「香港愛」から生まれたアート 日本の刺しゅうクリエーターと香港の磁器作家がコラボ
香港にとって、3月はアートの月間。毎年世界的アートフェア「アートバーゼル香港」や、アジアの新進アーティストを紹介する「アートセントラル」が同時期に開催されます。2023年3月の「アートセントラル」では、香港政府観光局がイベントと初めてコラボレーションし、会場内で共同展「アートセントラル – アーツ in 香港 カフェ (Art Central – Arts in HK Café)」を開催しました。この共同展では日本の刺しゅうクリエーター・竹岡かつみさんも参加し、香港愛あふれる作品で注目を浴びました。
地元と海外の芸術家コラボが始動
伝統的で個性的な工芸品が根付き、歴史的建築も豊富な香港では、西九龍(ウェストカオルーン)地区などに新たな芸術拠点がオープンし、今やアートは香港には欠かせない観光資源となっています。そんな中、香港政府観光局の通年プロモーション「Arts in Hong Kong」の一環として、香港や海外のアーティストを起用してアートで香港を表現してもらうプログラムである「アートセントラル – アーツ in 香港 カフェ」を2023年3月に「アートセントラル」内に設けました。
日本からは竹岡かつみさんが参加
イラストレーション、クラフト、ストリートアート、デジタルアートの四つの分野でそれぞれ、香港のアーティストと海外のアーティストがペアを組み、香港をテーマにした作品を共同制作しました。東西の文化が結節し、伝統と新しさが融合する香港のあり方を体現したような取り組みといえます。来場者は文化的オーラに満ちた会場でコーヒーを飲みながら、香港をテーマにした遊び心のあるアートを楽しむことができました。
竹岡かつみさんは、約90 年前に設立された香港初の磁器工場「粵東磁廠」(Yuet Tung China Works)の4 代目オーナーのマルティナ・ツォさんとの共同作品の制作で参加しました。
ふたりが共同制作したインスタレーションは「躍動香港メリーゴーランド」。刺しゅうや磁器で表現した香港の名物やイメージが器から花のように飛び出すさまは、ビクトリア・ハーバーに打ち上げられた花火のようでもあり、回転木馬に乗ってぐるりと香港のイメージを一覧したようにも感じられます。
スターフェリーで飲茶を食べにいくワクワク感
香港をこよなく愛する竹岡さんが初めて香港を訪れたのは1999年。香港好きの先輩と一緒に訪れ、「街の活気やエネルギーが、どこか自分の住んでいる大阪に似ていて、大好きになりました」と言います。その後、香港をモチーフにした作品の制作や、個展「香港パラダイス」など作品の発表を続けています。
竹岡さんが香港好きになったきっかけは食べ物です。「初めて食べたピータンが、世界一おいしいと言われているお店のピータンでした」。以来、香港を訪れるたびに、大好きな物が増えていきました。
とりわけ、竹岡さんが恋しいと思うのは、香港でスターフェリーに乗って「これからおいしい飲茶(ヤムチャ)を食べに行くんだ」と思う時のワクワク感。到着した翌日の恒例にしているそうです。香港島と九龍半島を結ぶレトロな雰囲気の船に乗り、ビクトリアハーバーから林立する摩天楼を眺められる、いわば「浮かぶ絶景ポイント」でかきたてられる旅情と期待感は格別なのでしょう。
クリエーターである竹岡さんにとって、街歩きで見かけるストリートアートも気になる存在です。たとえば、2018年に中環(セントラル)に完成した、香港政府観光局がタレントの香取慎吾さんに制作を依頼した「大きなお口の龍の子(大口龍仔)」です。「香取さんのアートは写真に撮って楽しみました」。ほかにも街歩きをしていると「トラムのラッピングに象徴されるように、街と人々の動きとが一体化したパワーを感じます。スーパーマーケットの食材のグラフィックアートやディスプレイの仕方にも力を感じます」。竹岡さんの香港好きに、アートのパワーが一役買っているようです。
どこか懐かしく温かい竹岡さんの刺しゅうと、ツォさんの廣彩磁器とが融合した「躍動香港メリーゴーランド」。それはまるで、竹岡さんが香港へ旅するたびに増えていった好きなものが、香港愛の強さに押され、びっくり箱のように心から飛び出してしまったようにも見えます。みなさんも、香港へ旅して、自分だけの「好きアイテム」を探してみませんか。
■竹岡かつみさんのインスタグラム
https://www.instagram.com/katsumitakeoka/