ちゃんみな節が光る『命日』 脱力フレーズの中和力 | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
いしわたり淳治のWORD HUNT
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ちゃんみな節が光る『命日』 脱力フレーズの中和力

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の6本。

 1 “あっという間いっという間うっという間”(ちゃんみな『命日』作詞:ちゃんみな)
 2 “んのぉう!”(たんぽぽ 川村エミコ)
 3 “知らない地獄より知ってる地獄”(マシンガンズ)
 4 “サチる”(理系研究職の青年)
 5 “おれ、優勝してぇんかい!”(囲碁将棋 根建太一)

 6 “盛り上がりが足りない!”(高校野球の応援)

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

ちゃんみな節が光る『命日』 脱力フレーズの中和力

ちゃんみなさんの新曲『命日』がとにかく格好いい。メロディーとサウンド感は昭和歌謡テイストであるが、歌詞はしっかりとちゃんみな節である。おそらく、歌詞まで昭和歌謡にもっと寄せてしまってはトゥーマッチになって、今の時代にはちょっと滑稽に聞こえてしまったかもしれない、と思う。レトロと今っぽさのバランス感覚がものすごく素敵だ。

そのバランス感覚の良さがもっとも顕著に出ているのが、2Aメロの「いつかお前がお前である時が来る だけどそんなんは あっという間いっという間うっという間」の部分ではないかと思う。

『命日』なんてショッキングなタイトルだし、「まだ死ねないわ」なんてフレーズでワンコーラスが終わる歌なので、これをあまりにシリアスに受け取られては、歌謡曲ならではのせっかくの楽しいエンタメ感が()がれてしまう。

「あっという間いっという間うっという間」という脱力フレーズでシリアスさを中和して、“遊び心がありますよ”という印象を与えることで、聞く側も安心感を持って楽しく聞けるのである。

それにしても。何となく少しずつ日本の音楽の流行が「歌謡曲」とか「90年代Jポップ」みたいなところへ向かっていっている感じがする今日この頃。HIP HOPやシティーポップのブームも落ち着いてきて、さて次は何が来るのだろう。日本の音楽のこれからが楽しみである。

ちゃんみな節が光る『命日』 脱力フレーズの中和力

7月19日放送の日本テレビ『上田と女が()える夜』でのこと。テーマは“何をやってもうまくできない不器用すぎる女たち”。たんぽぽの川村エミコさんが、言いたいことが言えないという話の流れで、「断れないんで、断り方を考えようと思って。もうダメですっていう時に、外国人さんみたいに(首を横に振って相手を見つめながら)、“んのぉう(No)!”って言うんですよ。なんか、ポップにしたら、真面目にならないから(いいかなと思って)」と言うと、共演者から一斉に「えっ? 急に?」「そんな純和風な顔して?」と突っ込まれ、どっと笑いが起きていた。

私も以前から、それがどんな小さなことであれ、相手が誰であれ、断るのはそれなりに気力の要ることだと思っていて、だからこそ、日本エレキテル連合の「ダメよ〜、ダメダメ」が流行(はや)ったあの頃は良かったなと思っていた。そのセリフを真似(まね)れば相手を傷つけずに何となくポップに断れるという意味で、日本中の“断る”という面倒な作業を楽にしてくれた一年だったなと思うのである。

しかしながら、残念なことに今は“断る”にまつわる流行語がない。その意味で、川村さんが編み出してくれた「んのぉう!」はすごく良い。外国人が言う、その感じは誰もがどこかで何となく見たことがある、いわゆる“狭すぎるモノマネ”の類なので、相手もすぐに分かって笑ってくれるだろうと思う。

もし、これが日本中で流行ってくれたら、また日本国民全員が“ポップに断れる”ようになる、素敵な毎日が訪れるような気がするのだけれど、どうだろう。

ちゃんみな節が光る『命日』 脱力フレーズの中和力

7月21日放送のテレビ朝日『しくじり先生 俺みたいになるな!!』でのこと。結成16年以上の漫才師の賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』で脚光を浴びたマシンガンズが、「おじさんになって老害扱いされないための授業」をおこなった。自身の芸人人生について、才能がないと分かってもやめるほどの根性もなく、やめるほうが勇気が要ると思っていたと振り返り、「知らない地獄より知ってる地獄」と自分たちの状況を形容していた。

もしかしたらこの世は、何かつらい状況になった時に、“すでに知ってる地獄”を選ぶ人と、“まだ知らない地獄”を選ぶ人の2種類の人間に分けられるのかもしれない。知ってる地獄は身に覚えがあるからどう耐えればいいかの想像がつくだろうし、知らない地獄は今より悪くなる可能性もあるがひょっとしたら天国への抜け道があるかもしれないという希望がある。

それは人生の岐路に立つ時のような大げさな場面に限らず、もっと身近なこと、例えば料理をしていて失敗した時みたいな、ちょっとした悲劇にだって、たぶん同じように当てはまるはず。失敗と分かりながら同じ料理を作り続けて我慢して食べるか、思い切って別のメニューに作り替えてしまうか、というように。

いずれにせよ、後者を選べるようになるためには想像力と経験値が必要である。もちろん、どちらを選ぶのが正解という話でもないと思う。その場面においての最適解はいつも違うのだから。ただ、日頃から経験値と想像力を磨いて、“知ってる地獄”でただ耐える以外の選択肢も選べる人間では、ありたいものである。

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