今もきっとそばにいる、小さなかわいい“いもうとちゃん”。庭のお花畑、見ているかな
読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
原田恵美さん(仮名) 34歳 女性
医師
石川県在住
◇
3年前の長女の出産は、本当に大変でした。医師として働きながら何年にもわたって不妊治療をし、やっとおなかに来てくれた長女。切迫流産になり、出産時には心拍が落ちるなど、その産声を聞くまではおなかの中の子の生きる力をただただ信じて、祈るばかりの妊娠期間でした。緊急帝王切開で出産した長女はGCU(回復治療室)にも入室しましたが、後遺症もなく無事に退院できました。私の方は、産後に重症妊娠高血圧になった時には「死ぬのかな」とも思いましたが、体も落ち着き、産後3カ月で医師の仕事に復帰できました。
復帰後の生活は、患者さんの命と向き合う職場に加え、出産のために休学していた大学院に復学、試験や研修に追われ、さらにその合間に授乳、と忙しい毎日。ある日の仕事の帰り道、急に体が動かなくなり、保育園のお迎えに行けなくなりました。……うつ病の診断でした。薬での治療のため授乳をやめざるを得ず、当時1歳半だった長女は突然の卒乳となりました。おっぱいがほしいと泣く姿を見るのがつらく、私もよく一緒に泣いていました。
長女が2歳半になったころ、おなかに来てくれたのが次女でした。もうすぐお姉ちゃんになる長女はおなかに手をあて「動いたね」とうれしそう。性別がわかる前から「わたしのいもうと」と呼んで、会える日を楽しみにしていました。私は、つわりがひどく一時入院もしましたが、かわいい2人姉妹の誕生を心から楽しみにしていました。
しかし、つわりの入院を終えた後も、私の体調はいまひとつ。早く仕事に復帰せねばとあせる気持ちに反して体調はなかなか戻らず、医師として母としてこれからどう両立させていくかを悩んでいました。また、長女の際の産後の体調の悪さとうつを思い出し、次女の出産への不安も大きくなっていました。
「大事な時期だから仕事のことは考えるのはやめて、赤ちゃんに集中しましょう」
医師からそう諭された6カ月健診の日の夜に、次女の胎動は止まってしまいました。昼間の健診では異常がなかったのに、なぜ……。できる限りの検査をしましたが異常は無く、私自身の行動に無理があったのではと、何度も自分を責めました。これまでも医師として患者さんの命と向き合ってきましたが、自分の子どもの命と向き合い、母として、患者として、改めて「生きるとは何か」を深く考えることとなりました。
自分を責めるばかりだった私を救ってくれたのは、次女を亡くした後に家の庭に植えた草花です。出産予定日の頃に咲く花を選びました。次女のことは時間がたっても忘れることができないし、思い出すと苦しくなって涙が出ますが、「次女のために庭を花でいっぱいにしよう」と、長女と一緒に草花のお世話をすることで、生きる力をもらいました。姿は見えませんが、きっといつも近くに次女がいると思いながら。
今年の春、その草花たちが一斉に花を咲かせました。「いもうとちゃんも、きっとお花畑を見ているよね」。お姉ちゃんになることを楽しみにしていたけれどそれがかなわなかった長女と一緒に、そうお話しています。
長女も、草花が大好きです。登園前や休日のお散歩で、どんぐりや大きな葉っぱを拾ったり、たんぽぽの綿毛を飛ばしたり、梅や姫リンゴ、ヘビイチゴなどを見つけたり。きっと長女と同じように活発な女の子になったであろう次女。そんな2人の姉妹の証となるような、お花を贈っていただけませんでしょうか?
花束をつくった東さんのコメント
お空へ帰ってしまったお子さんのためにお庭を花でいっぱいになさったというエピソードに、心を打たれました。そこで、お庭にあるような草花をたっぷり入れた、ガーデン風のアレンジに仕上げました。
小さなお花がたくさん入っていて、ハーブのオレガノやスズランなど、ほんのりとしたお花の香りも楽しめます。またグラマトフィラムの透き通るようなグリーンも、見ているだけで心を休ませることができるでしょう。つらい経験をなさった投稿者様の癒やしに、少しでもなればと思いました。
アレンジに使った花材でこのままお庭へ植えられる草花はありませんが、しばらくすると種がこぼれるものもあります。種を植えて、お庭にお花を咲かせてくれればうれしいですね。アレンジのまま庭に置き、景色の一部として楽しむのもいいと思います。
文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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