UAさん「おばちゃんから頂いた大切なテーマ」 | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
野村友里×UA 暮らしの音
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UAさん「おばちゃんから頂いた大切なテーマ」

犬はよろこび、庭かけまわる

「eatrip」を主宰する料理人の野村友里さんと、現在カナダの島で暮らす歌手UAさんの往復書簡「暮らしの音」。「“寂しさ”ってどう表現していますか?」と問いかけた野村さんへ、UAさんからのお返事です。

野村友里さんの手紙「個々の色がまざりあうのが人生、グラデーションライフ」から続く

友里

なるほどそうか、私たち人生の秋を歩んでいるのね。それならハーベストじゃないの! 完熟の時を迎えているわけか。昨年中はあなたと会うたび、いつもご両親のお話をしてくれたものね。聞いていると私のハートまでほっこりとしたものよ。そう言えば、クリスマスにはお母様Coccoさんの“レセピ”で、シェファーズパイを焼いたのよ。

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去年、全LIVE終了してのすき焼きナイトは最高! ありがとう友里

3カ月を一緒に過ごした子犬たち

「寂しい」と言えば、例の“愛らしい”子犬たちが次々ともらわれてね。特に3カ月も一緒に過ごした子となると、もらってもらうと決めているというのに、心と頭が一致しない感じがどうしようもなくて、いざお別れとなるとつらくてたまらないわけ。実は今日も最後の子の里親が見つかって、家族で半ベソで「お疲れさまっ!」となったところ。そしてこのお手紙をつづろうと一人スタ ジオにたたずむや否や、走馬灯のごとく思い出がよみがえってきて、おいおいと泣けてきちゃう始末。まったく参りますわ。

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3カ月一緒に過ごした子のうちの一匹
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チャーリー(仮)だった子はもらわれてロッキーに

でも一人で思い切り泣けたおかげでスッキリとして、母犬タワとヒナ(1度目のお産の娘)をもっと可愛がってやらなくちゃと思い改まりました。

それにしても11匹のチビウルフときたら、鶏やガチョウに襲いかかるわ、ケーブルはかみちぎる、靴や靴下は片方ずつなくなり、リビングルームは毎朝モップがけ! とにかく気の抜けない3カ月間だったけれど、それでもキラキラお目々のフワフワパピーズとの時間は、言わば少女の頃の夢が叶(かな)ったような出来事で、まだ叶うものなら巻き戻したいひととき。

とすると……我が子が巣立っていく時となると、一体どれだけ寂しいのかと震えちゃう。今回ちょっとそのリハーサルさせてもらった気にもなる。すでに巻き戻したい時間が山ほどあって、7歳の息子でさえ「あの頃は良かったね~」なんてトレイラーハウス時代の写真を眺めては漏らすんだから感慨深いもの。

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雪にホットメイプルシロップがけ!

「寂しさ」と「いとしさ」はセットかも

「寂しさ」と「いとしさ」はセットかもしれないね。「生」と「死」がセットなように。7歳の子は姉と兄がいるからか、少しませてる所もあって、シュタイナー教育で言うところの「9歳の危機」(心身の成長により今まで一体だった世界との分離を感じ始める時)的なことを近頃よく言い出す。「死ぬとか、病気とか癌(がん)とかなーんにもなくてずっとママと居られたらいいのにな~」「でもさ、もし誰も死ぬことの無い世界だったら、おかしくなって逆に死にたくなっちゃうかもよ〜」と返す。当然その真意はよくわからないだろうけれど、子供というのは本当に賢くて言葉の意味はわからなくともしっかり感じて受け取っている。

レバノンの詩人カリール・ジブラン(Kahlil Gibran)の『預言者』という本に「あなたの子は、あなたの子ではありません。(中略)あなたは弓です。その弓から、子は生きた矢となって放たれて行きます。射手は無窮の道程にある的を見ながら、力強くあなたを引きしぼるのです。かれの矢が速く遠くに飛んで行くために。あの射手に引きしぼられるとは、何と有難いことではありませんか。なぜなら、射手が、飛んで行く矢を愛しているなら、留まっている弓をも愛しているのですから。」(佐久間彪訳)という詩があってね、子供は明日の家に住んでいて、あなたはそれを夢の中でも訪ねることもできない、と。子供は決して自分のものではないわけで、でもそれは子供に限らず、誰も何も自分のものにできることなんて無いのかもしれないね。

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ストーブの前はあったかいにゃわん

ついに深い悲しみを伴う学び

実はまだ友里に話せてなかったのだけど、昨年の秋、大好きな叔母を亡くしたのです。私の場合、生まれて間もなく父が他界、祖父や祖母もすでに亡くなっていたものだから、物心付いてから家族を亡くす経験はなく生きてきた。これまでも度々、「死」をタブーにせず、もっと意識していることが生きる喜びにとって重要ではないかと書いてきたけれど、この歳(とし)になってついに深い悲しみを伴う学びの機会となった。

