博多弁の恋を動画に TikTokはテレビへつながる道 ばりやわとんこつと小堺一機さん
ショートムービープラットフォーム「TikTok(ティックトック)」のクリエイターに迫る本企画。今回はタレントの小堺一機さんを迎え、福岡県出身のユニット「ばりやわとんこつ」のお二人と語り合っていただきました。博多弁の女性が、会社の後輩やお隣さんの男性との様々な恋愛シチュエーションを見せる動画が人気の「ばりやわとんこつ」。実はテレビへの関心の高い二人が、芸能界の大先輩である小堺さんと、その理由と魅力的なコンテンツ作りについて語り合いました。
「なんしようと」から生まれたストーリー
とんこつ
福岡県出身のタレントである新谷(しんや)あやか(写真左)、永松文太(ながまつ ぶんた)の二人によるユニット。地元を盛り上げていきたいという思いから、2021年12月に結成された。TikTokでは博多弁を生かしたショートムービーでバズり中。
小堺:お二人は同じ福岡県出身だけど、所属する事務所は違うんですよね。どういう経緯でユニットを組むことになったの?
新谷:福岡の映画が撮りたいと思って、福岡出身で監督をやっている人に相談したんです。そしたら「いいキャストがいるよ」って、紹介してもらったのが文太君で。
永松:僕がその監督と知り合いだったんですよ。それで、福岡らしさを出した映画にしたいね、と話がまとまりました。
新谷:キャスト同士やったんですけど、博多弁たっぷりの台本にしようとか。その中で、博多弁の「なんしようと」っていう言葉を、いくつかニュアンスを変えて言った動画を撮って、試しにTikTokへ投稿したんです。
小堺:最初は試しに、だったんだ。
永松:そうなんです。「なんしようと」だけでも6種類ぐらい表現方法があって、たとえば遊びに誘うときの「なんしようと」とか、「説明して」って意味の「なんしようと」とか。その動画の再生回数がすごく伸びて、なんだこれはって思いました。去年の12月7日に初めて投稿して、年末ぐらいにフォロワーさんが1万人に届きそうってなったので、それから今日まで頑張っている感じです。
新谷:TikTokを始めて、いっぱいバズるようになったら、最初の目的を忘れたんだよね。
永松:(笑)。映画ってところからはちょっとね、現時点では離れちゃったよね。
小堺:試しに投稿して、そこまでいったのはすごいよね。これってさ、やっぱりスマートフォンやTikTokができてからだよね。僕らのころだと、ちょっと撮ってみようとなったら8mmカメラとか買わなきゃ行けなかったから。今はスマートフォンがあれば撮れるもんね。あとは、二人の相性が良かったってのもあるのかな。考えることとか、おもしろいと思うこととか。
1956年千葉県生まれ。1977年にTBS「ぎんざNOW」の素人コメディアン道場でチャンピオンに輝く。大学卒業後、1979年に勝アカデミー研究生として入学。卒業後、浅井企画へ所属。テレビやラジオなどマルチに活躍している。2023年1月スタートのドラマ「女神の教室」出演。最新情報は、小堺一機official Twitterへ。
新谷・永松:そうなんです!
新谷:私は真面目にやるのが結構、苦手なんで、台本のメインのところは文太君に任せています。
小堺:いいバランスですね。二人で組む場合は、どっちかが仕切った方がいいんですよ。で、もう片方は遊んでもらって、何も考えずにやるっていう。
新谷:プライベートでいっぱい遊んで、そのネタを文太君に落とすようにしないと。
永松:そうそう、恋愛経験とか、こういうときは女性ってこう言うんだよ、とか。あとは妄想です。
小堺:妄想はめいっぱいするよね。
永松:します、します(笑)!
