Aging Gracefullyオンラインフォーラム2022
「女性の健康とサステナブルライフを考える」<後編>
持続可能で心身共に健康的な生活とは
荻野目洋子さん「日々できることから」
「人生100年時代」に向け、40代、50代の女性たちを応援する宝島社『GLOW』と朝日新聞社によるAging Gracefully (以下、AG)プロジェクト。今回は歌手の荻野目洋子さんらをゲストに迎え、オンラインフォーラム2022「女性の健康とサステナブルライフを考える」を、2022年3月12日に開催しました。
セッション2は「荻野目洋子さんと考える、サステナブルライフとAG世代の健康」と題して、荻野目さんのほか、大塚製薬株式会社女性の健康推進プロジェクトリーダーの西山和枝さん、『GLOW』編集長の井下香苗さんが、健康を保つためにできることや、サステナブルな暮らしについて語り合いました。約600人が視聴し、司会は朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクトの坂本真子が務めました。
いま、サステナブル、ソーシャルウェルネスなど、持続可能で心身共に健康的な社会生活を送ることが注目されていて、『GLOW』の特集などでも取り上げられています。
井下さんは、「サステナブルや、ウェルネスは非常に関心が高い注目のワードです。AG世代の、特に更年期で仕事をお持ちの方で、体の不調と仕事との折り合いの付け方に悩みを抱える人も少なくないと聞いています。周りに理解してもらいにくい、人に話しにくい、という声も聞きます」。
こうした女性の健康課題について、大塚製薬では、女性の健康をサポートする製品の研究開発で培ったノウハウをもとに、知って対処することの重要性を伝える活動を行っています。西山さんは、企業向けの出張セミナーや、一般の方々を対象にしたセミナーなども担当されています。
「ヘルスリテラシーは、健康情報を入手して、理解して、評価して、活用するための知識、意欲、能力です。知らなければ気づけませんし、気づけなければ対処できません。知って、気づいて、相談して、対処する。このサイクルをうまく回せる人ほど、より健康に近づけるので、みなさんに少しでもヘルスリテラシーを持っていただけたら、と思って啓発活動を行っています」
40代後半で体の不調に
荻野目さんは普段から週5日、1回40分のビデオエクササイズを行うなど、体調管理に気を使っています。
「買い物に行くときは電動じゃない自転車で、かなり急な坂道を一生懸命、息を切らしながら上ります。ちゃんと上れたら体力が落ちてない、というバロメーターになっているんです。ヒールを履くのは仕事のときだけと決めていて、普段はスニーカーでたくさん歩きます。歩くことが好きなので、1駅や2駅は、時間があれば全然苦じゃないですね」
そんなエネルギッシュな荻野目さんですが、40代後半で体の不調に直面。ちょうど「ダンシング・ヒーロー」がリバイバルヒットしている時期でした。
「実はあの頃、肩が痛かったんです。四十肩というんでしょうか。専門的なお医者さまに通ってリハビリをしながら、最初は左、後から右と、治るまで1年弱かかりました。ほかにセッション1でもお話ししましたが、しゃべり始めるときに、のどが詰まるような不快感があります」
これについて、西山さんは「女性ホルモンのレベルの変化が原因かもしれません。AG世代にいろいろな症状が起きる理由の一つです」と話します。
「女性は12~13歳ぐらいに初経を迎えて、毎月の波に見舞われます。そして、閉経の中央値がだいたい50.5歳。この前後5年間の10年間を更年期と言いますが、このグラフのようにきれいには下がらず、アップダウンを繰り返しながら乱高下します。この急降下に身体がついていけず、さまざまな症状が起きるのが、いわゆる更年期症状で、だいたい200から300種類ぐらいあると言われています。ご自身の症状が、更年期によるものか、あるいは原疾患によるものかについては、かかりつけ医に診ていただいて、自分の身体の調子を見つめていただければと思います」
