坂本真子の『音楽魂』 黒沢 薫さんインタビュー〈前編〉 ソロのライブは「かっこつけます」 おしゃれをして楽しむ晴れの場に | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
坂本真子の『音楽魂』
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黒沢 薫さんインタビュー〈前編〉
ソロのライブは「かっこつけます」
おしゃれをして楽しむ晴れの場に

ヴォーカルグループ「ゴスペラーズ」の黒沢 薫さんが、8月にソロのライブツアーを開催します。昨年に続いて今年もビルボードライブ横浜、東京、大阪の3カ所で、ゴスペラーズとはひと味違うステージを準備中です。インタビュー前編では、ソロライブでめざすもの、音楽との向き合い方などについて語ります。

ゴスペラーズは北山陽一さん、黒沢さん、酒井雄二さん、村上てつやさん、安岡 優さんの5人で、1994年にメジャーデビュー。「永遠(とわ)に」(2000年)や「ひとり」(01年)でブレークし、アカペラブームを牽引(けんいん)してきました。グループとしての活動を休んだのは、05年の約5カ月間のみ。このとき、メンバーはそれぞれにソロ活動を始めました。

黒沢さんは「ボーカリストとしての自分を試してみたかった、というのが一番大きいですね。アーティストとしての自分が1人でどれくらいのことができるのか。ゴスペラーズが少しだけ休む間にやってみようと思ったんです」と振り返ります。

05年10月にシングル「遠い約束」とアルバム「Love Anthem」を発表。ソロライブも行いました。初めてのソロ活動は、どのように感じたのでしょうか。

「やってみて、至らないところがすごく多かったな、と思いました。ゴスペラーズの5人があっての自分だったんだ、と思い知らされた部分もあります。ライブのパフォーマンスはゴスペラーズと全然違うので楽しかったですけど、自分の実力のなさもよくわかったというか。始める前に平井堅君と飲みに行って『今度俺もソロをやるんだよ』と話したら、平井君が『ソロは大変だよ』としみじみ言ったんですね。そのときは意味がわからなかったけど、後から大変さがよくわかりました。グループに戻ったときにちょっとホッとした自分もいました。戻る場所がないと、ダメならダメなまま。戻る場所があってよかったと思いましたね」

とはいえ、それで終わりにすることなく、黒沢さんは10年に東京・大阪のビルボードライブなど全国5カ所でソロライブを開催しました。

「一度だけで終わるのも悔しいし、ソロとして自分は何をやるべきかを考えました。ビルボードライブを含むツアーをやって、ああ、こういうのを僕はやりたかったんだな、と。いわゆる同世代向けの音楽より、もう少しマチュアな(=成熟した)音楽に強い憧れがあって、それを表現したいとずっと思っていたんです」

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「全ては図書館から始まった」

「マチュアな音楽」に憧れを抱いたのは、いつ、何がきっかけだったのでしょうか。

「うちの父は歌がうまくて、カラオケ大会で優勝するような人だったんです。歌が好きで、ハーモニカをよく吹いていたので、僕も子どもの頃から音楽と触れ合って、歌はいいな、と思っていました。ただ、僕は楽器ができなかったので、中学高校まではカラオケで歌うぐらいでしたね」

そんな黒沢さんには、高校に進学後、「学校が嫌でサボっていた」時期がありました。

「でも、お金がないので遊び歩くわけにいかないし、本が好きだったので図書館で本を読んでいたら、館内に視聴覚コーナーがあったんです。自分が持っていないようなレコードやCD、レーザーディスクが昔のものも今のものも全部あって、僕はここでシティーポップを知り、ビートルズやソウルミュージックもたくさん聴きました」

図書館に通いつつ、学校にも通い続けた黒沢さんに高3の春、運命の出会いが訪れます。

「同じクラスだったうちのリーダー(村上さん)に『アカペラやろうぜ』と声をかけられて、『この歌、歌える?』と聞かれたのが、視聴覚コーナーで聴いた、山下達郎さんのアカペラアルバム『ON THE STREET CORNER』の『ALONE』という曲だったんです。コーラスパートがすごく印象的な『シャンララララン』というフレーズだから覚えていて、『歌えるよ』と言ってすぐに歌ったら『一緒にやろうぜ』と。だから、ゴスペラーズのキャリアも、音楽のキャリアも、全ては図書館から始まったんです」

