小西真奈美さん「ごちゃごちゃ考える前に、やっちゃえ! 歌っちゃえ!」やらない後悔は、したくないから
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独特の透明感と、ふんわり柔らかいイメージで、舞台、映画、ドラマ、CMに活躍してきた小西真奈美さん。その彼女がラップに挑戦し、CDアルバムまでリリースしていたと聞けば、驚く人も多いだろう。今回発売となった2枚目のアルバムでは、音楽最前線にいる個性的なプロデューサー陣とタッグを組み、更に多彩な顔を見せている。「やらない後悔はしたくない」――。澄んでいて、よく通る声で発せられる彼女の言葉からは、演じてきた役柄のイメージとは違う、力強い素顔がのぞく。
考える前に、やっちゃえ! 歌っちゃえ!
11月25日に発売された新作アルバムのタイトル「Cure」の意味は「治す」。「音楽は自分の背中を押してくれるもので、同時にある種の治療薬」という自身の思いを込めた。自ら作詞、作曲した「Don’t be afraid」の冒頭の歌詞は、「怖がらないで/不安は私がうけとめる」「どこにいたって/君を想っているから/感じていて/ひとりじゃないと」――。それは、コロナ禍の中にいる私たちへの応援歌のように聞こえる。
今回のアルバムは、亀田誠治、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)らをプロデューサーに迎え、制作された。
「コロナ禍で制約がある中だったからこそ、誰かと共に何かを作っていくことの貴重さを、あらためて感じました。私自身が音楽に救われてきた人間なので、このアルバムを聴いてくださる方が、少しでも励まされるといいな、と」
彼女は2016年、38歳の時に本人名義で歌手デビュー、そして新たにラップに挑戦している。曲は日本ヒップホップ界の先駆者、KREVAの「トランキライザー」のカバー。日ごろからよく口ずさんでいた曲だったが、本人を前にリハーサルで歌った時は、恐れ多くて冷や汗ものだったという。
「それでも、尊敬するKREVAさんから『いいんじゃない?』と褒められたことで、うれしくなっちゃって。ごちゃごちゃ考える前に、やっちゃえ! 歌っちゃえ!って」
ラップは「社会へ抵抗する表現」というイメージが強いが、彼女は持ち前のキャンディーボイスでしなやかな一曲にしあげた。「人の目は気にしない。ものごとを、こうあるべきと決めつけない」という、ヒップホップにも通ずる彼女のスピリットは、今回の「Cure」にも結びついている。
「人生を振り返った時に、やって失敗したことより、やらなかったことを後悔する方がイヤですよね。私自身、失敗は何回もあって、その時は落ち込みますが、失敗から何かを学べば、それが次のチャンスにつながっていくと信じているんです」
無我夢中って、こういうことなんだ
俳優としてのキャリアは、すでに21年になる。芸能界に入るきっかけは、モデルにスカウトされたことだったが、その後、劇作家、つかこうへいが主宰する「北区つかこうへい劇団」に参加。つか演出の舞台でデビューし、翌年には20歳でつかの代表作「蒲田行進曲」のヒロインに抜擢(ばってき)され、俳優の途(みち)が開けていった。
「役を演じることに興味があったというよりも、舞台に立つ機会をいただいて、挑戦してみたら、その先にすばらしい世界があった、という感じ。何も知らないまま飛び込んだはいいけれど、あまりのプレッシャーに胃が痛くなる間もなく、『無我夢中』とはこういうことかと知って」
つかは、予定調和を嫌い、セリフを毎日変えてきた。ライブ感を出すために、アドリブを俳優に委ねることもあり、限界まで力を試された。
「そうやって多くの方々と作った作品が、誰かを元気づけたり、何かの助けになったり。演劇の現場を経験して、役を演じ、何かを表現する仕事って尊いなと、心の底から思いました。その思いが今も続いているのですね」
カラッとした笑いにのぞくように、素顔は気さくだ。生まれ育った鹿児島県薩摩川内市は豊かな自然に囲まれた土地で、おままごとよりも、探検ごっこを好む少女だった。
常に新しい刺激を求める性質は、大人になってからも同じ。だからこそ大勢の熱気で作り上げていく演劇や映画の世界に、居場所がぴったりと定まったのだろう。
