機能×デザイン、街に新風 アウトドア業界発ブランド
釣りざおやリールなど、釣り具ブランド「ダイワ」を展開する「グローブライド」(東京都東久留米市)。1958創業、フィッシング業界を牽引(けんいん)する企業で、ゴルフやテニス用品も手がけている。
創業50周年を前に、クリエーティブディレクターの佐藤可士和(かしわ)とブランドイメージの刷新に取りかかり、社名も、ダイワブランドのロゴも新しくした。釣り人以外にも知名度を広げるため、アパレル事業の強化を決めたものの、本格的なファッション事業は手探りだった。
アパレルマーケティングを担当する小林謙一執行役員は「当時の社長は『やるならファッションの王道にチャレンジを』という考えで、他業界から入るからには思い切ったことをやらなければだめだと」。
つてをたどってデザイナーを探すところから始め、2017年3月に「ディーベック」をスタートした。東京コレクションや、イタリアで開かれる世界最大級の紳士服展示会ピッティ・ウオモに出展し、本気の取り組みをアピールした。
東京・渋谷で9月にあった22年春夏のファッションショーでは、軽やかな青いドレスのアクセントに、ライフジャケットを組み合わせた。胸まであるサロペット、ポケットのたくさんついたベストなど、釣りでなじみのあるウェアを、モード感たっぷりの街着として見せた。
デザイン全体を監修するクリエーティブディレクターは「ケンゾー」で故・高田賢三さんの右腕として働いたパリ在住の佐々木勉がつとめる。著名ブランドの経験者をデザイナーに採用し、最近はよりファッション性を高めている。
撥水(はっすい)、防水、防風といった機能に加え、リールの小型化に貢献した軽くて丈夫な機能素材「ダイニーマ」を革の裏側に張り付けて軽いライダースジャケットをつくるなど、他にない商品の開発に力を入れる。
小林執行役員は「ファッション性と機能性を融合した、唯一無二のアパレルブランドを目指す」と話す。
釣りやキャンプで培った素材、着心地と耐久性
一方、高級キャンプ用品で知られるアウトドア大手「スノーピーク」(新潟県三条市)は、2014年に本格始動したアパレル事業が好調だ。20年度の売上高は21億円と、アウトドアに次ぐ事業の柱へと成長した。1987年生まれの山井梨沙社長は、文化ファッション大学院大学で服づくりを学び、12年にスノーピークに入社してアパレル事業を立ち上げた。
たき火で火の粉が飛んでも穴があきにくいなど過酷な環境に耐えうる機能性を備え、落ち着いた色合いで都会での生活にもなじむ。キャンプにも家で過ごす時間にも、商品によっては仕事にも着ていける「境界線のない服」だ。
社員はキャンプや自然が好きな人ばかりで、自分たちならどんな素材や機能が欲しいかを考え、ほぼ全ての服で生地から開発している。アパレル開発課の清水友香里マネジャーは「消耗品をつくっているという感覚はないんです。次の世代にも残していけるような物づくりを意識して、機能性や耐久性、着心地を追求している。流行も追いかけないですね」。
清水マネジャーも、文化ファッション大学院大学で服づくりを学んだ。「見た目のよさだけでは、服は売れなくなってきていると感じます。服の背景にある物語や生産者の思い、環境への配慮などに耳を傾け、共感して買ってくださる方が多い」と語る。
長谷川陽子
写真はブランド提供