健康は「健口」から 水野真紀さんと学ぶオーラルケア
口の中の健康は、全身の健康にも関わっています。「健やかな口まわり=健口」を保って毎日をいきいきと過ごすために大切なこととは? 専門家が集うセミナーが開催され、俳優の水野真紀さんとともに学びました。
歯周病予防が全身の健康につながる
口の中の病気の一つに、「世界で最も蔓延(まんえん)している感染症」とも言われる歯周病があります。明海大学歯学部長の申基喆教授(歯周病学)によると、歯周病は歯を失うだけでなく、糖尿病や認知症など様々な疾患に影響すると考えられているそうです。
「歯周病によって骨の破壊が進んだ場合は外科手術が必要なこともありますが、それ以前の段階であれば歯垢(しこう)を取り除き、付着を防ぐことが歯周病治療の基本です。全身の健康につながる『健口』を心がけてください」と、申教授は呼びかけました。
歯周病の原因菌は口の中で歯垢などの塊をつくり、歯と歯茎のすき間(歯周ポケット)にこびりつきます。この歯周ポケットに入り込んだ歯垢について、申教授は「歯磨きだけで取り除くことは簡単ではない」と話します。
歯と歯茎の健康を保つためにできること
では歯と歯茎の健康を保つためにできることは何でしょうか。船越歯科医院の船越栄次院長が挙げたのは、まず定期的に歯科医院に通いクリーニングや歯石除去をすること。そしてプロにケアをしてもらった後は、セルフケアで歯の良好な状態を保つことが大切だといいます。
船越院長がおすすめするセルフケアは、洗口液。殺菌成分や出血予防成分、抗炎症成分が含まれた洗口液を、自身の医院では推奨しているそうです。
日本人の平均寿命と健康寿命の差は約9~12年。人生最後の10年ほどを健康的に過ごすためにも、「健口」は大事だと船越院長は語ります。「大切な歯と歯茎の健康を守る主役は自分自身です。毎日のセルフケアを心がけ、人生100年時代を豊かに過ごしましょう」。
毎日の歯磨きに、プラス洗口液
「『自分は歯磨きをしっかりやっているから洗口液は必要ない』と思う方もいるかもしれません」。そう語るのは、アース製薬株式会社の町田茜さん。歯科衛生士としてオーラルケアの普及啓発に取り組んでいる町田さんが、日々のセルフケア方法を紹介しました。
セルフケアの方法としては、歯ブラシやフロスなどを使った物理的な方法と、洗口液や液体ハミガキの化学的なケア方法の二つがあるといいます。口の中に占める歯の表面積は約25%。「残りの約75%を占める、上あごや頰の内側などの粘膜についた菌は、歯ブラシでは落とせません。ぜひ毎日の歯磨きに、洗口液などをプラスしてみてください」と町田さんは語ります。自分に合ったケア用品の選び方については、歯科医院で相談するのもよいそうです。
専門家からのアドバイス
専門家へ、参加者から質問も寄せられました。「インプラントを入れた場合はどんなオーラルケアが必要?」との問いに、船越院長は自身もインプラントを入れた経験からアドバイスを送りました。
「インプラントは支柱に人工歯を装着する方法ですが、支柱と上物の大きさに差があるため、すき間に汚れがたまりやすくなります。私が実践しているのは洗口液を口に含み、ブクブクせずにインプラントの周囲に10秒ほどとどめておく方法です」
「歯科医院でのクリーニングの間隔はどのくらいが理想的?」との問いに、歯科衛生士の町田さんは「おおよそ3カ月に1回というのをおすすめしています」と答えました。
最も多く寄せられた質問は「歯医者さん選びの秘訣(ひけつ)は?」でした。申教授は、自身の歯周病科に通院できない場合も、「歯周病の専門医や認定医の称号をもっているところを探して行く。そして、行った際にちゃんと説明してくれ、定期検診を勧めてくれるところが、信用できる医院なのでは」と語りました。
健口のために、今後も上手に
会場で一緒に学んだ俳優の水野真紀さんは、東京医科歯科大学の春日井昇平名誉教授とともに、この日のセミナーを振り返りました。船越院長の話を聞いて「85歳になる父が元気なのも、歯のケアをしっかりしているお陰かもしれない」と感じたそうです。水野さんの話に「健康寿命を延ばすためにも、口腔(こうくう)ケアは重要だと思っています」と、春日井名誉教授も応じました。
申教授の話で歯周病の怖さを知り、「歯ブラシできれいになるのは口の中の約25%だけ」という町田さんの解説は「衝撃的」だったと語る水野さん。口の中のケアについては、人前に出る機会が多く、普段から電動歯ブラシや歯石をとる器具、フロスを使ってケアをしているといいます。「これだけ歯磨きしているので十分と思っていましたが、洗口液が大事だということがわかり、今後は使っていこう」と感じたそうです。
春日井名誉教授は、ケアの大切さを語った上で、何事もやりすぎはよくない、と注意点も紹介しました。「電動ブラシは強く当てすぎず、ソフトタッチ。洗口液も、説明書きにある容量や回数を守って使ってください。歯磨きなどの方法も歯医者さんに相談するのがいいですよ」と、アドバイスを送ります。
水野さんは、歯科医院で約3カ月に一度ケアをしているそうです。定期的に通うコツは、歯科医院に行った際に次の予約をとること。「そうしないとあっという間に3カ月経ってしまいますよね。次の予約を必ず入れると習慣になります」と語りました。
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PROFILE
みずの・まき。ドラマ、映画、CMなどで幅広く活躍。司会を務める『水野真紀の魔法のレストラン』は今年放送900回を迎えた。
しん・きてつ。2003年より明海大学教授、現在に至る。失われた口腔機能の回復を重視した治療に取り組む歯周病のスペシャリスト。
ふなこし・えいじ。1980年福岡市で開業。日本臨床歯周病学会認定医・指導医。これまでITI Board of Directorsなど要職を歴任。
まちだ・あかね。アース製薬株式会社プロデンタルリレーション事業部にて、歯科衛生士としてオーラルケアの普及啓発に取り組む。
かすがい・しょうへい。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科インプラント・口腔再生医学分野教授を経て2020年より同大名誉教授。