市川染五郎さん「とにかく今はいろんな役を経験したい」 17歳の胸に宿る野望
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スッと目を伏せると豊かなまつ毛にドキリとさせられる。高麗屋の貴公子、八代目市川染五郎(17)の流し目は、破壊力抜群だ。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では源義高を演じ、その美少年ぶりで視聴者をざわつかせた染五郎。歌舞伎座の「六月大歌舞伎」では、第二部の「信康」で主演。タイトルロールの徳川信康を演じる。
17歳にして歌舞伎座の主役に大抜擢(ばってき)されるとは、未来の千両役者に対する期待の表れだろう。「自分にお客様を集められる力があるかという不安はあります」と言う染五郎だが、一方で力強くこう語った。
実際に劇場に来なければ得られない感動を
「プレッシャーも大きいですが、主役であろうが脇役であろうが、舞台に対する心意気、心持ちは変わりません。お客様に良いものをお見せできるように全力で勤めたいと思います」
信康は家康を父に、今川家の出である築山御前を母に持つ徳川家の嫡男(ちゃくなん)。妻は織田信長の娘、徳姫。だが、信康が切れ者だけにいつか自分の脅威になると恐れた信長は、徳姫と築山御前の不和をきっかけに信康に謀反の疑いをかけ、信康はやがて自ら命を絶つことになる。物語は信康と家康との心の葛藤を軸に、時代に翻弄(ほんろう)される親子の運命をドラマチックに描く。父・家康を祖父の松本白鸚が演じる。
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「前回の歌舞伎座での上演は26年前になりますので、僕が生まれるよりももっと前の作品です。正直なところ、この作品は知りませんでしたし、信康という人物についても初めて知りました。今回まずタイトルを見て『どんな作品なんだろう』と興味が湧きました。ここまでガッツリした台詞(セリフ)劇、祖父や他の出演者の方々とお芝居をするという作品はとても久しぶりです。『信康』は一つ大きな挑戦となりますが、やってみたいと思いました」
歌舞伎座での「信康」の上演は、今回で3度目。信康が出てくる作品は他に、歌舞伎の「築山殿始末」や萬屋錦之介主演の映画「反逆児」が有名だ。だが、染五郎は演出の齋藤雅文と共に『そのどれとも違う、新しい信康』を目指す。その一つの鍵となるのが信康の「危うさ」だ。
「今回、舞台で初めて信康が鉄砲を持つシーンが出てきます。齋藤さんは信康の知的ながらどこか危険を感じさせるようなアイテムとして鉄砲を加えられたようでした。そこで、スチール撮影でも信康を象徴するようなアイテムとして鉄砲を持ったらどうか、と父(松本幸四郎)や齋藤さんと話して決めました」
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写真に写る瑞々(みずみず)しい青地の着物は、今回のために新しくしつらえられた衣裳。第一場の前半で見せる、信康の明るく若々しい部分にピッタリだ。染五郎は前半をしっかり演じることで、次第に悲劇が展開していく後半の信康とのギャップを見せるつもりだ。
信康の魅力は、彼の持つ「強さ」だと染五郎は言う。
「信康は自分の思う正しい生き方、武将として武士としての正しい生き方をはっきり持っている。自分の父であろうが、正しくないと思うことは正しくないと言うのが信康の強さです。ただ、そこは危険なところでもあり、家臣には『そういうことを言うのは自分たちの前だけにしてください』と言われてしまうことも。信康はそうした危険なところと武士としての強さが共存しているところが魅力です」
演じるにあたり、齋藤とともに、愛知県の岡崎城や静岡県浜松市の二俣城跡、若宮八幡宮(首塚)など、信康ゆかりの地を巡った。
「首塚では生々しく命というものを感じました。信康は実在の人物なんだ、本当にあった話なんだと改めて感じました。ゆかりの地を訪れたことで、知識としてたくさん得られた部分がありましたし、現地に行かないとわからない『何か』を感じることもできたと思っています。そういうものを大切に、信康を演じたいという気持ちが強まりました」
齋藤からは「信康」の世界観、人物像、セリフの分析など作品の話だけにとどまらず、演劇全般についても学ぶ。初めて話した際に聞いた「劇場は遊園地みたいなものだ」という言葉は今も忘れない。
「つまり、『行かなければ体験できない。実際に劇場に足を運ばなければ、得られないものがある』とおっしゃっていたのですが、それは役者が作らなければいけないもの。実際に劇場に来なければ得られない感動をお客様に届けることが、役者にとってとても大切なことだと感じました」
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