ホヤは鮮度が命 見た目も強烈、言い表しがたい妙味
東北地方の三陸沖は、世界有数の漁場として知られます。沿岸の漁港に水揚げされた新鮮で豊かな魚介を味わうことは、この地域を訪れる楽しみの一つです。そんな三陸地方の四季折々の海の幸を、全国すし技術披露会で金賞を受賞し、盛岡市で予約制の店「すし心明(しんめい)」を経営する下屋敷明美さんが紹介します。今回はホヤです。鮮度が命で、朝に水揚げされたものを仕入れ、その日のうちに店で出すそうです。
朝に水揚げ、その日のうちに店で提供
三陸に来たら一度は食べて頂きたいのが、ホヤです。
見た目にもインパクトがあり、言葉では言い表しがたい妙味。甘みや塩味、苦みもあり、何にも似ていない、実に独特な味です。
江戸前のすしネタの多くは、何かしら手をかけて、塩をあてたり、酢で締めたり、何日か置いて熟成させたりしますが、ホヤについては鮮度が命。朝に水揚げされたものを仕入れ、その日のうちにお出しいたします。
初めはパンパンに膨らんでいますが、時間とともに海水が抜けてしぼんでいきます。身が真水に触れると苦みが出るので、殻からむいた後はホヤの体内にある海水で洗ってあげます。手早く洗って、ザクザク切って、まずは刺し身で。海水による塩分を豊富に蓄えていますので、しょうゆはつけずに、どうぞ。
酢の物にする場合、ポン酢も良いですが、少し苦みが際立ってしまうので、甘めの三杯酢の方がより相性が良いです。旬のキュウリやミョウガ、ショウガとも相性が良いので、薬味たっぷりでお出しいたします。ごま油と塩で食べるのもオススメ。苦みが和らいで食べやすくなります。
刺し身で提供できるのは水揚げから2日まで。使い切れずに余ったホヤは、新鮮なうちに内臓をそぎ落とし、塩水につけ置きして乾燥させます。軽くあぶると、ホヤのうまみが凝縮されて、最高の珍味になります。
飲み物は断然、日本酒です。不思議なのですが、ホヤを口に含んで日本酒を飲むと、日本酒が甘く感じられるのです。ホヤの殻をグラス代わりにして日本酒を飲まれる方もいらっしゃいます。
伝統の「南部もぐり」、海底自在に
最高級の天然ホヤは、岩手県洋野町種市沖で、「南部もぐり」と呼ばれる伝統的な漁で採られています。どんな漁なのでしょう? 朝日新聞の三浦英之記者が取材しました。
岩手県洋野町種市では今でも、伝統の「南部もぐり」でホヤ漁が続けられている。
磯崎元勝さん(63)。潜水一筋45年、誰もが知るベテランの「南部ダイバー」だ。
この地域で「南部もぐり」が広まったのは、約120年前。沖合で船が座礁し、優れた潜水技術を持った潜水士たちが解体作業などにあたった。その際、地元で潜水技術を学び、その後、多くの弟子を育てて「南部もぐり」を広めたとされるのが、磯崎定吉という人物だ。元勝さんはその子孫にあたる。
午前7時半、漁船を操って沖合に出た。2人がかりで重さ計70キロ以上にもなる分厚いヘルメットや潜水服、重りや命綱を身に着けた後、深さ数十メートルの海底へと潜っていく。
船上からホースを通じてヘルメットに空気が送られ、元勝さんはその浮力を利用して約2時間、海底を移動した。
「しっかりとした技術さえあれば、『南部もぐり』は今もスキューバ式よりホヤ漁に適していると思います」
甲板では船員の安是義文さん(79)が、真剣な表情で元勝さんの体に縛りつけられた「命綱」を握る。「無事に上がってくるまで、この綱は絶対に放せない。緊張するよ」
約20分に1度、揺れる甲板の上に、元勝さんが海底で取った網いっぱいのホヤが、巻き上げ機で引き上げられる。
天然ホヤは養殖に比べて味が濃く、種市産は国内外で知られる最高級品だ。
「命綱係」の安是さんが、その一つを素早く小刀でさばき、「食べてみて」と満面の笑みで差し出す。「最高級のホヤ。取れたてホヤホヤだよ」。ダジャレも超一級品だ。
文・写真:三浦英之(朝日新聞記者)
数少ない経験ですが、食べるところで得意の好物になったり、苦手になったりしてきたホヤでした。
今回のこのホヤ、見て分かる新鮮さ、好きにならずにいられない!🎵