アニメ『ゴジラ S.P』始動【3】徹底的に“天才”を演じきる 声優・宮本侑芽、新しい役柄への挑戦
3回目は二人の主人公のひとり、神野 銘(カミノ・メイ)を演じる声優の宮本侑芽さんに、役に対する思いや、演じる上での意識について話を聞きました。
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歴史ある作品への出演「プレッシャーと楽しみな気持ち」
歴史ある「ゴジラ」作品への出演をオーディションでつかみ、主人公役に決まった当初はプレッシャーを感じていたという宮本さん。同時に「楽しみな気持ちでいっぱいでした」とも語る。2018年に出演したTVアニメ『SSSS.GRIDMAN』での経験が、本作への前向きな気持ちに繋(つな)がっていた。
「以前も歴史ある特撮作品から生まれたアニメに関わらせていただいて、とてもプレッシャーを感じていました。私は小さい頃に特撮作品をあまり見てこなかったため、特撮の世界をつくり上げる上で分からないことが多く不安もあって。けれど、実際に現場に入ってみたら特撮へ愛を持つ方たちばかり。熱量の高い現場を体験しました。『ゴジラ S.P』に関わると決まったとき、熱量の高い現場をまた体験できる!とワクワクしました」
宮本さん演じるメイは“存在しない生物”を研究する大学院生だ。天才で変わり者だが、気難しい性格ではない。明るく朗らかで少し抜けている面があり、とても親しみやすいキャラクターである。宮本さんは「自分と似ているところが多いと感じました」とメイへ抱いた印象を振り返る。
「“前向きな性格で頭で考えたことと口が直結している”とキャラクターについて説明をいただいたんです。最初は頭のいい子なので考えて言葉を選ぶのかなと思っていましたが、その説明を受けて、そんなに凝り固まっていない子なんだなと。私自身、あまり後先考えずに言葉を発してしまうクセがあるので似ている性格だと感じましたね。そこまでつくり過ぎずに演技に臨むことができました。あと、作中には描かれていないと思うのですが、“ナポリタンが好き”という設定もあって。私も大好きだからそれだけで親近感がわきました(笑)」
キャラクターになり過ぎない自然な演技
宮本さんが生まれる前から長きにわたる歴史が紡がれてきた「ゴジラ」シリーズ。本作への出演が決まったことで初めて作品に触れたそう。ゴジラ作品の印象を伺うと「すごく誤解していました」と一言。宮本さんの中にある“子どもの見る作品”というイメージが一変したのだ。
「怪獣たちはただ暴れているのではなく思いを持って戦っていること、怪獣たちとの戦いの中に人間ドラマが描かれていること。怪獣が出てくるという非現実的な設定の中にもリアリティーを感じます。大人が見て感動できる、楽しめる作品だと感じました。逆に子どもの頃に見ていたら、ちょっと恐怖を感じていたかもしれません(笑)」
従来の「ゴジラ」シリーズならではの演出も『ゴジラ S.P』では踏襲されている。加えて芥川賞作家・円城塔さんのシリーズ構成・脚本には、これまで以上のSF表現とリアリティーが盛り込まれているという。視聴者を作品の中へ没入させるために、宮本さんはあえてキャラクターになり過ぎない演技を心がけていた。
「『ゴジラ S.P』は物語が進むにつれて『実際に起こっていることなんじゃないか』と錯覚させられます。従来のゴジラシリーズにもそういった側面はありますが、円城さんの脚本がさらにリアリティーを濃くしていると思います。演じる上でもなるべくアニメキャラクターとしての色を濃くせず、あくまでも自然体なリアリティーを追求しました」
「会話のテンポ」を意識するために「言葉の理解」を追求
メイは“存在しない生物”の研究知識を生かして「ゴジラ」を含めた怪獣たちとの戦いに挑む。知識が豊富なので相手の言葉を理解するのが速く、思考の処理も速いのでコミュニケーション能力が高い。ゆえにメイというキャラクターを表現する上で会話のテンポがとても重要になってくる。SF作品への出演、「天才」という役を演じることはほとんど経験がなかった宮本さん。性格的なつくり込みはしなかったものの会話するシーンについて「すごく苦戦しました」と話す。
「これまで演じてきたキャラクターとメイちゃんでは考えて話すスピードが全く違って。普段、このキャラクターは何を思ってこの言葉を発するのだろう?と考えながらお芝居をしているのですが、メイちゃんの場合は脳と口が直結しています。考えるのと同時に言葉を発しているんです。しかも会話の中でも相手のセリフを聞いて理解しながら、次に自分が何を話すかを瞬時に把握しています。考えながらお芝居をするとメイちゃんではなくなってしまうので、その表現が難しかったです」
