稲垣吾郎「かっこいいと思ってやっていないことがかっこよさになる。だから僕はかっこいい人間にはなれない」
![](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2022/11/1600_IG_054.jpg)
多くの人が憧れる俳優たち。彼らはなぜ「かっこいい」のか。その演技論や仕事への向き合い方から、ルックスだけに由来しない「かっこよさ」について考えたい――。
11月4日公開の映画『窓辺にて』で、稲垣吾郎が演じるのは、妻の浮気を知っても怒りを感じなかった夫という役柄だ。
一見とらえどころのなさそうなキャラクターだが、稲垣はこの役について「知っている感情だ」と感じたという。「感情を表現する仕事だからこそ、日頃は人に感情を見られるのが照れくさいし、サラッといたいタイプ」と自己分析する彼にとって、「かっこいい」とはどんな状態なのか――。
![稲垣吾郎「かっこいいと思ってやっていないことがかっこよさになる。だから僕はかっこいい人間にはなれない」](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2022/11/IG_037.jpg)
(取材・構成=西森路代)
監督がシンパシーを感じてくれた
――今泉力哉監督のインタビューによると、今回演じられた市川茂巳という役の人物像について、初めて監督と会ったときに「自分が知っている感情だ」とおっしゃったそうですね。どんなところでそう感じたのでしょうか。
この作品では、「何かを手放す」ということが一貫して描かれていたと思います。僕自身はあまり「手放せない」ほうの人間なんですが、最近はそういうふうに生きていきたいなとすごく思うことがあるんですよね。蓄えることに満足していると、結局肝心なものが何も残ってないこともあるから。何かを手放す勇気は必要だなと考えていたので、「知っている感情」だったのかなと思います。
![稲垣吾郎「かっこいいと思ってやっていないことがかっこよさになる。だから僕はかっこいい人間にはなれない」](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2022/11/IG_046.jpg)
もうひとつ、僕が演じた市川は、妻が浮気をしていることを知っても怒りを覚えなかったという人物です。これは今泉さん自身がふと思ったことらしいんですが、僕もわかるところがあるなと思いました。喜怒哀楽がないわけではないけれど、ショックなときほど表情に出にくいようなところがあるんです。仕事が感情を表現するものなので、逆に日頃はあまりエモーショナルに生きすぎたくないというか、サラッといたいタイプなんですよ。感情を人に見られるのがちょっと照れくさいんです。世の中が盛り上がってること、いわゆる“ブーム”なんかにも乗れないんですよね。醒(さ)めているといえば醒めているんですが、かっこつけてしまう部分があります。そういう部分が今泉さんにもあるんだと思うし、僕も共感できるところです。
世の中には、「喜怒哀楽はこれくらい表現しないといけない」という基準みたいなものが存在すると思うんです。『窓辺にて』でも、市川が志田未来さん演じる有坂ゆきのから、「浮気されたら普通怒るでしょう? 怒らないってことは、相手を愛していない証拠だ」と言われるシーンがありますが、こういう気持ちに同調できないと「心がない」とか「冷たい人間だ」と思われるだろうから、難しいですよね。
――そのベースには、何があるんでしょうか。
僕はあまり人に期待しすぎないし、依存するタイプでもないので、それで「つまらない」と思われたり、心がないように思われたりするのかもしれないですね。そういうところが、役と似ている部分なのかなと思います。
![稲垣吾郎「かっこいいと思ってやっていないことがかっこよさになる。だから僕はかっこいい人間にはなれない」](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2022/11/IG_102.jpg)
――だからといって市川は冷たい人間にも見えず、ただ「そういう感情の人なんだな」と思いながら映画を観(み)ました。この役はあてがきだそうですね。最初、あてがきだと知らずに観て「これは稲垣さんでないと演じられない役だな」とも思いました。
今泉さんの中にある感情が始まりではあるんですが、僕だったらそれを表現してくれると考えて書いてくれたんだと思います。シンパシーを感じてくれたのかな。お互いにそういう二人なので、現場で必要以上に会話をすることもなくて、それが面白かったですよ。人によっては難しい役なのかもしれないけれど、僕は難しいと感じずにやれてよかったです。
――今回の作品では何か役作りをされましたか?
今泉さんの現場は、ナチュラルに芝居をすることが求められますし、そういうスタイルに自分を持っていくということはしました。
やっぱりお芝居には、作品ごとのスケール感や温度というものがあると思うんです。どの作品でもその人のままに演じる人もいるけど、僕は意外と合わせるほうですね。そのほうが作品が良くなると思うので。今泉さんの作品の登場人物は、ドキュメンタリーみたいに自然じゃないですか。今泉さんも「あまり芝居しないでください」と言うし、ありがちな形を求めていなくて、そこが面白かったですね。
それに、今泉さんの脚本は、ひとつのシーンだけじゃなくて、その前後も存在しているかのように書かれているんですよね。例えば僕と玉城ティナさん演じる久保留亜が喫茶店にいるシーンでは、その前後の時間というものを感じられるようになっていると思うんです。そのためには僕がどう表現したらいいか、そんなことをチューニングするのが楽しかったですね。
![稲垣吾郎「かっこいいと思ってやっていないことがかっこよさになる。だから僕はかっこいい人間にはなれない」](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2022/11/IG_064.jpg)
![](https://www.asahi.com/and/wp-content/themes/and/assets/img/article-end.png)
- 1
- 2
風姿花伝っぽい美意識を感じました。