んだりしている姿が描かれています。
「そのうち、子どもだけじゃなくて大人も動物だって気がついて、一緒にお皿に入って遊んでもらおうと思いつきました。実際やってみたら、すごく楽しいんですよね。動物よりも人間の方がリアクションが豊かだし、いろんなことをします」と手塚さん。
「それがこの『大きなお皿』なんですね」と久保さん。この日は透明な「平テープ」がたくさん集まってできた「ざーざーざら」と名付けられた大型遊具が設置されていました。遊び方は自由。テープの雨の中を駆け抜けたり、下をくぐってみたり、伏せてみたり、ジャンプしてテープの中に飛び込んでみたり。お皿の中に転がっている大きなたまごを転がしてみるのも楽しそうです。
親子のつながりは築き上げていくもの
PLAY! PARKには「大きなお皿」以外にも、3歳未満の子ども専用ゾーン「小さなお皿」、様々な材料や工具を使ってものづくりができる「ファクトリー」、手づくりの楽器でリズム遊びやグランドピアノが自由に演奏できる「スタジオ」、「『はらぺこあおむし』の絵本作家エリック・カールの制作技法にならったワークショップが体験できる「絵具コーナー」、日本や海外の絵本が700冊以上揃(そろ)う「ライブラリー」などがあります。
「どれも一度も見たことのない遊具ばかりですね」と久保さんが感心していると、手塚さんは、「ありそうでなかった遊び道具を作ろう」と、東京都市大学建築学科・手塚研究室の学生達が、PLAY! PARKキュレーターとともに企画・制作をしてくれるのだと教えてくれました。
自由になれるきっかけ
「ここには既存の遊具製品は置かないことにしたんです。今、遊具に説明書が必要な世の中になってしまったでしょう。こうやって遊びなさい、という決まりがあると、自由じゃないですよね。ここでは、子どもの自発性を尊重していきたいんです。こうやればこうなる、ということが決まっていると、それは誰かがルールを作ったゲームになっちゃう。そうじゃなくて、自由になれるきっかけを作りたかった。だからこれは遊具製品ではなくて、アート作品という位置づけなんですよ」
「すごいわかります」と久保さん。「遊具が並んでいるだけでは何も始まらないけれど、そこから会話が始まるとか、お互いが触れ合うことによって何かが生まれていくというのが人間ですよね。ここにはそれがよく現れている感じがします」
「日常生活や親子関係という『ライフ』の中に、決まりとか順番とかは、そんなにないじゃないですか。子どもが親とつながりながら学んでいくものですよね。そういう当たり前の感覚を、ここでどう作っていこうかと思ったんです。レジャーなんかしなくても、親と子が当たり前に近くなれる、一体になれる、 そういう感覚がほしかったんですよね」と手塚さん。
「本当にそう思います」と久保さん。「親子のつながりや絆って、自然にできるものではなくて、築き上げていくものだと思っています。わかり合えるのが当たり前ではなくて、全く違う人格で、違う存在として生まれてきているから、 お互い理解する努力が必要なんですよね」
学校に行かなきゃいけない、会社に行かなきゃいけない、塾がある、習い事がある……。親子が何にもしないで一緒にいられる空間は、日常生活ではあまりない。だから、こういう自由な遊びの空間で、人として大切なことを学び、親子の関係を築いていく体験は貴重なのだ、と、久保さんは改めて思った様子でした。
取材・文:池田美樹
写真:野呂美帆
PLAY!
〒190-0014
東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟
MUSEUM(2F)042-518-9625
PARK(3F)042-518-9627
・営業時間
MUSEUM/~10月1日:10:00-18:00(入場は17:30まで)
PARK/平日 10:00-17:00(入場は16:00まで)、土日祝 10:00-18:00(入場は17:00まで)
素敵な場所ですね。いつか孫を連れて行ってみたいです。
子供にとって一番大事なのは正解なんてなくて自分の考え方、発送で楽しむ。次には経験をすることだと思っています。経験、体感は生涯忘れることはありません。ネットの世界ではバーチャルでは出来ても疲れるとか、暑いとか高いとかは感じられない。だからこういう空間はとても大事。美術館という名前はやや敷居が高いイメージだが中に入れば美術館であることを忘れてしまいそう。是非子供には行ってもらいたいですね。わが母校の同期の方ですね。
大きなお皿!
立川へ行って、私もPLAY!を体験したいです🎵