かかりつけの婦人科医を
AG世代の女性たちが健やかに過ごすために、西山さんが提唱するのが「新・セルフケア」です。
「セルフケアというと、お食事を見直す、運動をするなどケアだけを想像されると思いますが、それに加えて、かかりつけ医、できればかかりつけの婦人科医を持っていただく、定期的に婦人科検診に行く、この全てを『新・セルフケア』と考えています。婦人科は赤ちゃんを産む場所と思われている女性が非常に多く、受診のハードルが高いという声も聞きますが、自分の身体を知っているお医者さまがいると、何かあったときにすぐ相談に乗ってもらえるので、ぜひ、かかりつけの婦人科医を持っていただきたいと思います」
井下さんによると、『GLOW』で更年期などのテーマを取材すると、どの医師も必ず「かかりつけ医を持ちましょう」と訴えるそうです。
「かかりつけ医は本当に大事だと思います。ただ、『GLOW』編集部の中でも全員が持っているわけではないので、ハードルが高いと思う人もいるのかもしれないですね」と井下さん。
日々を健康に過ごすために、一日3食を栄養のバランス良く食べることと、適度な運動、睡眠が大切だとよく言われます。このほかに、エクオールという成分の重要性を、西山さんは訴えます。
「女性ホルモン、つまりエストロゲンと、エクオールは非常に顔形が似ていて、エクオールは女性ホルモンに非常に似た作用を示す成分だということがわかっています。エクオールは、大豆を召し上がっていただくと、腸内細菌で代謝されて作られます。ただし、日本人では2人に1人しかこの腸内細菌を持っておらず、大豆を食べても、半分の女性がエクオールを作ることができないことがわかっています」
腸内でエクオールを作れるかどうかは、郵送検査キット「ソイチェック」で調べることができます。 「新・セルフケア」の調査結果やエクオールの成分などについては、「女性の健康推進プロジェクト」で詳しく説明しています。また、かかりつけ医は「更年期ラボ」で検索できます。
野菜の切れ端も捨てずに
荻野目さんが、健康を保つために特に意識していることを聞きました。
「私はとにかく旬のものをいただきます。スーパーに行って探すのも楽しいですし、特別な料理にこだわらなくても、そういったものを食べるだけで元気をもらえるような気がします。日々できることからやっていくのが一番かなと思っています」
荻野目さんは、タマネギやニンジンの切れ端を捨てずに袋に入れ、みそ汁やスープのだしをとっているそうです。
「野菜の自然な甘みが出ておいしいですよ。あと、私は雑誌を読むのが大好きで、きれいな誌面をそのまま捨ててしまうのが悲しくて、ティッシュの箱をラッピングしたりコラージュしたり、封筒を作ったりもしています。折り畳んでマスキングテープをつければいいので、どんどん利用しています。子どもの新学期の雑巾は、くたくたになったバスタオルをミシンで縫っています」
こうした持続可能な暮らしを荻野目さんが意識するようになったのは、幼い頃から自然が豊かな土地に育った影響が大きいと言います。
「子どもながらに、このきれいな空がなくなったら悲しいな、自然を破壊してはいけないんじゃないかな、と思っていました。木登りも好きでしたし、虫も大好きになりました。そういう経験から来ていると思います」
『GLOW』では昨年、サステナブルのファッション特集を組みました。井下さんによると、最近はエコ素材や再生素材も非常に上質な製品が増えているそうです。
「地産地消やフェアトレードなど、品質の背景にまで気を配ったものづくりや、そのアイテムができあがるまでにどんな人たちの手を経てきたか、トレーサビリティーにも注目が集まっていると感じています」
トレーサビリティーとは、主にその製品がいつ、どこで、誰によって作られたのかを明らかにして、原材料の調達から生産、消費または廃棄までを追跡可能な状態にすることを意味します。
