戸次重幸「人間臭くてなりふり構わない、でもそれがかっこよくも見える……“かっこ悪いかっこよさ”を表現したい」
多くの人が憧れる俳優たち。彼らはなぜ「かっこいい」のか。その演技論や仕事への向き合い方から、ルックスだけに由来しない「かっこよさ」について考えたい――。
10月7日~16日の東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAを皮切りに全国5か所で上演される舞台『A・NUMBER』は、近未来を舞台に、自分が実はクローンだったと知った息子と父の対話を通じて、“アイデンティティー”をめぐる物語を描き出す。本作で息子たちを演じるのは、戸次重幸。初めての二人芝居への挑戦となる。
演劇ユニットTEAM NACSのメンバーであり、ドラマ、バラエティーから舞台作品まで幅広く活動する戸次は、俳優という仕事を「自分の経験をすべて仕事に反映できる稀有(けう)な商売」と表現する。48歳の今、戸次が「面白い」と感じる「かっこ悪いかっこよさ」とは――。
(取材・構成=西森路代 スタイリスト=小林洋治郎〈Yolken〉 ヘアメイク=横山雷志郎〈Yolken〉)
俳優は、経験をすべて仕事に反映できる商売
――舞台『A・NUMBER』では二人芝居に挑戦されるとのことですが、上演を前にした心境はいかがですか?
今まで大人数の芝居と一人芝居しかやったことがなくて、二人芝居は人生初なんです。一人芝居は当然セリフ量が膨大なんですが、今回の『A・NUMBER』もとてつもない量で、まずは一個そこにハードルがあるなと。でも実は僕、「セリフ覚えがいいんです」と堂々と言えてしまうくらいセリフ覚えがいいので、そこは自分を信じています。益岡徹さんのお芝居との融合でつくっていくことにワクワクしていますし、早く稽古したいなと思っています。
――戸次さんは、姿形は同じだけれど別の人間を、一人で何役も演じるそうですね。
それがすごく楽しみな部分ですね。僕は益岡徹さん演じるソルターの息子役で、クローン人間として生まれた何人もの人物を演じます。一人称が“僕”だったり“俺”だったりしますし、最初から最後まで新鮮な気持ちで演じられるんじゃないかと思います。
――今回の二人芝居も新たな経験になることと思いますが、俳優として活動する中で、自分自身の過去の経験が活(い)かされていると感じるのはどんなときでしょうか。
俳優って、経験をすべて仕事に反映できる稀有な商売だと思うんです。古今東西の物語には困ったり、追い詰められたり悩んだりしている人たちがたくさん出てきますよね。そこから、うまくいくためにがんばっている姿を描いている。自分に与えられるのもそうした役が多いので、自分自身が過去に失敗したこと、うまくいかなかったこと、そのときに感じた悲しみや怒り、悔しさといった負の感情が、芝居に活かされていると思います。今回の『A・NUMBER』も、最初からうまくいっていない人の話です。なのでやっぱり、公私での経験が反映されるお芝居になるんじゃないかと思います。
――失敗している人とは逆の、何もかもうまくやっているような「かっこいい役」に対してはどう思われますか?
かっこいい役は、かっこいい人が演じたらいいと思います。かっこいい芝居を追求することがぴったりくる方もいますよね。設定からかっこいい役をそのまま突き詰めて演じられる人もいると思うんですが、私はそういうタイプではないので……(笑)。だから、ちょっと崩れた、かっこ悪いかっこよさを表現するのが好きですね。人間臭くて、なりふり構わなくて、でもその姿がかっこよくも見えるというような。そうした役のほうが自分としては面白いと思うし、やれる自信もあります。
――過去に演じた中で、とりわけ「これはかっこよかったな」と思う役はありますか?
今年、齢48にして『仮面ライダーリバイス』(テレビ朝日)に出演して、仮面ライダーベイルとして変身もさせてもらったんですが、あれはやっぱりかっこよかったですね。いろんなものを背負って背負って、変身せざるを得なかった、という形ではあったんです。でも、変身のシーン自体は、もう混じりけなしにかっこよかったとも思います。自分がそういうことも楽しめるんだなというのは、去年から今年にかけての新たな発見でした。
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戸次重幸さんは大好きな演技者のファンです
戸塚さん年を重ねてゆく戸塚さんを
観ていたいです。いつまでも輝いて、疲れた時には
休み、焚火が消えないようにいつまでも、応援しています。後期高齢者のシンデレラより。