「おじさんは家族や他者の声を意識して共生することが大事」 映画『MONDAYS』出演のマキタスポーツさん
「おじさん」として気をつけていること
マキタスポーツさんは、2008年からプチ鹿島さん、サンキュータツオさんと始めた自主制作のポッドキャスト番組『東京ポッド許可局』(現在はTBSラジオ毎週土曜26時〜27時)でも根強い人気を集めている。そこで数々の「おじさん論」を繰り広げ、バージョンアップし続ける「愛らしいおじさん像」を作り上げた人物でもある。映画で存在感のある部長役を演じたマキタスポーツさんは、現在52歳。ふだんの暮らしの中で、おじさんとして気をつけていることを聞いてみた。
「妻、20歳と15歳の娘。彼女たちの意見が一番身近にある世間、身近な他者の声だと思っているので、意識しています。実際のところ、揉め事もよく起こるんですよ。『それ老害!』とか言われると、カチンと来る。時と場合によっては『ちょっと待て!』と争いになることもあるんです(笑)」
「娘からこんな提案をされたこともありました。あまりに怒ってばかりだから『ラップで話し合おうよ』と言われて、ラップにチャレンジしてみたんですけど、全然言葉出てこないんですよ(笑)。そしたら怒りよりも笑うしかなくて。しかしまあ、娘や妻から言われたことが、じわじわと後から効いてくることもあります」
他者との共生を意識する大切さ
「ただ、いつも彼女たちが正しいわけじゃなくて、世の中にはアザーズ(他者)がいるんです。他者と共生していることを意識することが大事なんですよね。その中で自分の個を確立するためには、場に貢献もしないといけない。税金や政治、選挙がなぜ必要なのか、物や社会の原理が分かるようになって知った面もあります。そういうところから、おじさんというもののあり方を気づかされることはありますね」
コロナ禍の2020年、NHKで放送された番組『パパがうちにいる。』では、マキタスポーツさんの自宅に定点カメラを設置し、ステイホーム中の暮らしを撮影。娘さんが撮影した映像なども放送された。3月に上梓された小説『雌伏三十年』(文藝春秋)の表紙は、長女が若かりし頃のマキタスポーツさんをイラストで描いている。
「(NHKの番組は)コロナ禍だったこともあり、お受けしたんです。何も起こらない、何も面白くない映像ですよ(笑)。あれこそが、日々のタイムループの出来事ですね。娘からは『老害が寝てるよ』とか言われちゃって」
「家族愛は、もちろんあります。だけど僕はそんなにさらけ出してはいませんよ。中には、家族を換金しちゃうような方もいるでしょう? それに比べれば、僕は品がいい方だと思いますよ」
Eテレ『はなしちゃお! 〜性と生の学問〜』では、コンドームの妖精“まっきぃ”の声を担当。性教育番組のキャスティングは、マキタスポーツさんが当時高校生の長女にコンドームを渡すべきかの葛藤をコラムで執筆したところ、それがきっかけでオファーを受けたそうだ。以前から、オープンな性教育の必要性を掲げてきたマキタスポーツさんだが、現在は次女が恋のシーズンに突入し、気にかけているそうだ。
「『生きもの地球紀行』とか『アニマルプラネット』といった番組の“恋の季節がやってきた”というナレーションを聞き、色づいた映像を見ているようです。スマホを持って、ぐにゃぐにゃしている(笑)。スマホに時間を取られすぎているのが気がかりですが、ああいう時間も必要なんでしょう。次女には、妻が先に『避妊も必要だよ』『コンドームは自分を守る手段だよ』『それを使いたがらない男がいたら、それはあなたの人生を奪いにきている人だからね』と、娘に言って動いてくれた。僕は出る幕がなかったです」
「うちと同じやり方をする必要はないし、どんなやり方をするかは、それぞれの家庭で検討していただくのがいいと思います。性教育というと大きい話になって聞こえるし、会話も非日常に見えるかもしれませんが、そういう断面から彼女たちが考えていることや成長の一端が見えたりもするんです。できるタイミングで恥ずかしがらず話すことは大事だと思います」
やりたいことを仕事にしている責任
現在、『オトネタひとり旅〜雌伏三十年ツアー〜』で全国ツアーを敢行中。俳優としても数多くの映画やドラマ、舞台作品に出演し、今年は文筆家としてのデビューも果たした。50代の今、どんな思いで仕事に向かい、多彩な仕事にどうバランスを取って臨んでいるのか。
「元々やりたいことを仕事にしているので、その責任と“自分の替わりは自分しかいない”と勝手にでっち上げてやっています。役者で経験したことが芸人活動に活かされたり、芸の試作を続けていく中で本を出すことになったり。向かっていたこととは、別の何かが生まれたりすることもあります。どれも欠くことができないし、辞めちゃいけないと思ってるんです」
「一度、芸人の肩書きが鬱陶(うっとう)しくなり、外していた時期もあるんです。単独ライブをお休みしていたんですが、あまりバランスが良くなかった。苦労してでもやったほうがいいなと。で、芸人の肩書きを戻してリスタートしました」
「替えがきかない、唯一無二」の存在であることを信じて進む。その先に見えるもの、人生で挑戦したいこととは。
「芸人、役者、文筆家。その三つの仕事をしている人って、それほどいるわけじゃないんです。リリー・フランキーさんも芸人じゃないですからね。同じような畑で、違う作物を育てているというか。おじさん界隈(かいわい)にも、いろいろな人がいます。その中で、僕しかできないことをやっていく。それをいかに続けていくかだと思っています」
「あと、もう一つ欲が出てきていることとしては、人の育成ですね。自分のマインド、スピリットを伝えていきたい。将来的には、そんな考え方を学べる機会や場所を作れたらとも思います」
(文・武田由紀子/写真・花田龍之介)
10月14日から東京・渋谷シネクイント、大阪・TOHO シネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマで先行公開、10月28日より全国にて順次公開
出演:円井わん、マキタスポーツ、長村航希、三河悠冴、八木光太郎、髙野春樹、島田桃依、池田良、しゅはまはるみ
監督:竹林亮
脚本:夏生さえり、竹林亮
主題歌:lyrical school「WORLD’S END」(BOOTROCK Inc.)
上映時間:82 分
配給:PARCO
(c)CHOCOLATE Inc.
公式サイト:https://mondays-cinema.com
Twitter:https://twitter.com/mondays_cinema
フォトギャラリー
- 1
- 2