さらに、セリフの多くは専門的な用語だ。当然ながら宮本さん自身、本作に登場する専門用語のほとんどは初めて耳にするものばかり。なじみのない言葉を会話の中で自然と発さなければならない。そこで、宮本さんはとあることを徹底していた。それは「すべての用語を理解すること」だ。
「台本をいただいた段階で、知らない単語はすべて調べました。わけわからん……!と感じる箇所もたくさんあったのですが(苦笑)、自分もメイちゃんと同じように学習しておこうと思って。もちろん100%の理解はできていないかもしれません。でも、なぜメイちゃんがその回答にたどり着いたかの理解はできて、アフレコのマイク前でナチュラルに話せたと思います」
非現実的なキャラクターに声で視聴者にリアリティーを与える。対極の表現だからこそ、演じる上での難しさもあるはずだ。しかし、乗り越えることができたのはメイの相棒である犬型人工知能・ペロ2(ペロツー)役の久野美咲さんの存在も大きかった。
「研究者として一人で考えや意見を発していたら、きっともう少し硬い印象で人間らしさをあまり感じないキャラクターになっていたと思います。だけど、久野さんがとても素敵な方で自然と会話を進めることができました。ペロ2との掛け合いがメイちゃんの柔らかい印象を引き出し、人間らしさに繋げることができたのかなと思っています」
「誰でもゴジラの世界に踏み込める作品」
最後に『ゴジラ S.P』の見どころを聞くと「ゴジラの知識がない人でもゴジラファンでも楽しめる作品に仕上がっている」と語ってくれた。
「ゴジラを含めた怪獣たちの迫力は恐怖を感じつつとてもカッコいい。怪獣たちが大活躍するのでゴジラファンの方たちにとってはたまらないと思います。また、円城さんの世界観が存分に脚本へ入れ込まれているので、SF好きの方にも楽しんでいただけるのではないでしょうか。そして、アニメ作品ならではのキャラクターのポップさや軽快なテンポのため、ゴジラに詳しくない人でもいい意味で敷居が低くゴジラの世界に踏み込めるのが『ゴジラ S.P』の魅力です。さまざまな楽しみ方ができる作品なので、楽しんでいただきたいと思います」
「また、EDテーマ『青い』はポルカドットスティングレイさんがメイちゃんをイメージして曲をつくってくださったと伺いました。とっても爽やかで青春を感じる前向きな曲です。シリアスな物語の中で最後にグッと元気になれるような、好奇心を掻き立てられるような曲なので、ぜひEDまで見てもらえたらうれしいです」
(取材・文=阿部裕華 写真=鬼澤礼門)
プロフィール
宮本侑芽(みやもと・ゆめ)
1月22日生まれ。福岡県出身。劇団ひまわり所属。主な出演作に『SSSS.GRIDMAN』(宝多六花役)、『イエスタデイをうたって』(野中晴役)、アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』(二宮舞役)など。国内作品だけでなく海外作品の吹き替えにも数多く携わる。
作品情報
『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』
<放送・配信情報>
2021年4月1日(木)~ テレビ放送開始
毎週木曜22:30 TOKYO MX、KBS京都、BS11 /24:00 サンテレビ
2021年3月25日(木)~ Netflixにて国内配信開始(毎週木曜1話ずつ先行配信)
<キャスト>
神野銘:宮本侑芽 有川ユン:石毛翔弥
加藤侍:木内太郎 大滝吾郎:高木渉 金原さとみ:竹内絢子
ペロ2:久野美咲 ユング:釘宮理恵
佐藤隼也:阿座上洋平 山本常友:浦山迅 鹿子行江:小岩井ことり
海建宏:鈴村健一 李桂英:幸田夏穂 マキタ・K・中川:手塚ヒロミチ
ベイラ・バーン(BB):置鮎龍太郎 リーナ・バーン:小野寺瑠奈
マイケル・スティーブン:三宅健太 ティルダ・ミラー:磯辺万沙子 松原美保:志村知幸
<スタッフ>
監督:高橋敦史
シリーズ構成・脚本:円城塔
キャラクターデザイン原案:加藤和恵
キャラクターデザイン:石野聡
怪獣デザイン:山森英司
コンセプトアート:金子雄司
CGディレクター:池内隆一・越田祐史・鈴木正史
VFXディレクター:山本健介
軍事考証:小柳啓伍
美術デザイン:平澤晃弘
デザインワークス:上津康義
美術監督:横松紀彦 色彩設計:佐々木梓
撮影監督:若林優 編集:松原理恵
音楽:沢田完 音響監督:若林和弘
アニメーション制作:ボンズ×オレンジ
製作:東宝
<主題歌>
OP:『in case…』BiSH(※「…」の正式表記はピリオド三つです)
ED:『青い』ポルカドットスティングレイ
(C)2020 TOHO CO., LTD.
TVアニメ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』公式サイト
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