叔母は、母子家庭の私たち親子を経済的にも精神的にも支えてくれた。特に幼い頃は「おばちゃん」に遊んでもらえる時間が何よりの楽しみだったの。アリが巣に食べ物を運ぶのをずっと見ていたい私に、いつまでも付き合ってくれた。無理を言っては、おばちゃんの顔にお化粧をさせてくれ、その揚げ句滅っ茶苦茶になってもゲラゲラと何度でも一緒に笑ってくれた。はたまた、二十歳を過ぎた頃、傍線のたくさん引かれた玄米菜食の本をくれたのも彼女だった。

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施設の窓越しで話せたおばちゃん

去年のお正月には施設の窓越しに面会することができ、従姉妹(いとこ)の携帯を渡して話をした。換気のために少しだけ開いていた窓の隙間から手を伸ばしておばちゃんの手を触っていたら、施設の方にコラコラ! と叱られて。おばちゃんはとっても小さくなっていて「こんなに長く生きてしまってごめんね~」と泣く。泣くと言っても、さめざめと、というのでなく、入れ歯をつけたり外したりして、吉本新喜劇みたいにおもろい顔を見せる。1931(昭和6)年生まれの91歳になるおばちゃんはとても不思議なおばちゃんでもあった。

夏の日本滞在中に、おばちゃんの意識が不明になり、すぐに回復はしたものの、またいつ意識がなくなるかわからないと言うことで、病室で直接会えると連絡がきた。35度にもなる大阪市街は緑が少なく、先に見える交差点や行き交う車が蜃気楼(しんきろう)のようにゆらゆらして見える。施設の入り口でPCRテストをして病室に案内されるが、おばちゃんの身動き一つできない様子を目の当たりにし、ショックで動揺したけれど、幸い意識ははっきりしていてとても大きな声で話すので、 限られた時間だし、出来るだけたくさんおしゃべりしようと努めた。ただ、入れ歯がもうはまらないので聞き取るのは難しかったけれど、とにかく外出がしたいと言うので、次に私が来るまでには起き上がれるようになっていようね、と約束をした。

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娘の描いた11匹の子犬と子猫

すると不意に彼女が「歌織ちゃん、何か歌って」と言ってくれるので、私は緊張しながらも平静を装いつつ、彼女の手を握って拍子を取りながら『水色』を歌ったの。ところが3コーラスも行かないあたりで、「もういい」と言われ、心臓が飛び出るほど驚いた。何せこれまで、歌を途中で止められたことなんて無いものだから。動揺したまま、無我夢中の数十分が過ぎた頃、何かの話の途中でふと、おばちゃんは眠ってしまった。おばちゃんもとても疲れたのだろう。その後、廊下で看護師さんにお話を伺ったところ、外出も見込みがないことはないと言うので、11月に日本に来る時には行きたいところに連れて行ってあげたいと願いながら、半ば放心状態で帰路に着いた。

けれども、それはついに叶わず、10月の満月の朝、おばちゃんは永眠した。大きく時差はあるけれど、外に出て同じ月を眺めていたのは、頭が痛くてじっとしていられなかったから。夜風にあたりながら振動功という気功をしていたの。近頃、満月に頭痛がすることしばしばで、どうやらエネルギー発散がうまくいってないと起きるっぽい。ぶらぶらと縦に体を揺らしながら、発光する月の模様をただ見ていた。

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親愛なるうーこのマネジャーの書。癸卯、優しい年となります様に。

一体、私の歌は何がいけなかったんだろう。皆が最後まで聞いてくれるのは聴ける力(優しさと器)があるからなのかもしれない。おばちゃんの話す声がとても大きかったから、耳が遠いと考えた私は、すっかり音量を間違えてしまったのだろうか。寝たきりのチューブ姿で、背中が痛いとこぼす、91歳の死にゆく者が耳にしたい歌とは……。

結局、音量とかスキルの問題ではなく、ただ独りよがりな歌だったのかもしれない、なんて、しばらくはくよくよ物思いにふけっては「おばちゃあああん」って泣けてしまったんだけれど、今はもうそれは終えられて、まったく大切なテーマを頂いたものだと考えるようになった。

UAさん「おばちゃんから頂いた大切なテーマ」
今年もよろしくお願いします

そこでね、友里とこれを読んでくださる皆様に相談したいことがあるのです。『水色』は虹郎くんがお腹(なか)にいてつわりがキツかった頃に生まれた曲で、2人で作ったと言えるのかもしれず、不思議な力がある歌だと感じてる。どうしても生の歌を聴きに行くことが叶わない状況にいて、それでもそれを望む方や、それをお贈りしたいと希望する方のために、もしもこのうーこが訪ねても良いものなら、『水色』を歌いに参らせていただきたいと妄想しています。だがしかし、どうしたら良いものかと思いあぐねていたところ、まずはここに書かせてもらうことにしたのです。

ご意見やアイデア、どうぞお聞かせください。よろしくお願いします。

うーこ

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野村友里さん「聞き上手って大事な存在」へ続く

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