「反対派に学んで、考えを変えて何が悪い?」 社会派監督、宮本正樹が描く“面倒な世界” | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
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「反対派に学んで、考えを変えて何が悪い?」 社会派監督、宮本正樹が描く“面倒な世界”

2016年、英国で実施された国民投票はEU離脱派が勝利し、世界中を驚かせた。同じことを日本で「原発」をテーマにやってみたらどうなるか。政治と宗教の話は人前では避けたほうが良いとされるこの国で――。

映画「国民の選択」は、そんな仮想を映像化した意欲作だ。脚本と監督は社会派作品を撮り続ける宮本正樹。前作「第九条」(2016)では、憲法9条の賛否について激論を交わす若者たちを描き、鮮烈な印象を残した。今作では原発推進派と反対派を戦わせる。

「原発の問題は全容解明にはほど遠いですが、発生直後にはわからなかった事実が次々と明らかになっています。ところが、それと反比例するように世間の関心はどんどん薄れていっている。政権は賛意が広がらないまま再稼働を推し進めようとしていますが、世間の関心の薄さがそれを許しているような気がしてならない。その状況を変えたいという思いが、映画作りの強い動機になりました」(宮本監督、以下同)

「反対派に学んで、考えを変えて何が悪い?」 社会派監督、宮本正樹が描く“面倒な世界”

宮本正樹監督

舞台は原発が立地する、とある町。ある日、国会で原発禁止を定める憲法改正案が発議され、「国民投票」の実施が決定する。

「我が高橋家は全員〈原発賛成〉に票を入れること」。原発マネーを“血液”とするこの町で長年町議を務める高橋明は、家族にも当然のように原発賛成を求める。

原発事情には全く詳しくないものの、明の一方的な押しつけに不信感を覚える娘。妊娠中の婚約者から子供への悪影響を心配され、「原発賛成」から気持ちが揺らぎ始める息子の敦。原発を町の一部として特別意識せずに過ごしてきた若者2人は、自らの意思を示すことを迫られ、それぞれの答えを出していく。

「反対派に学んで、考えを変えて何が悪い?」 社会派監督、宮本正樹が描く“面倒な世界”

(C) 2021映画「国民の選択」製作委員会

この映画のモチーフである「国民投票」は、日本では憲法改正の手続きの一つとして規定されている。宮本はそれを、若い世代に社会問題への当事者意識を持たせるための装置として使った。

「今の学生や若い人たちって、面倒なことは徹底的に避けようとするし、自分に直接危害が及ばない限り、現状維持を望む傾向があるように感じます。『何で安倍さんを支持するの?』と聞くと、『今、何も問題ないですよね。このままで良くないですか?』って。都心で暮らしていると原発もどこか遠い話に感じてしまう。そんな空気を少しでも変えたくて、考えた末にたどり着いたのが国民投票でした。日本でも住民投票は少なからず行われていますし、そういうきっかけがあれば若い人も社会問題に関心を持つんじゃないかと」

かくして映画では若者たちが「面倒なこと」について話し合う。「反原発」で一致してはしゃぐカップルもいれば、意見が合わない同僚に捨てぜりふを吐き、関係を断とうとする者もいる。まるでツイッターの「ブロック」。案の定、面倒な話し合いは、面倒な事態を引き起こす。

「悪例としてそういう場面も描きました。俗に言う『分断』。現実問題として、彼氏がトランプ支持者で、彼女が反対派なら、恋人関係を維持するのはかなり難しいでしょう。でも、僕はそこにあらがいたい。前作で憲法9条を取り上げたとき、僕は護憲派ですが、9条改正派の意見に新鮮な驚きを感じ、知識も増えました。自分と異なる意見には大きな学びがある」

「反対派に学んで、考えを変えて何が悪い?」 社会派監督、宮本正樹が描く“面倒な世界”

(C) 2021映画「国民の選択」製作委員会

そうは言っても、今の日本社会で異なる意見に耳を傾けることは簡単ではない。首尾一貫した態度を取らないと信用を失うこともあるからだ。宮本はそんな風潮にも疑問を感じている。

「日本には、意見をころころ変える人を風見鶏扱いして、どこかさげすむ文化がありますよね。これは本当に良くないと思います。人の意見を聞いて、自分の主張を変えても良いじゃないですか。そういう柔軟性が認められないと、議論はたちまち勝ち負けを競うものになってしまう。それが嫌でみんな面倒な話し合いを避けていますよね。本来、真面目に考えて意見が変わるのは全く問題ないことです」

映画の内容は疑ってもらって構わない

映画の主人公・敦は、原発の是非に自分なりの答えを出すため、豊富な知識を備える先輩と話し合い、学者が開く勉強会にも参加する。化石燃料の残量や地球温暖化の真相、放射線の人体へのリスク。専門的な話が飛び交う場に身を置き、敦は原発の怖さを理解していく。

作品全体に宮本の反原発の思想が強く反映されているが、宮本は批判的な見方も歓迎する。

「『この映画の内容、本当?』って疑ってもらって構いません。映画の内容が疑わしいと思ったら、自分で調べて真偽を確かめますよね。それはもう、この問題に関心を持っているということですよ」

誰もが社会的な事案に関心を持ち、民意が社会を動かすボトムアップの国に生まれ変わることが、宮本の理想だ。

「反対派に学んで、考えを変えて何が悪い?」 社会派監督、宮本正樹が描く“面倒な世界”

(C) 2021映画「国民の選択」製作委員会

ちなみに当初の脚本では、正力松太郎、中曽根康弘、オウム真理教といった固有名詞も作中で批判的に取り上げるつもりだったという。「映画がお蔵入りしては元も子もないので、少し内容を丸くしました(笑)」

いつか幻の過激版も見られる日が来るだろうか。今のところ製作の予定はないようだが、宮本が社会に一石を投じる作品を撮り続ける限り、その可能性はゼロではないだろう。

「今回の作品は業界の潮流にも沿ってないし、スポンサーに敬遠されるからテレビでも流せないでしょう。それでいいと思います。だって、売れ線ばかりが作られ、映画業界が似たような作品で埋め尽くされても面白くないでしょ。僕はこれからも他の人が撮らないであろう題材を、映画でしか扱えない題材を追っていくつもりです」

(文=下元陽 トップ画像=(C)2021映画「国民の選択」製作委員会 文中敬称略)

 

作品情報

「反対派に学んで、考えを変えて何が悪い?」 社会派監督、宮本正樹が描く“面倒な世界”

『国民の選択』

キャスト:水石亜飛夢、妹尾青洸、松永有紗、みょんふぁ、藤原啓児、泉はる、白石康介、犬飼直紀、南圭介

監督・脚本:宮本正樹
プロデューサー:佐伯寛之
製作国:日本
企画・製作・配給:ディレクタースカンパニー
制作協力:トキメディアワークス
配給協力:ユナイテッドエンタテインメント
技術:カラー
リンク:公式サイト

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