(19) 永瀬正敏、光の魔術師を切り取った 映画「パターソン」ロケ地で
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回から舞台はアメリカへ。映画撮影の合間に、永瀬さんがこの男性を撮った、そのわけは。
ジム・ジャームッシュ監督の映画「パターソン」に出演するため渡米した2015年、映画撮影の合間に僕が撮った、スタッフのポートレートの1枚だ。この方は、撮影監督のフレデリック・エルムズさん。デヴィッド・リンチ監督の「イレイザーヘッド」や「ブルーベルベット」など、僕が大好きな映画をたくさん撮っておられる。
だから、出演が決まり、いただいたスタッフ資料にエルムズさんの名前を見つけたときは、「おおっ」と思わず声をもらした。彼と一緒に仕事ができることを楽しみに現地へ向かい、この機会に、どうしてもポートレートを撮らせてほしいとお願いして、快諾していただいた。
映画の撮影現場では、スタッフの方々のたたずまいがとてもすてきな瞬間がある。たとえば、次のシーンの段取りをしている時や真剣に準備を進めている時。映画は一瞬一瞬の積み重ねだ。それぞれの、ほんの何秒かに賭けている姿勢や表情にひかれ、僕ら俳優ではなく、あの人たちを撮ったほうがいいのではないか?と思う瞬間が多々ある。
なかでも、撮影監督は光の魔術師だ。瞳に宿る意思の強さが違う。そういう方の写真を撮るだけに、光のあたり具合がとても気になった。室内の自然光で、わずか5分ほどの間に撮った写真だったが、改めて見ると、やはり、最高にいい表情をなさっている。