「でも、同時にひとりで過ごす時間も同じくらい好きなんです。あまり両極端にいかないように、両方のバランスを取ることは、いつも大切にしていますね」
疲れたら、いったん全部手放して
コロナ禍での自粛期間中にも、様々な気づきがあったという。
「世界の動きがいったん止まるって、考えてみればすごい事態ですよね。それによって人々の不安は増大しましたが、一方で川がきれいになったり、空が青くなったり」
「私も好きなCDを引っ張り出して、歌詞をじっくり読むという、普段は忘れていた時間を取り戻しました。そこから、やっぱり音楽が好き、という気持ちも確認できました」
「Cure」の中でも、小西さんが作詞、作曲を手がけた「アンリーシュ」では、「Am I cool?(私ってカッコいい?)」「Do I need to change?(変化って必要ある?)」と、「こうあるべき」への疑問を投げかけ、それらをアンリーシュ(解放)しようと歌っている。
「コロナでの閉塞(へいそく)感もそうですし、特に最近はSNSの影響で、世の中が窮屈になって、人の気持ちにひずみが出ているな、と。知らないうちに不安や恐れが増えて、そこから逃れるために、つい人をジャッジしたり、何かを分断しようとしたり。でも疲れたら、いったん全部手放していい。そこから新しい感覚が生まれていくんだよ、と呼びかけたいんです」
それは自分自身を励ます言葉でもあった。
そんな小西さんが還(かえ)る「明日のわたし」は、子どものころから変わらない自分。
「好奇心が旺盛で、怖がりだけど行動力があり、失敗を恐れない」
スパッと分析した後で、ひと言。
「我ながら単純ですねー。もうちょっと深みがあってもいいかなあ(笑)。でも100歳社会といわれているから、深みは50歳、60歳の目標にすればいいか」
最後にまた、カラリと笑った。
(文・清野由美 写真・馬場磨貴)
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小西真奈美(俳優・歌手)
1978年生まれ。98年、つかこうへい演出の舞台『寝盗られ宗介』でデビュー。99年、同氏演出の舞台『蒲田行進曲』でヒロインを務める。2002年公開の初出演映画『阿弥陀堂だより』では、病で話のできない女性という難役を演じて日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も『Sweet Rain 死神の精度』『東京公園』をはじめ、俳優として数々の映画、ドラマ、CMに出演。2016年、スタジオトリビュートアルバム『monday night studio® session』にKREVAの「トランキライザー」のカバーで参加。17年、インディーズでEP「I miss you」と、亀田誠治プロデュースのシングル「君とクリスマス」「クリスマスプレゼント」を発表。18年、全曲自身で作詞作曲を行ったファーストアルバム「Here We Go」で、ビクターよりメジャーデビュー。20年11月、セカンドアルバム「Cure」が、ユニバーサル・ミュージックより発売。https://www.konishimanami.com/
![小西真奈美さん「ごちゃごちゃ考える前に、やっちゃえ! 歌っちゃえ!」やらない後悔は、したくないから](https://www.asahicom.jp/and/w/wp-content/uploads/2020/11/fa20b1145de40c01c3cfc3a991fd72ec.jpg)
左が初回限定盤ジャケット、右が通常盤ジャケット
『Cure』(初回限定盤 3500円、通常盤 2800円、いずれも税別)
2020年11月25日にユニバーサル・ミュージックより発売。「等身大の大人のポップ・アルバム」をテーマ に、亀田誠治、後藤正文、堀込高樹、Kan Sano の4人のプロデューサーを迎え、それぞれがオリジナルとカバーを 1 曲ずつ手掛けた。音楽は勇気を与え、背中を押してくれるものであり、ある種の治療薬である、という小西真奈美の思いが込められている。初回限定盤には亀田誠治プロデュースの「君とはもう逢えなくても」のミュージックビデオと、そのメイキングを収録している。
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