(12) 「眠れない街」に放っておかれて 永瀬正敏が撮ったカンヌ
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。撮ったのは、南仏カンヌの花でした。
路地にある花屋には見えない建物の前に、歩道をふさぎ車道にまではみ出して置かれていた花たち。車が来たら引っかけてしまいそうなくらいに。2017年、国際映画祭開催中のカンヌの街で見かけた。
この映画祭では、ノミネートされた映画ごとのパーティーが1回は開かれ、国ごとのパーティーなどもあるため、映画祭参加者にとっては「眠れない街」になる。いかにも、そのパーティーを彩るためという風情の花だった。
花たちの、出番を待っている感じがいいなと思う一方で、出番が来るまで放っておかれているのがちょっと切ない。この時は、モノクロフィルムを入れたカメラも持っていたのに、モノクロでは撮っていない。これはカラーで、と思ったのだろう。
カンヌ国際映画祭の会場では、花をよく見かける。ゴージャスに飾っているところもあれば、一輪だけ差してあるところもあるが、生け方や置き方が粋なので感心する。花は、この映画祭の大事な「参加者」なのかもしれない。