コロナ時代を乗り越える連帯 第77回ベネチア国際映画祭
世界三大映画祭のひとつ、第77回ベネチア国際映画祭が9月2日からイタリアのリド島で始まりました。新型コロナウイルスの世界的大流行で各地の映画イベントが休止や延期に追い込まれるなか、主要映画祭が通常通りのメニューで開かれるのはこれが初めて。厳重な感染対策の下、ポスト・コロナ時代の映画のあり方を考える場となりました。
最高賞の金獅子賞を競うメインコンペティションには地元イタリアのジャンフランコ・ロッシ、米国のクロエ・ジャオ、フランスのニコール・ガルシア、イスラエルのアモス・ギタイ、イランのマジッド・マジディの新作など18本が参加。日本からは蒼井優と高橋一生が共演する黒沢清監督の「スパイの妻」(10月16日公開)が選ばれました。ハリウッド映画の相次ぐ公開日程延期で、昨年の「ジョーカー」「アド・アストラ」のようなオスカーを狙う大作は姿を消したものの、前回は2本だけだった女性監督作品は8本に増加。多彩な地域の注目監督が並ぶ意欲的なラインナップとなっています。
審査委員長はケイト・ブランシェット
メインコンペの審査委員長は、一昨年にカンヌ国際映画祭の委員長も務めたケイト・ブランシェット。ロックダウン中は農場で家族と隔離生活を送っていたといい、記者会見では「この半年間はニワトリや豚と会話していたので、大人と話ができてうれしいです」と切り出し会場の笑いを誘いました。
映画祭の開催については、「主催者の創意工夫と回復力、協力態勢を讃(たた)えたい。私たちは安全かつ慎重に再スタートしなければなりません。困難きわまりない状況下で映画を完成させなければならなかった作り手たちを支援し、連帯するために私たちはここにいます」と語り、映画界の再起に期待を込めました。
質疑では、コロナ禍による映画館の苦境やストリーミング配信の台頭、世界のパンデミック対策なども話題に。ベルリン国際映画祭が来年から男優賞・女優賞を廃止し、性別にとらわれない「主演賞」「助演賞」に改めたことについて感想を求められたブランシェットは、「私自身は常に自分を『俳優』と称しています」と返答。「私たちの世代にとって、女優という言葉はほぼ必ず侮蔑的な意味で使われました。なので、違うかたちを求めたい」「優れた演技は、演じる人物の性的指向とは関係なく、いいものだと思っています」と、性的中立性を重んじる判断を支持しました。
欧州の主要映画祭のトップが結集
今年はパンデミックの影響で5月のカンヌ国際映画祭が実質的な休止に。その後も多くの映画祭が休止やオンライン開催などを余儀なくされ、映画館の営業や新作の撮影にも深刻な影響が出ています。日本でも10月末の東京国際映画祭は従来のコンペ部門を休止し、観客賞のみの縮小開催とすることが決まっています。
こうした苦境を受けて、開会式には欧州の主要映画祭の代表が集まり、連帯を表明。参加したのはカンヌ(フランス)、ベルリン(ドイツ)、ロッテルダム(オランダ)、サンセバスチャン(スペイン)、ロカルノ(スイス)、カルロビバリ(チェコ)、ロンドン(英国)とベネチアのディレクター。「映画祭は単なる宣伝用のショーケースではなく、文化の中心地、若い監督の教育の場、観客に文化的な発見をもたらす機会となっている」との声明を読み上げ、映画祭への理解と支援を求めました。
開会式のハイライトは、ティルダ・スウィントンへの名誉金獅子賞(生涯功労賞)の贈呈セレモニー。ペドロ・アルモドバル監督と初タッグを組んだ新作が上映されるスウィントンは、ケイト・ブランシェットから金獅子像を受け取り、彼女らしいウィットに富んだ表現でスピーチ。映画を「魂を守る最良の個人的防具」だとたたえ、先月末に死去したチャドウィック・ボーズマンの主演作「ブラックパンサー」にちなんで、「ベネチア万歳! シネマ・シネマ・シネマ! ワカンダ・フォーエバー! 愛こそすべて!」と高らかに宣言すると、客席から熱いスタンディングオベーションが沸き起こりました。
映画祭の「ニュー・ノーマル」を探って
例年は見物客でごった返すメイン会場周辺には壁が設けられ、厳しい入場規制が行われています。欧州圏以外からのイタリア入国が難しいこともあって、参加者も激減。来場者にはマスク着用や検温、手指の消毒が義務付けられ、客席の定員は50%に削減されました。ゲストがマスク姿でレッドカーペットに登場する光景は、これからの「ニューノーマル」になるのでしょうか。受賞結果は最終日の9月12日に発表されます。
(構成・文 深津純子)