甑島、上五島、済州島……フランス高級船で島めぐり(後編) | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
上田寿美子 クルーズへの招待状
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甑島、上五島、済州島……フランス高級船で島めぐり(後編)

下甑(しもこしき)島にはゾディアックで上陸。大漁旗の出迎え=鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市、上田英夫撮影

前編からつづく

「ル ソレアル」の九州アイランドエクスペディションクルーズも、いよいよ、後半。鹿児島県の下甑(しもこしき)島、長崎県の上五島、そして、韓国の済州(チェジュ)島へと続きます。冒険心をくすぐる上陸方法、地元の熱い歓迎、そして各島の文化や歴史に触れ、さらに船上では、専門家の話を聞き、ゲームやダンスで和気あいあい。南極や北極クルーズも多数行っているポナン社の客船による日本発着クルーズは、極地クルーズへの第一歩とも言える貴重な体験を提供してくれます。

連載「上田寿美子 クルーズへの招待状」は、クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの筆者がご紹介します。

冒険心くすぐるゾディアックで下甑に上陸

6日目の朝、ついに下甑島上陸の日がやってきました。鹿児島県の薩摩川内市に属する甑島列島は上甑島、中甑島、下甑島の有人3島と、小さな無人島で構成されています。今回はまず、南に位置する下甑島に上陸し、その後、観光しながら上甑島へと移動する計画です。ブリーフィングの際に、ここでの上陸は、ゾディアックという硬いゴムでできたエンジン付きボートに乗っていくことが発表されると「うおー」という声が上がり、乗客の冒険心が高まったことを実感しました。

下甑島沖に浮かぶル ソレアル=上田寿美子撮影
下甑島沖に浮かぶル ソレアル=上田寿美子撮影

ゾディアックとは南極や、北極クルーズで上陸の際に使われるボートで、極地クルーズも行う耐氷船ル ソレアルには、いつも搭載されていて、探検部門を担当するエクスペディションスタッフが、操船してくれるのです。実は、ゾディアックにはちょっとした乗り方のコツがあるので、それを日本で体験できるのは希少なチャンス。小学生の少年少女から80歳以上の乗客まで、ゾディアックに乗り、南海の波間を走り抜け、下甑島に上陸しました。

岸壁は大漁旗と、郷土芸能「鹿島太鼓」などの大歓迎。甑島に外国のクルーズ船がやってくることが今回初めてなので、島民のお出迎えにも一段と熱が込められていることが伝わってきました。

(左)海を貫くような甑大橋(右)横じま模様が鮮やかな鹿島断崖=いずれも上田英夫撮影
(左)海を貫くような甑大橋(右)横じま模様が鮮やかな鹿島断崖=いずれも上田英夫撮影

大橋、断崖、連なる池 甑島のビュースポット

まずは、鳥ノ巣山展望所へ。眼下には海の上にのびる甑大橋が一望のもと。鹿島町藺牟田(いむた=下甑島)と上甑町平良(たいら=中甑島)を結ぶ、全長1533メートルの大橋です。その後、鹿島断崖の絶景ポイントである夜萩円山(よはぎまるやま)公園に移動。最も古い部分で約8000万年前の白亜紀ごろに地層が形成されたという鹿島断崖は、横じま模様のように層が重なり鮮やか。そこに東シナ海の荒波が打ち付ける様は、勇壮でした。次に、先ほど上から見た甑大橋をバスで渡りましたが、まさにその感覚は海を貫く大橋。中ほどで、バスを降り見事にカーブする橋の写真も撮りました。

甑大橋の途中でバスから降りてみた=上田寿美子撮影
甑大橋の途中でバスから降りてみた=上田寿美子撮影

バスは上甑島へと渡り、長目の浜に到着です。長目の浜とは、太古から風や波が島の北西部の山すそを崩し、生まれた、長さ約4キロメートル、幅約50メートルの砂州で、海鼠(なまこ)池、貝池、鍬崎(くわさき)池と並ぶ三つの池を海と仕切っています。この三つの池はすぐ近くにあるにもかかわらず、湖面の水位、塩分濃度、すんでいる魚族も異なり、特に貝池には世界で7カ所しか発見されていない赤色のバクテリアが生息している点も神秘的。さらに、この三つの池と長目の浜の織り成す景色を見るビューポイントが長目の浜展望所です。藩政時代、島津光久公がこの地を巡視し、見事な景観に「眺めの浜」と命名したのが名前の由来とか。甑島を代表する名所の一つです。

