自己紹介に「桃と、イチゴと、ピンクのお花」。気づきをくれた彼女へ
フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
小田明子 44歳
フリーランス
東京都在住
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「桃と、イチゴと、ピンクのお花が好きです」
3歳の姪(めい)が自己紹介を求められ、そう言っていたと姉から聞きました。なんとも可愛らく、姪らしい自己紹介です。
大人になってからの私の自己紹介は、姪のように単純に好きなコトやモノだけを言う機会は、ほとんどありませんでした。そうして思い出したのが、夫の転勤に帯同して、タイのバンコクに住んでいたときのことです。夫の勤め先にも、駐在する妻たちの交流の場、「奥様会」なるものが存在しました。
奥様会は毎回、自己紹介から始まります。そしてその自己紹介で語られることは、主に子供の人数と年齢でした。
「3歳の男の子と1歳の女の子の母です」
「2歳の娘がおります。よろしくお願いします」
といった具合に。「自分」はどこにもいないのです。皆さん、夫が同じ会社に勤める駐妻(ちゅうづま)同士。自己紹介がこうなってしまうのもわからなくはありません。でも子供がいない私には、正直ちょっとこたえました。今思えば、「奥様会」であって「ママ会」ではないのです。でもいつの間にかその自己紹介の「当たり前」にすっかりのみこまれてしまい、バンコクにいる間は、自分に子供がいないことを負い目のように感じるようになっていました。
姉と姪は、コロナ禍を機に、保育園の帰りにお花屋さんに寄って、姪が選んだお花を買う習慣ができたそうです。姪が好むのは、カーネーション、バラ、ガーベラ、チューリップ、トルコキキョウ。そして、菊も好むと聞きました。「菊!?」と思ってしまうのは、私が菊に仏壇のイメージをもっているからかもしれません。姪にとっては、丸っこくて可愛らしいお花のようなのです。
みんなの前で自分の好きなものを言えて、先入観なく好きなものを選べるなんて、なんだかとってもまぶしいです。そして大好きなお花の花瓶のお水を替えるときや、植木にお水をあげるときは、それを彼女流に「おうえん」と呼んでいます。水やりという言葉を知らない彼女にとって、それは応援以外の何物でもないのでしょう。
大事な気づきを与えてくれた姪に、とびっきりの可愛い花束を届けたいと思います。
花束をつくった東さんのコメント
姪御(めいご)さんへ、「とびっきりの可愛い花束を」というリクエスト。カーネーションも枝分かれしたマーブルのスプレー咲きを使うなど、小花をたくさんちりばめて、可愛らしい花束に仕上げました。とはいえ独自の発想が楽しい姪御さんのイメージから、一部ユニークなお花も加えています。
「おうえん」のコツは、花瓶のお水を毎日替えること。植物にとって乾燥はよくないので、葉っぱなどへの霧吹きも効果的です。アレンジではなくブーケなので、茎をたまに切ってもらって水をよく吸い上げるようにしたり、バラのチーム、ガーベラのチームというように、種類ごとにばらして「おうえん」したりするのもいいと思いますよ。
文:福光恵
写真:椎木俊介
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