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姿は違えどおなじみのあの味? 家でつくるアジアのおつまみ「コオロギの素揚げ」

世界各地を旅してきた旅行作家・下川裕治さんが、アジアの旅先で味わったもののうち、「ビールに合う」ものを厳選して再現します。今回は下川さんと写真家の阿部稔哉さんが、コオロギを揚げてみました。そのお味は……?

■本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと、相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

アジア旅で知った絶品ビールおつまみ タイ・ミャンマー・ラオスの昆虫

ビールに合うアジアのおつまみ──今回は昆虫の世界に分け入っていく。タイ、ラオス、ミャンマーに広がる山岳地帯。少数民族が暮らす一帯でもある。海から離れたこのエリアは、昔からたんぱく質を得るために昆虫を食べてきた。その幼虫や卵も食卓にのぼる。

はじめて出合ったときは、一瞬、目を疑ったが、せっかくつくってくれたんだから……というアジア人への気遣いで、昆虫の素揚げの胴体をつまんで口に放り込む。

「おやッ?」

いけるのである。ビールに合うのだ。山の民は1日の終わりに、こんなつまみで酒を飲んでいたのだ。

日本でも昆虫食の伝統はないわけではない。僕は長野県の出身だから、イナゴやハチの子を食べたことがある。しかしビールのおつまみではなかった。

まずはアジアで出合った昆虫おつまみから。そしてコオロギの素揚げのつくり方を。

短編動画

コオロギの素揚げのつくり方、試食を動画で。調理法はいたって簡単。タイから届いた冷凍コオロギを解凍し、揚げるだけ。揚げ方もそれほど気を遣わない。揚げ終わったら塩、コショウ。短時間でタイの山岳地帯にワープできるつまみができあがる。

昆虫おつまみ、コオロギの素揚げのつくり方 旅のフォト物語

Scene01

コオロギ

ラオスの市場ではトマトと唐辛子の間に、コオロギが売られていた。数珠つなぎになって。そのあまりにあたり前な光景は、ラオスを歩いていると、すんなり入ってくるが、改めて日本でこの写真を見ると……。これは素揚げにされ、ビールのおつまみになるはず。その様子は動画でも紹介しています。えッ、見たくない?(ラオス・ウドムサイ、1996年)

Scene02

朝市

ラオスのタラートの朝市。爽快な気分で訪ねると、昆虫、リスのような小動物、イノシシの肉、アリの卵……がなにげなく置かれている。貴重な森のたんぱく質は、日常生活に溶け込んでいる。タラートはビエンチャンからバスで1時間半ほど。リック川に沿った静かな街。コロナ禍が収束したらまた行きたい。(2016年)

Scene03

竹林

ミャンマーのチャイントン。店に座ると、おじさんが店脇の竹林に進み、そのうちの1本にナタの刃をたてた。「なにをやっているんだろう」。不審げに見ると手招きされ、竹に近づいてみた。「ウッ」。そこで見せられたものは次の写真で。こういうものを食べると、だいたいの食べ物は口に放り込めるようになる。(1996年)

Scene04

蛾の幼虫

竹の幹のなかから出てきたのはこれでした。蛾(が)の幼虫。元気に生きています。おじさんはそれをさっと油のなかに。言葉が通じないが、「新鮮でおいしいよ」と目が語っていた。揚げられた料理は次の写真で。ミャンマーでは、この蛾の幼虫の素揚げは、定番のビールおつまみ。雑貨屋の店先に袋に入って売られていることがある。(1996年)

Scene05

蛾の幼虫揚げ

蛾の幼虫揚げを食べてみると、「おやッ」。「かっぱえびせん」の味によく似ている。昔から、タイ、ラオス、ミャンマーの山岳地帯に行くと、「かっぱえびせん」や、それに似た「HANAMI」をよく見た。彼らはその味を蛾の幼虫揚げで知っていたのだ。しかし蛾の幼虫は数に限りがある。それで「かっぱえびせん」だったのか……。(1996年)

Scene06

タガメ

これはタガメ。タイではメンダーと呼ばれ、好物というタイ人は多い。いまは数が足りず、養殖とか。魚醬(ナンプラー)に漬け、蒸して食べることが多い。あぶっただけで食べる人も。そのまま中身をチューチュー吸ってもいいし、中身をナムプリックというタイ風ディップに混ぜ込んでも。高貴な果物のような味だ。(タイ・バンコク、2012年)

