(10) 緒形拳さんを思い出した 永瀬正敏が撮った雪と漁船
雪の漁港を撮りたいと思って出かけた青森県の外ケ浜町で、雪が積もった舟を見かけた。近くには、漁師さんが物置に使うような小屋もあった。改めて見ると、僕が主演した映画「赤い雪」の一場面を、どことなく思わせる。
青森の港町は、北欧っぽいと思う。この場所ではないけれど、壁とか屋根がパステル調の家が目についたからだ。雪が降っても目立つからかもしれないが、その色合いが、フィンランドやノルウェーの映画で見た景色に近い。
僕は、地方に行くと映画が撮りたくなる。僕が九州の中でも田舎の方の出身で、東京生まれの東京育ちではないからかもしれない。地方の方が、色っぽいな、と感じるのだ。ちょっとした風景を見ただけで、物語が頭に浮かんでくる。
映画「魚影の群れ」で緒形拳さんが演じたような漁師さんがいて、奥さんとは早くに死に別れている。けがで長いこと漁に出られないが、準備は怠らない。そこへ都会から若い女性が訪れて……。実に、想像力をかき立てる風景だ。