新谷:気になる、その頭の中(笑)! いつまでも少年のように妄想をする方もいますよね。
小堺:男はいつまでも少年、って言うけど、あれは結局、美化しているんだよね。単に成長していない、ガキだってだけだから(笑)。
新谷:小堺さんは変わらないですか? 大人になっても、考えていることって。
小堺:変わらないですね。もう、中2で止まってる。中学2年生の放課後。中3だと受験とかあって放課後も遊んでられないけど、中2は一番自由なの。
永松:中2、一番楽しいですね! そういう中2男子と、大人の女性のうまいバランスで、翻弄(ほんろう)される動画を撮っています。
「新しいものを自分たちで作った人が入ったら、テレビも変わる」
「ばりやわとんこつ」の動画では、二人が画面に映るのではなく撮影方法に工夫がなされています。動画を見た小堺さんは、ある方の言葉を思い出しました。
小堺:お二人の動画を見させてもらいましたが、画面に登場するのは女性だけで、男性は声だけってのはおもしろいね。表情とか顔とかは見る人が想像する感じで。声のトーンを変えているのもうまいですよね。
永松:まさかそんなところまで! ありがとうございます。
小堺:昔、すごい大物俳優が言ってたんだけど、「男が女を口説いているシーンなのに、男の顔を撮るな」って。「女の顔を撮っておけば、OKかどうかはわかるだろ」って言ってたんですよね。それを思い出しました。
新谷:うれしい! じゃあ、うちらもすごいってこと?
永松:それはどうだろう(笑)。でもうれしいね。
小堺:ちゃんとしてますよ、今の若い人たちは。僕らのときはダメだったもん、ただ生意気なだけで。あと、博多弁もいいよね。僕、大学時代に大分県の友だちがいたんだけど、大分は「嫌い」のことを「好かん」って言うのが「すっげーかわいい!」と思って。もっと言って欲しいから、わざと好かんことしようと思ったくらいです。
新谷:(笑)関東の方には、「いい」って言われることが多いですね。
「方言、僕らにはチャンスだった」
方言に対する思い、そして今後の目標を「ばりやわとんこつ」の二人は熱く語ります。それを聞いた小堺さんは師匠の姿勢から学んだあることを二人に伝えました。
永松:TikTokクリエイターさんの中で、方言でやっている人があんまりいなかったってのも、僕らにはチャンスだったんですよ。
新谷:何を撮るのでも、方言ってだけで魅力になるみたい。
小堺:お二人にとってはごく普通のことなのにね。東京弁なんて、今はもう落語くらいでしか聞かなくなっちゃったから、ちょっとつまらない。方言だと、本音でしゃべってくれている感じがして好きなんだよね。
新谷:芸人さんとかで関西弁は聞くことあっても、福岡出身だと方言で話さない人も多いですよね。基本、なおすけん。うちらもなおした方がいいとかな? なおさんと、東京のテレビには出られんとかなって。
小堺:いや、そんなことはないと思うよ。
永松:福岡の人からすれば、「うわ、東京に染まっとる」みたいになるかも。大事にしたいですね、方言は。TikTokを頑張るようになったのは、地元で二人のテレビ番組を持ちたいという目標もあったからなんですよ。
小堺:最近のクリエイターの人は、テレビから離れて独自のものをやりますって人が多いと思ってたんだけど、良かった〜。「テレビはオワコン」なんて言われたりするから。そうなると、テレビが新しくなるかもね! 僕がテレビの世界に入ってからディレクターも3〜4世代に渡っているから、おもしろいと感じるものも変わると思う。しかも、お二人のように新しいものを自分たちで作った人がテレビに入ってくるってことは、何かが変わると思うね。
どうなるかわからないから、楽しみだね。見たことのない番組をつくってくれるかもしれないし。そういうときに「やめた方がいい」って言われることは、だいたいやった方がいいよ。