Scene07

アリの卵

タイやラオスでは、アリの卵は人気の料理だ。アカアリの卵はいまや高級食材。スープにいれたり、オムレツにしたり。しかしタイ人がいちばん好きなのは、唐辛子などの香辛料、少量の米、ナンプラーにアリの卵を加え、煮炒めするようにつくる料理。有名なタイ料理のラープのアリの卵版だと思えばいい。(タイ・ナーン、2004年)

Scene08

カブトガニ

昆虫ではないがカブトガニもタイでは平気で食べる。日本では一部の繁殖地が天然記念物に指定され、食べるイメージはないが。しかし食べる部分は少ない。卵を食べるのが一般的だが、ゴムのように硬い歯ごたえで、僕はどこがおいしいのかよくわからない。パタヤやプーケットなどではメニューに写真つきで載っているが。(タイ・メークローン、2004年)

Scene09

店員

タイやラオスの食堂では、自分でビールを注がない。店員がやってきて注いでくれるのを現地の人たちはじっと待つ。店員が多い店はすぐにやってくるが……。はじめの1杯が我慢できず、自分で注いでしまう日本人や欧米人は少なくない。店員の身のこなしもゆっくり。ビールで知るアジアの流儀というわけだ。(タイ・ウドーンターニー、2016年)

Scene10

ビール

タイを代表するシンハービール。現地ではビアシンと呼ぶ。ビールをこうして注ぐのは日本人や外国人向け。タイ人は氷を入れて飲む人が多い。冷蔵庫やエアコンがなかった時代の飲み方だが、氷を入れたほうがおいしいような気がする。タイ国際航空でシンハービールを注文すると、客室乗務員は、ビールを出すとき「氷はどうされます?」と聞いてくることが多い。(タイ・クラビ、2003年)

Scene11

コテージレストラン

ここはタイのウボンラーチャターニーの水上コテージレストラン。一棟貸し切り式で、ここでビールを飲み、釣りをしながら休日をすごすスタイルだ。川や湖の上なので若干涼しい。料理は小舟に乗った地元の人が売りに来る。そこにもしっかり昆虫料理が。ここはラオスとの国境近く。ラオスのビールと昆虫がセットメニュー?(2004年)

<コオロギの素揚げの再現料理はここから>
Scene12

材料

通販を通して冷凍のコオロギを買った。料金は100グラムで1100円。送料は1590円。タイ産で、人が食べるために育てられたコオロギとか。野生のコオロギとどこが違うのかはわからないが。それを解凍。塩とコショウを用意した。コオロギの素揚げなのでいたってシンプル。

Scene13

油

解凍したコオロギを約180度の油に投入して揚げる。あっという間に揚がってしまう。そのあたりは動画で。僕も揚げたが、油の表面がコオロギで埋まり、なんだか気味悪い光景になる。気泡が勢いよく出る。網ですくったが、足などがもげてしまい、油のそこに沈んでしまった。

Scene14

コオロギ

揚がったコオロギの油を切り、そこに塩とコショウをふる。量は好みで。タイやラオスの市場では、この状態で売られていることも少なくない。自宅で揚げるので、アツアツを食べることができるが、そのほうがおいしいかと聞かれると答えに困る。昆虫の素揚げはそういう料理だと思う。

Scene15

コオロギの素揚げ

完成。食べてみればわかるが、小エビを揚げたような味だ。これはコオロギだけでなく、バッタなども同じ味。甲殻類の味である。つまり小エビ揚げでビールを飲むシチュエーションだと思えばいい。見た目がコオロギというだけだ。そうはいっても……という人はいるだろうが。

※再現してみた日:7月3日~4日

【次号予告】次回は、東京の富士塚登山の旅。

姿は違えどおなじみのあの味? 家でつくるアジアのおつまみ「コオロギの素揚げ」

2019年に連載された台湾の秘境温泉の旅が本になりました。

台湾の秘湯迷走旅(双葉文庫)

温泉大国の台湾。日本人観光客にも人気が高い有名温泉のほか、地元の人でにぎわうローカル温泉、河原の野渓温泉、冷泉など種類も豊か。さらに超のつくような秘湯が谷底や山奥に隠れるようにある。著者は、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに、車で超秘湯をめざすことに。ところがそれは想像以上に過酷な温泉旅だった……。台湾の秘湯を巡る男三人の迷走旅、果たしてどうなるのか。体験紀行とともに、温泉案内「台湾百迷湯」収録。

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