なまこ池、貝池、鍬崎池と海を隔てる長目の浜=上田英夫撮影
なまこ池、貝池、鍬崎池と海を隔てる長目の浜=上田英夫撮影

この間に、ル ソレアルは中甑島沖に移動。今度はテンダーボートに乗り、いったん船に戻りメインダイニングで中甑島を見ながら、シャンパンとシーザーサラダとラザニアの欧風ランチ。再び、テンダーで中甑島漁港に上陸し、歓迎式典では、薩摩川内市長の歓迎スピーチや、郷土芸能踊り「青瀬ヤンハ」を見物。大鍋一杯の漁師鍋のふるまいもありました。加えて薩摩川内市は、米大リーグ大谷翔平選手の所属するエンゼルスのホームラン祝いで被る兜(かぶと)の生産地。歓迎会場で、兜の試着をさせてもらったことも良い思い出です。

歓迎の青瀬ヤンハの踊り=上田英夫撮影
歓迎の青瀬ヤンハの踊り=上田英夫撮影
薩摩川内市はエンゼルスのホームラン祝いの兜の生産地=上田英夫撮影
薩摩川内市はエンゼルスのホームラン祝いの兜の生産地=上田英夫撮影

探検・自然のスタッフ・内外の専門家と交流

ところで、エクスペディション船でもあるル ソレアルには、探検部門を担当するエクスぺディションチームが乗っていて、今回そのリーダーを務めたのは日本人の伊知地亮さんでした。それを補佐するエクスペディションスタッフが、今回は11人乗船していました。その顔触れは、英国、オーストラリア、日本、フランスなど国も多彩なら、地質学者、海洋学者、鳥類研究家などフィールドもバラエティー豊か。航海中には、この人たちの専門分野や体験してきた極地クルーズの講演なども行われ、探検クルーズの神髄を学ぶこともできました。

さらに、乗客が希望すればエクスペディションスタッフと夕食を共にして、直接話を聞くことも可能。そこで、ある晩、フランスの鳥類研究者クリストフ・グーローさんとテーブルを囲みました。通訳は日本人エクスペディションスタッフの一瀬恵美子さんが務めてくれたこともこのクルーズの魅力です。

鳥類研究家と夕食。専門的な知識を楽しく拝聴
鳥類研究家と夕食。専門的な知識を楽しく拝聴

実は加計呂麻島で、国の天然記念物ルリカケスの鳴き声を聞いたようなので、早速クリストフさんに聞いてみると、その鳥の正式名称、生態に加え、鳴き声のまねまでしてくれました。また、野山や、街で見かけた鳥類を判断するためのアプリを教えてもらったり、18世紀から19世紀の鳥類目録作りの話を聞いたり、とても楽しいひと時でした。そして、彼から「実はこの船のエクスペディションスタッフの一人と結婚することになりました」という報告も飛び出し、夕食のテーブルは、まさに、祝いの宴となったのでした。

船上では、薩摩切子の作家・弟子丸努さんと焼酎マスター・鳥越慎一さんによる講演も行われました。黒の切子のパイオニアとしても知られる弟子丸さんによる薩摩切子の歴史や、復興への取り組み。鳥越さんによる、鹿児島の焼酎造りの実態と蔵元との会話など、九州の伝統工芸と焼酎造りをより身近に感じる話は興味深く、加えて、連日、多彩な焼酎コレクションを、弟子丸氏作の美しい薩摩切子のグラスで飲めることも至福の時となりました。

(左)美しく繊細な弟子丸努氏の薩摩切子作品(右)鳥越氏の焼酎コレクション。今日はどれを飲もうかな=いずれも上田英夫撮影
(左)美しく繊細な弟子丸努氏の薩摩切子作品(右)鳥越氏の焼酎コレクション。今日はどれを飲もうかな=いずれも上田英夫撮影
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