AG勉強会 第2部〈前編〉 住吉美紀さん「自分のトリセツを作っていけば」 性差を超えて、お互いの更年期は共感できる | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
AG Project Report
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AG勉強会 第2部〈前編〉
住吉美紀さん「自分のトリセツを作っていけば」
性差を超えて、お互いの更年期は共感できる

住吉美紀さん

Aging Gracefully(以下、AG)プロジェクトは、40代、50代のAG世代の女性たちを応援するために、企業向けの勉強会や一般の方向けの催しなど、さまざまな活動を展開しています。

2023年7月5日には、企業向けのAG勉強会「更年期は女性だけの問題じゃない?」を東京・築地の朝日新聞東京本社会議室で開催。約30人が参加しました。

第1部は順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学デジタルセラピューティックス特任教授の井手久満医師が「男性更年期とは」と題した講演を行い、第2部は井手医師と、フリーアナウンサーで文筆家の住吉美紀さんが「更年期は女性だけの問題じゃない?」をテーマに対談しました。司会は朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本真子が務めました。

この対談の模様を前・後編の2回に分けて紹介します。今回はその前編です。

――住吉さんはAG世代で、昨年度はAGプロジェクトのアンバサダーを務めていただきました。TOKYO FMの朝のワイド番組「Blue Ocean」(月~金、9:00~11:00)でパーソナリティーを務めて12年目になります。最近、リスナーからある相談を寄せられたそうです。

住吉 56歳の女性の方で、同い年の同級生で結婚したという方からメールをいただきました。「もう17年ぐらい連れ添っている。最近すごくイライラして神経質に怒りっぽくなって、自分に全く気を使ってくれなくなった。このままだと娘が巣立った後の老後がすごく憂鬱で、どうしたら仲良くできるのか。男性はみんなこういう風に妻のことを思いやれなくなるのでしょうか」というような内容です。本当にリアルなこととして、50代になると、みなさんが悩んでいらっしゃるんだと日々感じています。

私の夫は今50歳目前で、40代前半ぐらいで結婚しました。私自身は生放送を担当しているので特に、体調管理マニアのようになっていて、どうすると自分が体調を崩すのか、どうすれば体調を崩すリスクを減らせるのかを、研究のように日々考えています。こういう症状のときは背中のここを温めると効くとか、首は必ず冷やさないようにするとか、いろいろやってきたんですね。夫にも「首を冷やすと風邪をひくから寝るときに首にタオルを乗せるといい」とか、「足を冷やさないように靴下を履いて寝るといいよ」と言っていたら、変化が起こる年代になっているのか、最近は、私と暮らしてから靴下を脱いで寝られなくなったとか、前は半袖で寝ていたのに長袖じゃないと寒い気がすると言うようになりました。ただそのおかげで、体調を崩す前に対策をできているようです。

AG勉強会 第2部〈前編〉<br>住吉美紀さん「自分のトリセツを作っていけば」<br>性差を超えて、お互いの更年期は共感できる
AG勉強会の参加者たち。奥は住吉美紀さん

「80歳で起きてもおかしくない」

――住吉さんご自身は、ヨガやスポーツクライミングといった運動を続けていらっしゃいます。女性の更年期対策には、睡眠と適度な運動で自律神経を整えることがとても大切だと言われていますが、男性の場合はどうなのでしょうか。

井手 女性の方が睡眠をよくとっていて男性は睡眠が浅いと言われますが、実は、不眠症は女性の方が多いんですね。その理由はまだわからないところがあるんですけれども、男性の場合、睡眠不足で不眠症になると、男性ホルモンのテストステロン値がどんどん落ちてしまうんですね。意外にも、隠れ睡眠時無呼吸症候群の人が多くて、そういった方はテストステロン値が下がることがわかってきています。

男性の更年期と女性の更年期は、パートナー同士で理解し合うことが大切で、お互いに放っておいていい問題ではありません。女性も男性も、更年期はホルモンの低下によって起きてくるんですが、これは全く違った病気だと思っています。女性は閉経というイベントがあって、女性ホルモンのエストロゲンがほぼゼロになります。この時期を乗り越えると生まれ変わるんですよ。一方の男性は、20歳以降だらだらとテストステロン値が落ちてきて、死ぬまで弱っていくみたいな感じで、生まれ変われない。女性の更年期はある一定の時期が決まっていますが、男性は80歳で起きてもおかしくありません。

住吉 ホルモンの種類が違うのに、低下によって現れる症状が結構似ているのはなぜですか? ほてりやホットフラッシは女性の更年期特有のものかと思っていたら男性にもあるようですね。同じような症状ですか?

井手 詳細はまだよくわかっていません。実は、男性ホルモンのテストステロンは、最終的には女性ホルモンのエストロゲンに変わるんです。アロマターゼという、エストロゲンの生合成に関わる酵素によって、です。閉経後の女性のエストロゲンの元はテストステロンで、主に副腎から出ます。男性もテストステロンがエストロゲンに変わるので、微量ですがエストロゲンを持っています。そういったことが更年期の症状に関与している可能性はあると思います。

先ほどの講演で話しましたが、テストステロンを大量に注射すると、女性化乳房が起きることがあります。これはエストロゲンに変換されるためです。更年期の年代でなくても起きるのかどうかはまだわかっていませんが、体内の各組織にアロマターゼがあり、男性ホルモンを女性ホルモンに変える作用をしています。

住吉 夫が最近、冷えを感じることが増えて、以前よりも足がスースーすると言うようになったんですけど、冷えは男性更年期の症状としてありますか?

井手 冷えを訴える方もいらっしゃいます。

住吉 筋力低下、薄毛なども更年期の症状にあるようですが、明らかに男女のどちらかにしかない症状はありますか?