僕の師匠はラジオ番組でハガキを読んでいたんだけど、その企画をテレビ局に持っていったとき、否定されることが多かったんだって。「なんでテレビでハガキ読むのか」って。最終的にはテレビ番組になって大ヒットしたんだけど、そのときに受け入れてくれたプロデューサーさんがおもしろがってくれたんです。テレビって今、お手本がいっぱいできすぎちゃっているから、「それはやらない方が」とか言われることも多いけど、こういうケースもあるんだよね。
永松:まさにTikTokは本当におもしろいと思ったことが発信できるから、自由ですね。
小堺:やりたいことをやるっていいよね。やらされるのと違って、折れないもん。でも、「やめた方がいいよ」ってことで、おもしろいのは8割ぐらいだから気を付けてね。残り2割はホントにやめといた方がいいから(笑)。
食べない食レポ「TikTok LIVEで」
新谷さんがテレビ出演時に感じた疑問をきっかけに、話題は動画作品づくりのアイデアに及びました。
新谷:私、食レポとかのロケをやるときに、リポーターは食べない方が視聴者は食べたくなると思うんです。「これ、おいしそうですね〜」とか言いながら、なかなか食べないっていう。スタッフの人にも言ったんですが、「でも食べてください」ってなりました。
小堺:それはよく言ったね。ずっと説明するだけとかいいかも。「このうどん、麺がもうピカピカ光っているんですよ」とか「おつゆ。ちょっと薄めに見えるけど、これなんです」とか言うだけ。
新谷:うわ〜、それもう、早く食べて欲しい!
小堺:TikTokでもやればいいんじゃない? TikTok LIVEがあるなら、「早く食べて」ってコメントが来るだろうから、「500人来たら食べます」とか言って。そのうちにうどんが汁を吸って、いざ食べようと思ったらお店の人に下げられちゃって。
永松:それ、いいですね! 福岡のうどんでもやりたい。
「新しい才能と会う」コラボ動画
対談前、「ばりやわとんこつ」アカウントで、二人は小堺さんと共演を果たしました。永松さんがスマホで撮影し、新谷さんと小堺さんが掛け合いました。
新谷:先ほど、私たち「ばりやわとんこつ」と小堺さんのコラボ動画を撮影させていただいたときにも思ったんですけど、アイデアがどんどん出てきてすごいです。でも、TikTokはやられていないんですよね?
小堺:やられていないです(笑)。だから勉強しに来ましたが、撮影は楽しかったですね。
新谷:実は私たち、コラボ動画は初めてなんですよ。
小堺:あら、ホント? すみません、こんなじいさんを。
永松:いやいやいやいや、めちゃくちゃ感謝しています。僕らのパッケージに小堺さんがいらっしゃると考えたとき、どんなシチュエーションかを想像して、撮影終了後って設定にしたんです。僕らはリアルってところも大事にしていて。
新谷:だけん、こういう撮影終わりに「ホントは男女のいざこざっていっぱいあるとかな」って想像して、そうなるとおもしろいなって思いました。
永松:撮影しているときは、僕らの動画の中に小堺さんがいらっしゃるっていう感動と、最後はどう来てもらえるんだろうってワクワクがありました。
小堺:僕は若いころからこの世界でやっているので、先輩と仕事することが多かったんですよね。それがいつの間にかどこにいっても年長になっている。それでも、若い人と会う方が緊張しますね。コラボもドキドキしましたけど、楽しかったし勉強になった。新しい才能の人と仕事をすると、まだ自分が吸収できるんだなってわかってありがたいですね。
新谷:私もずっと緊張していたんですが、あいさつさせていただいたときの笑顔で、「あ、テレビで見とった人や」と思ってほぐれました。私たちはこれから頑張ってテレビに行く者やけん、失礼は承知でぶつかっていくって決めてたんです。
小堺:スゴイよね、僕、そんな勇気なかったもん。本当に楽しい時間でした。これからも頑張ってくださいね。
永松:次はテレビの現場でお会いできるように、頑張ります!
その他の「ばりやわとんこつ」のTikTok動画はこちら
構成・文:石川由紀子
写真:山田秀隆