荻野目さんは昨年、ILO(国際労働機関)による、児童労働をなくそうという音楽のキャンペーンに、日本の歌手として参加したことから、トレーサビリティーを意識するようになったそうです。
「私の父が以前ILO東京事務局に勤めていて、子どものときからそういった意識はちょっとあったのかなと思います。日本では、児童労働は少ないかもしれませんが、今回のお仕事を通して、チョコレートやバナナを買うときに、これは誰が作ったんだろうと考えるようになりました」
児童労働反対をテーマに作詞・作曲された楽曲は、近く発表される予定です。また、荻野目さんは4月1日にビルボードライブ大阪、4月3日にビルボードライブ横浜で、ライブを開催予定です。
「今回はアコースティックで、ギターの方と、ピアノの方と、私の弾き語りと、3人で自由にお送りしていきたいと思います。ぜひ遊びに来てください」と、荻野目さんは呼びかけました。
今から筋肉を蓄えて
視聴者のみなさんからいただいた質問に答えました。
【Q1】荻野目洋子さんへ。いつもエネルギッシュに活躍されていますが、一番のパワーの源は何ですか。また、スリムな体形を保つために気をつけていることはありますか。
荻野目さん
「一番のパワーの源は、その時間を楽しむことですね。たとえば今日は、こうして出会えたみなさんとすてきな時間を過ごせたらいいなと思っています。スリムと言われますが、スナック菓子を1袋一気に空けてしまうこともありますし、昨夜もごはんを食べる暇がなくて帰りが遅くなったので、ラーメンをゆでて、野菜はたっぷり入れましたけど、夜9時過ぎに食べました。休むときと、いっぱい摂取するときとのバランスには気をつけています」
【Q2】ゲストのみなさんへ。年齢を重ねて不調を感じることが増えてきました。心身共に健康に過ごすために心掛けていることがあれば教えてください。
西山さん
「私は今から人生100年ライフに備えて『貯筋』をしています。お金ではなく筋肉です。女性はもともと筋肉が少ないうえ、年を取るとやせてしまうので、運動して今から筋肉を蓄えておくことが、この先も健康でいられる秘訣(ひけつ)かなと思っています。不調があるときは無理をせず、できるときにやるようにして、こつこつと。自宅でも、台所で作業をしながらスクワットをしています。目に見えて筋肉ができてくると、もっとやってみたいと思うし、楽しいですよ」
最後に、健康でサステナブルな暮らしを送るためのアドバイスを――。
西山さんは「女性ホルモンは女性の全身の守り神なので、その守り神がいなくなった後の50年をどう生きるかを、考えていただきたいなと思います。今日がそのきっかけになればうれしいです」。
井下さんは「無理をしないで、自分が続けられることをやっていくことと、一人で抱え込まず、気持ちや考えをみんなとシェアすることが大事なのかな、と今日一日を通して感じました。私も心掛けていきたいと思います」。
荻野目さんは「体の痛みや、心のもやもやは、自分一人で抱え込まずに、どなたかに助けていただいたり、友達としゃべったりするだけでも気が晴れるので、まずは実践してみてください。今日のお話が何かプラスになればうれしいです」。
ライブ配信では荻野目さんの歌声を聴くこともできました。Zoomのチャットも視聴者のみなさんからの投稿や、積極的な質問で盛り上がりました。
>> Aging Gracefullyオンラインフォーラム2022 「女性の健康とサステナブルライフを考える」<前編>
40代、50代の女性たちは、家庭や地域、職場で大切な役割を担いながらも、体調の変化、仕事や家族との向き合い方など、多くの課題に直面しています。2020年には日本の女性の半数が50歳以上となり、さらに2025年には3人に1人が65歳以上になると予測されています。ミドルエイジのAG世代の今後の人生がより充実したものになるように、AGプロジェクトは多くのパートナー企業や団体と共に、さまざまな情報を発信し、イベントを展開しています。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=伊ケ崎忍撮影