井手 男性に特異的というと、やはり勃起障害です。それ以外では男女で重なる症状が、実は多いですね。例えば薄毛は女性にも起こります。

住吉 症状が似ているということは、男女の性差を超えて、更年期であることをお互いに共感できる、ということですよね。

井手 おっしゃる通りです。女性の場合は年齢的に時期が決まってくるので、そこは男性側がサポートする。男性の場合はいつ起きてもおかしくないので、そこはお互いに理解し合い、サポートし合うことがいいと思います。

AG勉強会 第2部〈前編〉<br>住吉美紀さん「自分のトリセツを作っていけば」<br>性差を超えて、お互いの更年期は共感できる
井手久満医師

「運動とダイエットで症状が改善」

住吉 私がみなさんにおすすめするのは、自分のトリセツを作っていくことです。年齢を重ねるほど個人差が出てくるので、「自分の場合は」というトリセツを持って、「○○になりがちのときは休んだ方がいい」とか、すぐに対策できると症状が深刻になる前に止められるかなと思います。例えば、そろそろお肉を食べて力を出そうとか、逆に今日はちょっと胃が重いからお肉はやめとこうとか、多少疲れていても運動して体の気の巡りをよくするとか、そういったことで自分のトリセツを作っていけばいいと思います。

井手 確かに個人差はあって、疲れているときに寝た方がいい人と、住吉さんのように体を動かして汗を流すとスッキリする人と、結構な違いがあるなぁ、と思っています。男性も運動が必要だよ、ということでご紹介させていただくと、今、日本人男性の3分の1はBMI25以上の肥満と言われていますが、運動をすると、更年期障害を調べるAMSスコアが改善することがわかっています。運動とダイエットを一緒にやると、より効果が高くなります。

日本最高齢で120歳まで生きたとされる泉重千代さんは、ウィキペディアによると大のプロレスファンで、プロレスラーのアントニオ猪木さんに訪問されたときに感激して泣いたそうです。また、サッカーW杯のスペインのファンの男性のテストステロン値を、試合の前後で調べたところ、観戦後は数値が上がったというデータがあります。オバマ氏とマケイン氏が争った2008年の米大統領選で、それぞれの陣営の男性のテストステロンを測ったデータもあって、勝ったオバマさんを応援した人はテストステロン値が減らないんですけど、負けた方はガーッと落ちてしまって。おそらくスポーツ観戦も、弱いチームを応援していると数値が下がるかもしれません。

筋トレをするとテストステロン値が上がることがわかっていて、あまり激しい運動ではない方がいいと言われています。ネズミの実験で恐縮ですが、運動をすると脳の中のテストステロン値が上がります。認知機能が改善することもわかっています。軽い20分ぐらいのウォーキングが良いと言われていますが、テニスなど運動量のあるものを週1回混ぜると、より効果的だと言われています。

住吉 通勤のときに一駅歩くといいと言われますが、それだけでも結構変わる可能性がありますか?

井手 そうですね。住吉さんがおっしゃったヨガはすごく良くて、更年期障害だった方がヨガを始めたら良くなってテストステロンの補充療法も必要なくなった、という例もあります。

住吉 ヨガをする男性は増えましたね。ヨガ自体がメジャーになったこともありますが、健康意識が高い男性が増えているのかな、と感じています。

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AG勉強会第3部「更年期を幸年期にするカードゲーム」体験会の様子

>> 第1部の井手久満医師の講演はこちら
>> 第2部の対談〈後編〉はこちら

取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=朝日新聞社 有山佑美子

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井手 久満(いで ひさみつ)さん
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学デジタルセラピューティックス特任教授
1991年、宮崎医科大学医学部卒業。95年、国立がんセンター研究所分子腫瘍(しゅよう)学部リサーチレジデント。99年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校ハワードヒューズ研究所研究員。2002年、杏林大学泌尿器科助手。07年、帝京大学医学部泌尿器科准教授。20年、獨協医科大学埼玉医療センター低侵襲治療センター教授。23年から現職。

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住吉 美紀(すみよし みき)さん
フリーアナウンサー、文筆家。
小学校時代は米国シアトルで、高校時代はカナダのバンクーバーで育つ。国際基督教大学(ICU)卒業後、1996年にアナウンサーとしてNHK入局。「プロフェッショナル 仕事の流儀」キャスター、「第58回NHK紅白歌合戦」
総合司会のほか、海外取材や音楽番組、インタビューや生中継番組など多岐にわたり担当。2011年からフリーに。12年からは TOKYO FM 朝のワイド番組「Blue Ocean」(月~金、9:00~11:00)のパーソナリティーを務め、23年春で12年目。22年よりSpotify でポッドキャスト番組「その後のプロフェッショナル仕事の流儀」配信中。著書に「自分へのごほうび」(幻冬舎)。   
資格・趣味は、茶道 裏千家流 正引次(講師)、シヴァナンダ・ヨガ正式指導者資格、全米ヨガアライアンスRYT200、ナードジャパン・アロマアドバイザー資格。着物、音楽、ネコ、スポーツクライミング、語学、植物。

◆Aging Gracefully 勉強会「更年期は女性だけの問題じゃない?」
 7月5日(水)14:30~17:30 朝日新聞東京本社
◇第1部 講演「男性更年期とは」
 井手久満さん(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学デジタルセラピューティックス特任教授)
◇第2部 対談「更年期は女性だけの問題じゃない?」
 井手久満さん
 住吉美紀さん(フリーアナウンサー、文筆家)
 司会:坂本真子(朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクトリーダー)
◇第3部 「更年期が幸年期になるカードゲーム」体験会
 今井麻恵さん(幸年期マチュアライフ協会代表理事)

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