図書館で聴いた音楽は、黒沢さんに大きな影響を及ぼしました。

「高1の頃はBOØWYとか、いわゆるロックが全盛期だったんですけど、僕は一人でシティーポップとかを聴いていたから、周りと話が合わなかったですね。もうちょっと大人っぽい音楽に憧れがあって、早く大人になりたかったんです。いわゆるモダンなものや洋楽を聴くのが好きで、普通の高校生とは音楽の趣味が合わなかった。だから高3のとき、村上にアカペラと言われてびっくりしたんですよ。話ができる人がいると思っていなかったので」

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「日本語で歌うことに意味がある」

黒沢さんは、村上さんに誘われて早稲田大学のアカペラサークルに入り、ゴスペラーズを結成。デビューしてからは同じメンバーで活動を続け、来年12月にデビュー30周年を迎えます。

「ボーカルグループやコーラスグループをイメージしたときに、デビューした頃は、僕らみたいなグループはいなかったかもしれないですね。パートも固定されていないし、メインのボーカルも決まっていない。そういうおもしろさはあったと思います。村上が調整型リーダーだった、というところが良かったんでしょうね。ワンマンのカリスマ型リーダーだったら、多分ゴスペラーズはあっという間になくなっていたと思うので。この5人でよく走り続けられたなぁ、と思うし、村上の力は大きいと、最近よく思います」

学生時代から仲が良く、今も楽屋は5人一緒。ギャラも5等分しています。

「学生のままプロになっちゃったようなものなので、いまだに楽屋で話す内容とか話題の入り方とか、学生の頃と変わってない。それが残っているのがゴスペラーズのいいところだし、いろんな人がファンになってくれる理由の一つだと僕は思っています」と黒沢さん。

一方で、ゴスペラーズとソロの違いはそこにあると考えました。

「ゴスペラーズでは学生時代の関係性がステージの上に出てしまう。ソロではそこをなくして、ソロとしての自分のキャラクターでいく。そういう考えの整理、覚悟みたいなものができたんです。ゴスペラーズは全国各地のホールでライブを行い、いわゆる1980年代的なニューミュージックをめざすグループ。一方、ソロで歌うビルボードライブは、ディナーショーではないライブレストランで、海外のアーティストもたくさん出演するし、お酒と食事と良質なライブを晴れの場として楽しむ場所ですよね。僕自身が一番好きなのはこういう場所で、ソロはこれだと思ったんです」

ソロのライブで大事にしていることは何でしょうか。

「僕はシティーポップやソウルミュージック、ジャズをいっぱい聴いてきましたけど、それを日本語で歌うことが重要だと思っています。英語でカバーするだけのライブではない、ということです。あくまで日本人が日本語で、ビルボードライブという場でパフォーマンスをすることに意味がある。英語のカバー曲だけ歌ってかっこよくても、本国から来た人にはかなわないし、その時点でにせ物になってしまう。そうじゃなくて、ソロとして、どれだけ自分がやりたい音楽やパフォーマンスのエッセンスを詰め込めるか。これはビルボードライブで演奏してようやくわかったことで、ソロとゴスペラーズを全く別のものとして考えられるようになりました」

ゴスペラーズのステージでは観客を和ませる存在でもある黒沢さんですが、ソロライブでは「かっこつけます」と、きっぱり。

「僕のソロを見た人がゴスペラーズを見たとき、あるいはゴスペラーズのライブを見た人が僕のソロを見たとき、あまりに印象が違うので驚くんじゃないかなぁ。ソロは『すげえ、かっこつけているよね』という感じです。でも、一人で立つというのはそういうことですよね。自分をかっこいいと思ったことはないけど、かっこつけるのは好きなんです。ここに大きな違いがあります。かっこいいと思ってしまうと努力をしなくなるじゃないですか。かっこよくないけど、かっこよくなりたい。かっこつけたいからそれなりに準備をするのが、僕が生きていく上でのスタイルです」

