松山ケンイチさんが考える、人生の居場所と幸せな生き方
数多くの話題作に出演し、幅広い役柄を演じている俳優の松山ケンイチさん。6月23日公開のエンターテインメント時代劇『大名倒産』では、100億円規模の借金を抱えた藩のトップになった主人公を支える個性的な兄役で出演した。デビュー以降、俳優として強い存在感を示し続ける一方で、農業に取り組み、アップサイクルプロジェクト「momiji」を立ち上げるなど、新しい人生の居場所づくりにも挑戦している。松山さんは今何を考え、どこを目指しているのか。
――映画『大名倒産』では、主人公の兄、松平新次郎役を演じられています。どんな役柄ですか。
「個性が強い役柄ですね。新次郎のピュアな部分、無垢(むく)なところが前田哲監督と重なるんです。監督とは20代の頃からお仕事をさせていただいていますが、監督に新次郎を感じました。撮影中は、目の前にお手本がいるから、それを表現すればいいなと思って演じていました」
人との出会いが演じるヒントになる
――新次郎は「うつけ者だが、庭造りの才能は天才的」という人物設定でした。
「僕自身が畑仕事をしていることもあって、庭師の知り合いもいます。とても面白いおじいちゃんです。一生懸命、どこまでも夢中になって仕事に取り組まれています。この出会いも新次郎を演じる上でのヒントになっています。こうした人たちと出会わずに『演じてください』ということになれば、うまく表現できないと思います」
――主人公の松平小四郎役が神木隆之介さんで、その父親の一狐斎役が佐藤浩市さん。撮影現場はどんな様子でしたか。
「神木君が気負っている感じがなく、スムーズに順調に進んでいったと思います。安心感のある現場でした」
幸せは目標に進んでいる過程にある
――『大名倒産』では、藩の財政が行き詰まり、100億円規模の借金があることが物語の起点となっています。お金と幸せの関係についてどのようにお考えになっていますか。
「お金がないということで、大変な状況にいる方も多いと思います。生きていくために間違いなくお金は必要です。目標を達成して、使い切れないほどのお金を稼いだ方と話したことがあるんですが、心が動かなくなって、何のために生きているかわからなくなってくる、という趣旨の話をされていました。お金は幸せにかかわってくると思いますが、その人は『自分は幸せ』だとは言いませんでした」
「人は食べないと生きていけないですけれど、食べられる量には限界があります。お金もそれと同じですよね。ちょうどいい分量というのが、人それぞれあるのだと思います。それを知ることが大切だと思っています。そして、幸せは、目標や目的に進んでいる過程にあると考えています」
「何のために生きているのか」という問い
――29歳で亡くなった天才将棋棋士の村山聖さんの半生を描いた映画『聖の青春』では、役作りのために大幅に増量をされました。映画の舞台あいさつでは、スリムな体形に戻られていたのでとても驚きました。松山さんの迫真の演技に圧倒されました。
「演技や作品を評価していただくことはとても有り難いです。ただ、心も肉体的な部分もすごく負担がかかるので、あれ以上の自分を犠牲にしたパフォーマンスは、自分にとっての幸せにはならないな、という風に今は思っています。俳優の仕事は人生の一部です。人生を超えてしまったらいけないと考えています」
――俳優デビューされてから約20年たちましたが、年齢を重ねて自身が変化したと感じる部分はありますか?
「求められることに応えようと、全身全霊で俳優の仕事に挑んできました。ただ、無限に体力や気力があるわけではありません。どこかでひずみがきてしまう。あるとき、何のために仕事をして、何のために生きているのか、ということを考え始めたんです。今は俳優の仕事だけが自分の人生のすべてだとは思っていません。生き方を変えていこうと考え、田舎で畑仕事をするようになりました」
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「幸せは、目標や目的に進んでいる過程にある」
それなんですよね。目標や目的のない人生は幸せとは言えない。
ただ目標や目的は簡単には達成できないものも多いので、上手くいかないと辛いことも多い。達成感が大事。