13年に2枚目のソロアルバム「LOVE LIFE」、22年には配信限定シングル「All U Need Is Luv」を発表しました。また、これまでに三浦大知さん、夏川りみさん、Kさん、SKY-HIさんなど、多様なアーティストともコラボしています。

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「非日常を味わって」

22年夏、黒沢さんは7年ぶりのソロツアーで、ビルボードライブ東京・横浜・大阪を回りました。今年も8月6日のビルボードライブ横浜を皮切りに、同じく東京、大阪でソロのライブを予定しています。

「今年も『Be Choir』という、僕が昔からとても評価しているクワイアグループが参加してくれます。バンドにもかなりの腕利きを集めていて、コーラスの方が僕よりうまいかもしれません。ソウルやR&Bでは、コーラスをしていた人の方が有名になっちゃうとか、コーラスの方がうまい、というのはよくあるんです。日本ではどうしてもコーラスは後ろで支える感じになるけど、僕はもっとガンガン前に出てきてもいいと思っています」

そして、観客にもリクエストしたいことが。

「僕が晴れの場を提供するので、女性も男性もみんな、晴れの場にふさわしいおしゃれな服装で来てほしいですね。そうすればみなさんも輝くし、非日常を味わって気分転換にもなる。どんな服を買おうかな、というワクワク感もあるじゃないですか。そのために準備する時間が、僕は楽しいですし、みなさんにも味わってほしいと思っています」

>>インタビュー後編はこちら

最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本が、音楽の話をお届けします。

取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=伊ケ崎忍撮影

◆「黒沢 薫 Billboard Live Tour 2023 “SSL”」
◇8月6日(日)ビルボードライブ横浜
 <1st>OPEN 16:00 / START 17:00
 <2nd>OPEN 19:00 / START 20:00
  サービスエリアS指定席 9,100円
  サービスエリアR指定席 8,000円
  サービスDXシートカウンター 9,100円
  カジュアルセンター 8,600円(1ドリンク付)
  カジュアルサイド 7,500円(1ドリンク付)※価格はいずれも税込み
  問い合わせ:ビルボードライブ横浜 0570-05-6565(チケットはWEB購入のみ)
◇8月11日(金・祝)ビルボードライブ東京
 <1st>OPEN 14:00 / START 15:00
 <2nd>OPEN 17:00 / START 18:00
  サービスエリアS指定席 9,100円
  サービスエリアR指定席 8,000円
  サービスDuoシート 9,650円(ペア販売)
  サービスDXシートカウンター 10,200円
  サービスDXシートDuo 10,200円(ペア販売)
  カジュアルエリア 7,500円(1ドリンク付)※価格はいずれも税込み
  問い合わせ:ビルボードライブ東京 03-3405-1133(チケットはWEB購入のみ)
◇8月13日(日)ビルボードライブ大阪
 <1st>OPEN 14:00 / START 15:00
 <2nd>OPEN 17:00 / START 18:00
  サービスエリアS指定席 9,100円
  サービスエリアR指定席 8,000円
  サービスエリアBOXシート 9,650円(ペア販売)
  カジュアルエリア 7,500円(1ドリンク付)※価格はいずれも税込み
  問い合わせ:ビルボードライブ大阪 06-6342-7722(チケットはWEB購入のみ)
詳細はビルボードライブHP:http://www.billboard-live.com

坂本真子の『音楽魂』<br>黒沢 薫さんインタビュー〈前編〉<br>ソロのライブは「かっこつけます」<br>おしゃれをして楽しむ晴れの場に
写真はソニー・ミュージックレーベルズ提供

ゴスペラーズ「HERE & NOW」

新曲5曲収録のEPを8月23日に発売

◆ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”
 全国31都市33公演を巡る全国ツアー。9月9日から12月23日まで開催。
 詳細はこちら:https://www.gospellers.tv/news/detail/10198

◆ゴスペラーズ 公式サイト https://www.gospellers.tv/

◆ゴスペラーズの記事バックナンバーです。
 >>ゴスペラーズ、印税もギャラも5等分 25年間、一緒に続けられた理由

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